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ガザへの攻撃と反撃のミサイル:予備役2万5000人招集
イスラエル軍は、5日午後から、ガザ地区のイスラム聖戦拠点への激しい空爆やドローン攻撃を開始。イスラム聖戦の指導者、タイサー・ジャバリ(50)が死亡した。その後も攻撃は続き、これまでに、イスラム聖戦拠点30ヶ所への空爆が行われたもようである。
これに対し、イスラム聖戦は160発以上のロケット弾をアシュケロンなどイスラエル南部地域に撃ち込んできた。
しかし、100発の時点でイスラエル領内に到達したのは60発で、このうち多くは空き地に着弾し、その他は迎撃ミサイルが対処した。住民は、サイレンが鳴り響く中、シェルター内外ですごしており、今の所、イスラエル側に、大きな被害は報告されていない。
イスラエル軍は、攻撃を前に、予備役2万5000人を招集し、各地に迎撃ミサイルを設置するなど準備はかなり本格的である。
また、攻撃が始まった5日から6日はエルサレムでの神殿崩壊記念日であった。ありえないような日の攻撃でもあり、これまでになく、イスラエルの怒りが爆発したような、強いメッセージがこめられているようにもみえる。
これから、ガザの最大派閥であるハマスがこれに協力するのかどうかが注目されているが、i24ニュースは、現在、ハマスはじめ、小さい派閥も集まって協議している伝えている。また、その背後でイランやヒズボラにも動きがあるとも伝えている。
なお、最新のニュースでは、ガザでの戦闘が続く中、イスラエル軍は、再び西岸地区ジェニンでイスラム聖戦関係の19人を逮捕したと伝えられている。
今後この戦いがどうなっていくのか、このまま鎮静化するのか、大きな戦闘に発展していくのか、不安がひろがっている。
始まりは西岸地区ジェニン:イスラム聖戦との衝突で指導者逮捕
イスラエル軍は、イスラム聖戦が、イスラエルへの大規模テロ攻撃に向けて、本格的な拠点を西岸地区で活性化させているとの情報を得た。ここしばらく、西岸地区では、イスラエル治安部隊とパレスチナ人との衝突が続き、死者も多く出ていたことは、これまでからも伝えられていたが、それに対する本格的な反撃ともみられる。
このため、1日月曜、イスラエル軍は、西岸地区で最近、特にイスラエル軍との衝突が頻発しているパレスチナ人の町、ジェニンに突入し、多数の武器と現金とともに、そこでのイスラム聖戦の指導者、バッサム・サアディ(61・写真)と、その義理の息子のアシュラフ・アル・ジャダを含む15人を逮捕した。この時の戦闘で、アル・カフライニ(17)が死亡。もう一人が重症となった。
www.timesofisrael.com/palestinian-teen-killed-during-idf-raid-of-jenin-to-arrest-senior-pij-member/
これを受けて、イスラム聖戦は緊急事態を宣言。イスラエルへの攻撃を警告した。また、ガザから、対戦車用の誘導ミサイルや、射撃手による銃撃の具体的な懸念が出てきたことから、イスラエルは、市民を守るため、直ちにガザに近い地域の鉄道を停止。ホフ・アシュケロンから、ガザ周辺に続く主要道路すべてを封鎖した。実質、地域は半ロックダウンとなった。
こうした地域の封鎖は、危険がなくなるとともに比較的すぐに解除されることが多いが、今回は、2日経っても3日経っても解除されなかった。地域住民からは不満の声が上がっている。
後でわかったことだが、この間に、イスラエル軍は、予備役兵など、最大2万5000人にも及ぶさまざまな部隊を招集するとともに、テルアビブ、エルサレム、ベエルシェバなど各地に迎撃ミサイルの配備も進めていたのであった。
*このタイミングで市民デモ:ガザの人質返還を要求
ちょうどこのタイミングの3日から5日にかけて、イスラエル兵だった息子の遺体を2014年から、ガザにとられたままになっているゴールディンさん夫妻とその支持者らが、政府にもっと働きかけてくれるよう訴えるデモ行進(ラリー)を実施した。訴えは、ガザで人質になっているイスラエル人2人の返還に関する訴えも含まれていた。
ラリーが行われたのは、ちょうどアシュケロンからガザ方面に向けての地域である。デモ隊は、南部道路を封鎖する治安部隊をぶつかり、1人が一時身柄を拘束されたとのこと。警察は、「デモの自由は補償されているが、命の危険がある場合は別だ。」と言っていた。
ラピード首相は、道路の封鎖をいつまでも続けることはないと発表。同時に、イスラム聖戦に対し、イスラエルは、市民へのいかなる攻撃も容赦しない。攻撃には大きなツケをはらうことになると警告した。
イスラエルがガザへの攻撃を開始したのは、この日の夜であった。
5日午後ガザ地区への空爆「夜明け(Breaking dawn)作戦」:イスラム聖戦指導者死亡
その配備が整ったとみられる4日目の5日午後、イスラエル軍は、ガザ地区内部のイスラム聖戦拠点6ヶ所を空爆。ドローンによる攻撃も実施した。
hls-video-ynet.yit.co.il/0822/6e29f5c3e145cc54a762fcb36058688e/master.m3u8
これにより、イスラム聖戦の指導者の1人、タイサー・ジャバリ(50・写真))が死亡した。(前任者も2019年にイスラエルが暗殺)。また、問題となっていた対戦車誘導ミサイルの部隊への空爆も行い、イスラム聖戦メンバー10-20人が死亡したとみられている。
ガザ保健省は、この攻撃で、5才の少女を含む10人が死亡し、55人が負傷していると報告した。
