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イスラエル:女子テコンドーで銅メダル
オリンピック4日目。イスラエルでは、テコンドー(49kg女子)のアビシャグ・センベルグ選手(19)が、決勝でトルコの選手を破って、銅メダルを獲得。ベネット首相もツイッターで祝いのことばをアップした。その後は、イスラエルは惜しくもメダル逃すというニュースが続いている。
www.timesofisrael.com/first-tokyo-medal-avishag-semberg-takes-taekwondo-bronze-israels-1st-in-sport/
こうした中、通常は、イスラエルと敵対づる国々のチームに関する話題も気になるところである。紛争とオリンピックを並行して書くのは、その主義に反するので、不快に思われる方には先に謝罪する。
ただ、ここでは、それぞれの選手が抱える本国の諸事情を理解することや、その諸事情を超えて、世界が一堂に会している、オリンピックのスケールの大きさを理解する目的でまとめることとした。
イラン:イラン革命防衛隊軍(IRGC)看護師が射撃で金メダル
1)イランの金メダル
イランからは、66人の選手が、17種目に出場する。これまでに射撃男子10mエアーピストルで、ヤワッド・フォロウチ選手(41)が金メダルを獲得した。
ファロウチ選手は、敬虔なシーア派イスラム教徒で、イラン革命防衛隊で働く看護師。内戦のシリア、パルミラの野戦病院で働いた経験もある。金メダル獲得の際にイランの国歌が流れると、軍式の敬礼をした。射撃はわずか4年前からの訓練で、今回、金メダルとなったという。
またファロウチ選手は、現在は、テヘランの病院でコロナと戦っている。イランの毎日の新たな感染者は2万人以上。死者も毎日200人以上で、累計8万8000人以上が死亡している。金メダル受賞は、テヘランの病院でも喜びを持って報じられた。
しかし、同時に、ファロウチ選手が、アメリカ政府がテロ組織と指定するイラン革命防衛隊の関係者出会ったことから、イラン国内からは、オリンピックが金メダルを授与したことに疑問の声もあがっている。
www.timesofisrael.com/iran-revolutionary-guards-nurse-wins-olympic-gold-medal-in-shooting/
2)イランの現状:政権と市民の不一致?
イランでは8月に強硬派と目されるライシ大統領の就任が決まっている。それまでは、JCPOAを通じたアメリカとの核開発に関する間接交渉は停止した状態にある。イランのウランの濃縮は限りなく核兵器の90%に近くなっているとみられ、イスラエルはじめ、アメリカや国際社会では緊張が続いている。
こうした中、イスラエルは、イスラエルと国境を接するシリアに進出してくるイラン軍を警戒し、それらへの攻撃は昨今、かなり頻回になっている。(攻撃したかどうか、イスラエルは名言はしていない)
これまでに、イラン配下、ヒズボラの司令官が死亡したとのニュースが入っている。イスラエルとの大規模な衝突を避けるためか、ロシアが、シリア上空への侵入を停止する可能性が出るなどの動きになり始めている。
国内もかなり不安定である。コロナ蔓延と旱魃への対策が不十分であるなどして、現政権への反発デモが各地で散発。金メダルをとったファロウチ選手についても、イラン革命軍(アメリカがテロ組織と認定)に関係しているとして、国内の人権団体からは、このメダル受賞を非難する声もある。
今月中旬、かつて反政府デモで政府から死刑宣告された後、イランからアメリカへ亡命したアフマド・バテビーさんが、イラン系ユダヤ人のエリー・コハビさんとともに、イスラエルへの初めての訪問を果たした。イラン市民の声として、政権と市民は違うと強調。イスラエルへの友好の思いを語っている。
3)イスラエル人とイラン人コーチが握手
イスラエルとイランの厳しい敵対関係の中、チェコのバスケットボール男子チームのコーチを務めるイスラエル人、ロネン・ギンズバーグさんが、25日、チェコとイランが対戦した試合の前後で、イラン・チームのメフラン・シャヒンタブさんと握手を交わした。
