イスラエルのクネセット(国会)が司法制度改革案を可決:国会外では数千人が反対デモ 2025.3.27

(Photo: Knesset)

政府と司法との対立:司法制度改革案可決

(Dudu Bachar/POOL)

イスラエルでは、先週、ネタニヤフ首相とその政府が、これまでハマスとの交渉を担っていた代表団の一人、シンベト(国内諜報局)のロネン・バル長官の解任を決めた。

すると、政府、国会が決めたことを却下する権利を持つ司法、そのトップの一人であるガリ・バハラブ・ミアラ検事総長が、これを差し止めると発表し、政府と司法との対立が深まった。

このタイミングで、政府は、以前より、司法が、選挙で選ばれた政府の決定を覆す形を是正しようと、司法制度改革法案を持ち出し、国会で審議を行うと発表した。

この法案は、以前に賛否両論で、国に分断をもたらしていた案である。戦争で一時棚上げとなっていたが、ネタニヤフ首相は、それを今再燃させた形であった。

これが可決されると、ミアラ検事総長の解任も可能になる。一方で、汚職で追訴されているネタニヤフ首相を、司法が解任を命じることはできなくなる。

ネタニヤフ首相がこれを今、この時に審議すると言ったのは、トランプ大統領の後押しで右派政権が波に乗っていること。

また、今月初頭に極右政党のベン・グヴィル氏が政権に復帰し、同時にユダヤ教政党も離脱を思いとどまると発表したことで、政権与党が、国会で余裕の過半数になっていることが考えられる。

国会では、26日(水)午後12時半から夜を徹して18時間、審議が行われ、朝方に採択されたところ、野党議員が、ボイコットしてため、賛成67、反対1となり、可決となった。反対票1を投じた議員は後に、間違って反対票を投じたと述べたとのこと。つまり、賛成67、反対0である。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/knesset-passes-contentious-law-to-increase-political-control-over-judicial-appointments/

これからどうなるのか

Pool photo by Abir Sultan

この法案により、裁判官を選出する司法選考委員会のシステムが変わることになる。この委員会は9人からなっている。

その9人は、最高裁判所所長とその判事2人、法務大臣(議長)と政府が選んだもう一人の大臣、国会議員2人(1人は与党、1人は野党)10年以上の経歴を持つ弁護士2人となる。

この法案では拒否権の行使についても変更を加えている。

裁判官を選出するシステムが変わり、政府よりの人が少なくとも3人になること、また拒否権の行使で、結果的に政府が司法に影響力を及ぼすことが可能になる。ミアラ検事総長は、これでは、司法の独立性が保てないと反論していた。

国会前反対デモ数千人

Protests outside the Knesset during the vote (Photo: Reuters)

この審議が行われ、投票が行われていた間、国会前では、数千人が、これに反対するデモを行っていた。

テルアビブとエルサレムをつなぐ、国道1号線を封鎖し、火を燃やして反発を訴える様子もあった。デモには、野党のベニー・ガンツ氏も参加していた。

これほどの反対がある中で、強引にこの法案が通ったということである。

www.ynetnews.com/article/h1rpyvfakg

www.timesofisrael.com/thousands-protest-outside-knesset-ahead-of-final-votes-on-controversial-judicial-bill/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。