イスラエルが今引き下がるべきでない理由:アミール・アヴィヴィ元IDF准将2024.7.19

ガザのイスラエル軍 IDF

アミール・アヴィヴィもとIDF准将による現状分析

先月、ガンツ元防衛相が戦時内閣を離脱したあと、その内閣は解散とされ、今は新たな戦時下内閣で国の方針が決められている。ガンツ防衛相たちは、とりあえずは、ハマスとの交渉で人質を奪回することが先決だとの考えを推進していた。

しかし、ネタニヤフ首相は、交渉を進めると言いながらも、ガザへの攻撃はやめない方針を貫いていた。ガンツ氏が戦時内閣からいなくなった今、ネタニヤフ首相は、ガザへの攻撃、また北部ヒズボラへの攻撃にも拍車をかけている様相にある。

イスラエル国内では、人質家族をはじめとする左派系の、またイスラエル軍からも、ハマスの殲滅は不可能か、何年もかかるとして、これに反対を表明している。

しかし、イスラエル軍の退役准将であるアミール・アヴィヴィ氏は、メディアへの解説の中で、なぜ今、イスラエルがハマスとの戦闘をやめるべきでないかと語った。

1)ハマスは必ず復帰し、イスラエルは今よりも大きな脅威に直面することになる

イスラエル内外では、今、停戦に合意すれば、ハマスとの戦闘はやみ、ヒズボラとの戦闘もやむ。その後サウジアラビアとの国交も始まり、すべてがうまくいくと主張する声がある。

しかし、今の停戦条件によれば、合意で戻ってくる人質は33人となっている。ハマスは自己防衛のためにも残りは絶対に返さないだろう。また、仮に停戦が半年か1年続いたとしても、必ずハマスは復帰するだけでなく、イスラエルは今以上の脅威に直面する。南北国境住民は再び避難することになるだろう。

アヴィヴィ氏は、今回、モハンマド・デイフが暗殺されたかもしれないという事態に、ハマスが何の反応も示していないことから、ハマスがもはやガザの支配力を失っているという現状をを示していると語っている。ハマスは滅ぼさなければならないとすれば、今、この時を逃すべきではないということである。

2)イスラエルがフィラデルフィ回廊を支配しないとハマスへの支援は無制限:エジプトは信用できない

ネタニヤフ首相がフィラデルフィ回廊からフィラデルフィ回廊から撤退しないと言っていることについて。

イスラエルはエジプトと和平条約を結んでいるので、エジプトからガザに武器など物資が搬入されないよう、治安部隊を国境に派遣するよう要請を出した。

エジプトは一応、警察とか弱い部隊を派遣しただけで、エジプトからガザへの物資搬入というビジネスに、ブレーキはまったくかけていなかった。これまでにフィラデルフィ回廊には、20本以上の大きな本格的なトンネルが設営されていた。

これほどのトンネルを設営するには、建設会社が必要になる。またそのトンネルは、トラックが通れるような本格的なトンネルもあり、武器や物資がガザへ搬入されていた。エジプトがどれほどに儲けていたか想像に耐えない。

これをみた後で、エジプトを信用して、IDFがフィラデルフィ回廊から撤退することは不可能である。

3)ヒズボラは、殲滅ではなくレバノン南部から追放するべき

ヒズボラについて、アヴィヴィ氏は、ハマスのように殲滅ではなく、イスラエル国境から撤退させるべきと語る。ヒズボラはレバノン人からなっており、レバノンとの戦いになってしまうからである。

ヒズボラについては、外交的にリタニ川まで撤退させられたらいいが、その可能性は低い。しかし、ヒズボラが、南レバノンにいる状態で、避難民を北部国境へ帰すことは、危険すぎる。ヒズボラは、戦闘で、南レバノンから追放し、イスラエル軍がそこに駐留する形になってから、避難民を帰宅させるべきである。

3)世界にとっても今、ハマスとヒズボラとの戦いはやめるべきでない

アヴィヴィ氏は、ハマスとISIS(イスラム国)との関わりからも語った。アメリカは何年もかけてISISを滅亡に追い込んだ。しかし、その後、アメリカでは石油が発見され、もはや中東に依存しなくてよくなったことから、中東から身を引く傾向にある。

その分、出てきているのが中国。中国は今、中東のほぼ全ての国に足掛かりを築いている。さらに、アメリカは、アフガニスタンから撤退。軍事力でも中東で存在感が弱くなった。それで強くなり、イランが核兵器開発にも至るようになった。

今もし、イスラエルが停戦を受け入れた場合、ハマスという小さなテロ組織をも倒せなかったイスラエルへの侮りを起こさせ、イランが出てきて、中東に大きな戦争となる。

そのイランがどう出るかは、アメリカの選挙が大きく関わってくる。新大統領がどんな中東政策を打ち出すかによって、イランの動きも変わってくるだろう。また西側諸国の動きにも影響してくる。

これからどうなるかについては、2つ考えられる。最悪のケースは、イスラエルは、西側諸国の支援をえられず、単独で、イランと対峙することになる。イスラエルにとっては存在危機の事態である。しかし、これは西側諸国とそれにつらなる諸国の危機にもつながっていく。

最善のケースは、イスラエルは、欧米だけでなきく、中東においてもサウジアラビアなど、広い同盟関係を得て、勝ち残る。

大きな視野で見ると、イスラエルは、今、ハマスとヒズボラとの戦闘で弱みを見せるべきではない。分断の様相にある国際社会は、自分たちのためにも、今、イスラエルを強めるべきだとアヴィヴィ氏は締めくくっている。

石のひとりごと

大きな視野でイスラエルとハマス、イスラエルとの戦いを見ている人がどれほどいるだろうか。国連すらもみていないだろう。

先の危機を見据えた上で、絶望せず、たとえ世界に理解されなくても、また何を言われても、今やるべきことをやっていくという、イスラエルの生き方がここでも見えるようである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。