ギンズバーグさんが、イスラエルのチームのコーチではなく、チェコのコーチであったから、イランチームのコーチと握手できたのかもしれないが、イスラエルでは、メディア各社が、このことを大きく報じていた。
なお、この試合ではチェコがイランを84-87で打ち破っている。イランのチームは、明日、アメリカのチームと対戦する。こちらも敵対するチーム同士の対戦である。
イスラエルとアラブ諸国とののスポーツにおける対戦については、これまでからもさまざまな課題があった。2019年、柔道で、イランのムラエイ選手が政府にイスラエルとの対戦を避けるよう指示されたことや、2016年のリオ・オリンピックでは、柔道でイスラエル人選手と戦って負けたエジプト人選手が、試合後に握手を拒否するなどが、記録に残されている。
今回のオリンピックでも、アルジェリアの柔道の選手が、イスラエルの選手との対戦を拒否したため、出場失格とされ、帰国させられている。
パレスチナ:ガザの重量挙げ選手10位以内めざす
1)ガザから重量挙げ選手(19)
パレスチナからの選手は、5人が4種目(陸上女子、柔道、水泳、重量挙げ)に出場する。出身地は、ガザ、西岸地区、東エルサレム、カナダとなっている。今回は全員が、優秀な成績ではなく、国代表として出場するという、いわゆる「ワイルド・カード」での参加である。パレスチナは、自治政府ができた以降、1996年のオリンピックから出場している。
www.timesofisrael.com/palestinian-olympians-from-gaza-canada-us-jerusalem-compete-in-tokyo/
今回注目されているのが、ガザ出身の男子重量挙げのモハンマド・ハマダ選手(19)。パレスチナから重量挙げに出場するのは今回のオリンピックが初。ハマダ選手は、2019年から6つの国際競技大会に出場しており、今回のオリンピックでは、10位までに入ると、活躍が期待されている。
しかし、ハマダ選手が在住するガザ地区では、国境をエジプトとイスラエル、そしてハマスにも管理されている。このため出国でトラブルにならないよう、ハマダ選手とその兄(ハマダ選手のコーチ)は、カタールのドーハでに出て、最終調整を行った。東京に着いたのは7月20日であった。
ハマダ選手は、ガザには、訓練のための十分な施設がなく、なかなか国際大会にも出場しにくいという。そうした中で、ハマダ選手が数々の国際大会に出場し、メダルやトロフィーを持ち帰っていることは家族にとっても大きな誇りとなっている。
ハマダ選手は、東京オリンピックでは、全力を尽くして10位以内に入り、目立ちたいと語っている。以下はロイターのクリップ。「Free Palestine(パレスチナに自由を)」と書いたTシャツを来て、トレーニングするハマダ選手の様子。
2)ガザ地区の現状:ハマスに苦しめられる市民
ハマダ選手の故郷、ガザとイスラエルは、非常に危うい停戦合意によってかろうじて平穏が保たれている。しかし、この週末、ガザから火炎風船がイスラエル南部を攻撃してきたため、イスラエルが、ガザへの空爆を行ったところである。
www.timesofisrael.com/idf-strikes-gaza-after-incendiary-balloons-spark-fires-in-south/
また、ガザでは、オリンピック開幕の1日前22日、市場でハマスの武器保管庫とみられる場所が暴発し、ガザの市民1人(69)が死亡。14人が負傷した。この事件で、ハマスが市民の居住地に武器を蓄積していることの証明でもあり、人権団体は、詳細をハマスにもとめているが返答はないとのこと。東京にいるハマダ選手兄弟にとっては、心配なニュースであったことと思う。
西岸地区でもパレスチナ人とイスラエル軍の衝突が散発しており、パレスチナ人の間に死者も出ている。
www.timesofisrael.com/pa-palestinian-teen-killed-by-idf-live-fire-during-west-bank-clashes/
レバノン:国家経済崩壊の危機の中で
1)政府ではなく、レバノンの同胞のためにメダルを
イスラエルと北部で国境を接するレバノン。昨年のベイルート港での大爆発以来、すでに危うかった経済の悪化に拍車がかかり、国家経済の崩壊も近いと言われている。経済や能力のある日人は、続々と国を離れていっている。
