イスラエルがシリア軍攻撃:アサド政権時代の武器3トン以上を発見・南部紛争に介入も 2025.7.16

Syria's security forces pose for a picture on a roundabout in the predominantly Druze city of Sweida on July 15, 2025, following clashes between Bedouin tribes and Druze fighters. (Sam HARIRI / AFP)

シリアへの攻撃で旧アサド政権時代の武器3トンを発見

2024年12月、シリアで反政府勢力がアサド政権を打倒。以来、アル・シャラア大統領の元、民主的、多様性に寛大なシリアの復興を試みている。しかし、シリアは長年の内戦中に、ありとあらゆる組織が入り込み、まだ内戦に戻る可能性は大いに残されている。

イスラエルは、シリアが内戦になって、イスラエルにもその影響が押し寄せてくる可能性に備え、まだ混乱の最中に、イスラエル軍を国境に進出させ、旧アサド政権の危険な武器の破壊作戦を進めた。

IDF
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また、シリアとの国境に沿って、シリア側に緩衝地帯を設立。ヘルモン山にも進出して、シリアを見下ろす地点に軍を配置している。

イスラエル軍は、その後も、シリア国内に大量にあるアサド政権時代からの危険な武器に神経をとがらせていた。

しかし、ここ数週間の間、シリアの武器庫の捜索と

破壊を続ける中、先週、シリア国内の軍事施設(特殊部隊拠点)を襲撃。アサド政権が保持していた3トン以上の武器(対戦車地雷、爆弾、ロケット弾など)を発見。7月13日(日)、これを公開した。

シリア南部宗教紛争でイスラエルがドルーズを支援する攻撃

これと並行して発生したのが、シリア南部スワイダ県で発生した、ドルーズ族と、ベドウィン族の衝突である。

シリアのドルーズ族は、総数約70万人という少数派で、多くは、シリア南部スワイダ県に住んでいる。ドルーズは、イスラム教からは異端とされる人々だが、アサド政権時代は、それなりに保護されていた。

しかし、今、シリアにイスラム教新政権が立ち上がったことから、アサド政権と関係が良かった異教徒として危険な立場にあるとされている。イスラエルと同様、シャラア新政権には警戒感を持っている人々である。

一方、トランプ大統領は、イスラエルと違い、アル・シャラア大統領下の新しいシリアを支援するとして、アサド政権時代からのシリアへの経済制裁を解除した。

その後、シリアがイスラエルとのアブラハム合意に加わるのではとの噂が出るようになり、先週、アゼルバイジャンを訪問したシャラア大統領と、イスラエル高官が接触するのではないかともみられていたのであった。

ところが、7月11日(金)、スワイダ県で、ドルーズのビジネスマンが誘拐される事件が発生。これをきっかけに、以前から緊張にあった、ドルーズ族と、ベドウィン族(イスラム教スンニ派)の間で武力衝突となった。

この間、シリア暫定政権が、治安部隊を、スワイダ県に派遣して、衝突の沈静化を試みたが、この衝突で、99人(ドルーズ60人(市民4人)、ベドウィン戦闘員18人、シリア治安部隊14人、その他7人)が死亡した。

この戦闘に、イスラエルも介入していたということである。その経過は以下の通りである。

ドルーズ族は、ゴラン高原でイスラエルとシリアに分かれて住んでいた人々である。イスラエルにいるドルーズ族(約15万人)は、イスラエルに忠実であり、従軍もする人々である。

昨年12月に、アサド政権が倒れて、イスラエル軍がゴラン高原全体を配下に置く形となった時、ゴラン高原シリア側のドルーズ族が、イスラエル側のドルーズ親族と感動の合流を果たす様子が伝えられていた。

スデイダ県で、紛争が始まると、イスラエルに在住するドルーズ族たちは、ネタニヤフ首相に、シリアのドルーズが、危険な組織に囲まれており、誘拐などさまざまな危機に直面しているとして支援を要請した。

これを受けて、イスラエル軍は、14日(月)、スワイダに向かっていたシリア治安部隊の戦車複数を戦闘機から空爆して破壊。その後スエイダ県で、シリア軍を攻撃している。イスラエル軍は、この攻撃は政府からの指示に基づくと強調していた。

ドルーズは、14日(月)夕刻、停戦すると述べた。しかし、戦闘はその後も続いていたようである。

シリア軍は、この攻撃はイスラエルに向けての攻撃ではないと伝えたが、イスラエル軍は、シリア軍への攻撃は継続していた。

15日(火)の時点で、死者数は、少なくとも203人で、92人はドルーズ族で、このうち21人は、シリア政府軍に処刑されたとのこと。そのシリア政府軍の死者は93人で、ベドウィンは18人と伝えられている。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/death-toll-from-south-syria-violence-rises-to-203-war-monitor-says/

アメリカは、15日(火)夜遅く、イスラエルに対し、シリア南部への攻撃を停止するよう要請。アメリカはイスラエルがこれを受け入れたと発表した。しかし、戦闘が止まっているかどうかは不明である。

イスラエルが、シリアへ介入したことについて、シリアは、イスラエルとの接触も検討していたのか、「イスラエルの攻撃で多数の治安要員や複数の市民が死亡した。シリアへのイスラエルの裏切り行為だ。最も強い言葉で非難する」との声明を出した。

国際社会では批判的な記事が相次いでいる。

www.timesofisrael.com/syria-asserts-right-to-defend-itself-from-israeli-attacks-amid-carnage-in-druze-area/

イスラエル北部でドルーズがデモ

イスラエル北部では、15日(火)、ドルーズたちが、シリアのスワイダ県で危機にある同胞のために立ち上がるとして、国道6号線を閉鎖するなどの暴力的なデモを行っていた。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。