ラピード首相とガンツ防衛相は、「イスラエルは、テロ組織による市民へのいかなる脅威も受け入れない。」と共同声明を出した。
また、ガンツ防衛省は、この紛争で、毎日ガザからイスラエルへ来て働いていた1万4000人が、日常を奪われていること、物流が長く途絶えることで、ガザでは、食料やエネルギーにも不足する事態になることも懸念されると述べた。
ガンツ防衛相は、「イスラエルは戦いたくはないが、戦いが避けられない場合、我々は躊躇しない」とし、ガザに関係している国々(イランやトルコ、カタールなど)に自粛を求めた。
www.timesofisrael.com/idf-says-it-has-begun-striking-in-gaza-after-4-days-of-islamic-jihad-threats/
ガザから160発以上のミサイル
ガザからは最初の夜100発のミサイルが発射されたが、このうちイスラエルに届いたのは、60発程度で、多くは空き地に着弾。その他は、迎撃ミサイルが効果的に撃墜している。その後も、ミサイルは飛んできているが、被害は報告されていない。
しかし、政府は、まだ戦闘は続くとみており、テルアビブを含むガザ周囲80キロの地域を「特別な状況」と指定し、住民にはシェルターの近くにいるよう指示した。
テルアビブ、ベエルシェバでは、ホームレスも駆け込める公共シェルターが解放された。またネゲブ地方などでは、大きな集会は禁止とされた。
www.timesofisrael.com/liveblog-august-6-2022/
ハマスの出方は?:ヒズボラやイランにも続く懸念
今回、イスラエルは非常に確固たる態度で、イスラム聖戦への攻撃を行なっている。しかし、ガザ最大の派閥、ハマスへの攻撃はしない方針を続けている。
戦闘がはじまってすぐ、ハマスは、イスラム聖戦を支持する声明を出したが、果たして実際にどういう行動に出てくるかはまだ明らかではない。
ハマスは、4月のイスラエルとの戦闘で打撃を受けている上、今回の紛争はガザではなく西岸地区が発端で、しかもライバル組織のイスラム聖戦の問題であるからである。
i24ニュースによると、ガザでは、イスラム聖戦がハマスやその他の小さい派閥にも一致して戦うように呼びかけているとのこと。またイスラム聖戦の背後には、イランの巨額の支援金が動いているとのことで、ヒズボラが動き始める不穏な気配もあるという。現在、ヒズボラは、ハイファ沖天然ガス油田関連で、イスラエルとくすぶっているところである。
アメリカの反応:イランの反応
アメリカはこの攻撃の応酬に懸念を表明し、イスラエルの自衛権は認めるとしながらも、すべての関係者に落ち着くよう求める声明を出した。
しかし、国連の中東和平特使のトール・ウェネスランド氏は、先にイスラエルが西岸地区でジャバリを殺害したと、イスラエルを非難するような発言を出した。
イスラエルの国連代表ギラッド・エルダン氏は、「イスラム聖戦のパレスチナ人たちが、イスラエルに向けてミサイルを発射している最中に、国連は、イスラエルを今にも攻撃しようとしていたテロ組織の指導者が殺されたことの方へ懸念を表明している。」と言い返した。
カタールの外務省は、イスラエルがガザ情勢をエスカレートさせたと非難。イランの外務省は、イスラエルを激しく非難し、「過激なシオニストの人種差別政権が、ガザに残虐な攻撃をし、防衛力のないパレスチナ市民抵抗グループの指導者を暗殺したのだ。」と述べた。まるっきりイスラエルとは反対の見方である・・
石のひとりごと
今回の戦闘をみれば、イスラエルが、攻撃を開始して、状況をエスカレートさせたとの非難が出てくるのではないかと懸念される。
実際、記者会見でもさっそく、そのような質問が出ていたが、元イスラエル軍司令官ヤコブ・アミドロール氏は、ジェニンでイスラム聖戦指導者逮捕に至る前の、西岸地区でのイスラム聖戦の動きが、いかに、イスラエルにとって危険な状況であったかを強調した。
また、「世界では、先に攻撃されて、誰かが死んでからの報復でないと正当な防衛とは認められいくい。しかし、イスラエルは、そうではない。やられる前に、一人でも死ぬことを防ぐ。その方針は変わらない。」と述べた。
確かに、この方針があったからこそ、イスラエルは、常に先手をとり、これまで生き延びることができたといえる。1967年の6日戦争もそうであった。しかし、世界がこれを認めるのは難しい。
しかし、イスラエルはそれも十分計算の上で、この戦闘に踏み切ったはずだ。ではその狙いはなんだろうか。
時間が経つにつれて、イスラム聖戦の背後にイランの存在があったとの指摘が出始めている。
しかし、それまでの報道では、西岸地区でおこったことへの反撃を、ガザから行うということをパターン化させないという点も指摘されていた。
また、今回の注目はハマスである。イスラエルは、ガザを支配することは避けたいので、今のまま、ハマスに、おとなしく支配させることが最善と考えている。ハマスの強力なライバルであるイスラム聖戦をたたくことで、ハマスに恩を売り、ガザを支配しやすくさせるねらいもあるかもしれない。
しかし、はたしてハマスが、イスラム聖戦を見捨てるようなことをするだろうか。ハマスが、イデオロギーより現実をとるとは、考えにくいところである。
それにしても、イスラエルの防衛技術が進んだことに驚かされる。これだけのミサイル攻撃を受けても、イスラエルでは、人的被害どころか、物的被害も出ていない。AIも駆使した非常に優秀な迎撃ミサイルになっているのだろう。
先の先まで見て行動するイスラエルの全てを報道だけで理解することはできないが、その目標がすぐにも達成され、双方の命が失われないうちに、早く平穏が戻るようにと願うばかりである。