こうした危機的な状況にあるレバノンからも、東京オリンピックには6人が5種目で出場する。
期待がかかるのは、女子射撃選手のレイ・バシルさん(32)。バシルさんは、昨年、一時コロナに感染したが、回復してからは、町がロックダウンの中、アパートの地下駐車場で練習したとのこと。その後、イタリアで訓練を受けた。
しかし、レバノンの今の困難は「現金がない(レバノン貨幣の価値がゴミレベル)」ということである。東京へ来ることができたのは、レバノンやイタリアの人々の支援があってのことであったという。「参加するだけでなく、メダルをとって、経済が崩壊する祖国の人々に希望をもたらしたい。メダルは私のためであり、家族のためであり、レバノンの人々のため。政府のためではない。」と語っている。
2)レバノンとイスラエルの現状
オリンピックが開催される前日、レバノンからイスラエルに2人が不法侵入した。イスラエル北部では、一時、外出禁止となり緊張したが、まもなく侵入者2人は身柄を確保された。2人は、武装組織ではなく、イスラエルで働こうとしていた市民であったもようである。
このレバノンの経済崩壊危機にあって、イスラエルが懸念しているのがヒズボラの出方である。先週初頭、レバノンから2発のミサイル攻撃があった。被害はなかったが、イスラエルはきっちりと反撃を行っている。
www.timesofisrael.com/troops-hunting-for-suspects-who-crossed-into-israel-from-lebanon/
石のひとりごと
オリンピック開会式をみていると、地球にはこれほど多くの違う人々がいるということにあらためて感動であった。これが主が見ておられる世界なのである。地球にいる人間、それらをすべて納めておられる主は、ほんとうに大きいお方だと改めて実感する。
また、調べてみるなかで、イスラエルを敵視している国々、イラン、パレスチナ、レバノン、この全ての国において、人々は苦し身の中におり、現政権に満足していないということである。レバノンの選手がメダルをとっても、それは国の栄光ではなく、国民の栄光だと言っていることが印象的だった。
オリンピック参加205の国と地域の中には、平和で経済的にも恵まれている国もあれば、こうした非常に厳しい生活を強いられている国もある。練習に集中できた選手も、練習する環境になかった選手もいる。それらは表にはほとんど見えてこないものである。
しかし、そうした不公平なセッティングへの不満が、選手たちから聞こえてきたことはない。それぞれが、とにかくメダルにむかってただただ走るだけである。結局のところ、条件はどうあれ、最終的にはメダルをとることが大事なのである。その姿からはパウロのことばが思い出される。
競技場で走る人たちは、みな走っても、賞を受けるのはただひとりだ、ということを知っているでしょう。ですから、あなたがたも、賞を受けられるように走りなさい。また闘技をする者は、あらゆることについて自制します。彼らは朽ちる冠を受けるためにそうするのですが、私たちは朽ちない冠を受けるためにそうするのです。
ですから、私は決勝点がどこかわからないような走り方はしていません。空を打つような拳闘もしてはいません。私は自分のからだを打ちたたいて従わせます。それは、私が他の人に宣べ伝えておきながら、自分自身が失格者になるようなことのないためです。 (聖書:第一コリント9:24-27)
兄弟たちよ。私は、自分はすでに捕らえたなどと考えてはいません。ただこの一事に励んでいます。すなわち、うしろのものを忘れ、ひたむきに前のものに向かって進み、キリスト・イエスにおいて上に召してくださる神の栄冠を得るために、目標をめざして一心に走っているのです。 (ピリピ3:13-14)
すべてをかけて、オリンピックにきた選手たち。オリンピックに出られる状況にはないのに来ている選手たち。本気でやれば道は開けるということともに、彼らのその背後にある、文字にならない努力と今の戦いの様子、それでも負けるかもしれないという勝負の厳しさから、自分に与えられている仕事への真剣度と自制を思わされ、身がひきしまる思いがしている。