アメリカ国籍IDF兵士人質死亡確認:トランプ次期大統領の人質解放への最後通告とその影響 2024.12.5

Former US president Donald Trump appears at Manhattan criminal court in New York, May 20, 2024. (Steven Hirsch/ New York Post via AP, Pool)

アメリカ国籍IDF兵士人質の死亡確認

イスラエル軍は、12月2日(月)、これまで人質となり、生きていると信じられていた、戦車小隊指揮官オメル・マキシム・ノイトラ大尉(21)が、昨年10月7日の時点で、ハマスとの戦闘中に死亡し、遺体として人質になっていることを確認したと発表した。

ノイトラ大尉は、アメリカ国籍でニューヨーク出身。両親はアメリカにいる中、一人でイスラエルに移住し、イスラエル軍に従軍していた。しかし、大学に行くことになっていたため、もうすぐアメリカに帰る予定だったという。

ノイトラ大尉は、3の兵士、シャキード・ダハン軍曹、ニムロド・コーヘン軍曹、オズ・ダニエル軍曹とともに、ナハル・オズで警備にあたっていて、ハマスの襲撃を受けていた。

ダハン軍曹、ダニエル軍曹はすでに死亡が確認されている。あと残るのは、コーヘン軍曹だが、父親は、生きていることを信じていると語っている。

ノイトラ大尉死亡の発表は、ハマスが、やはりアメリカ国籍を持つ人質、イダン・アレクサンダーさん(20)の様子をビデオで公表した2日後だった。

人質の中には、多数のアメリカ国籍の人も含まれているということを忘れてはならない。

トランプ次期大統領のハマスへの人質解放への最後通告とその後の変化

ノイトラ大尉死亡確認が発表された数時間後、アメリカのトランプ次期大統領は、「私が大統領に就任する1月20日までに、人質をとらえている者は、全員釈放せよ。そうしないなら、こんな残虐行為をしている者は、「地獄の苦しみ」を受けることになる。今すぐ人質を解放せよ。」と、最後通告的な脅迫的な発言を発表した。

www.timesofisrael.com/trump-warns-there-will-be-all-hell-to-pay-if-hostages-arent-released-by-jan-20/

トランプ次期大統領の就任まではあと6週間を切っている。それまでに人質解放に持ち込めるのか。エジプトで行われている交渉は、進展がまだほとんど報告されていないが、変化が見え始めている。

1)次期米中東特使スティーブ・ウィトコフ氏活動開始:来週イスラエル代表がカイロへ

次期トランプ政権で、今のホフスタイン氏に代わって中東特使となるスティーブ・ウィトコフ氏が、11月末、イスラエルでネタニヤフ首相と人質家族に面会。

続いてカタールを訪問して、アル・サーニー首相と会談した。

またウイーンで、イスラエルのこれまでの交渉で、イスラエル代表だった、モサドのバルネア長官とも会談した。チャンネル12が報じたところによると、イスラエルの代表団が、来週、カイロ入りする予定とのこと。

*トランプ次期大統領は、人質に関する交渉を担当する人物として、これまでにアブラハム合意など様々な中東での交渉役を担当した経験をもつビジネスマン、アダム・ボーフラー氏とを指名する意向も表明している。

www.timesofisrael.com/trump-taps-businessman-and-former-abraham-accords-negotiator-as-hostage-point-man/

2)カタールの仲介再開:交渉場がカイロからドーハに戻る見通し

アル・サーニー首相January 14, 2024. (Screenshot combo)

カタールは、先月、ガザ外ハマス指導者たちを首都から追放し、いっこうに進展しない交渉の仲介役を降りると宣言していた。しかし、首都ドーハにある、ハマスオフィスは温存しており、完全に関係を切ったわけではなかった。

ウィトコフ氏との会談後、カタールは、ハマスとイスラエルの交渉役に復帰し、会談は再びドーハで行われる可能性が高いとみられている。

交渉は、今後45日から60日の間、停戦に持ち込み、段階を追って人質が解放され、イスラエルがガザから撤退する方向ですすめられている。

なお1月20日までは、まだバイデン政権である。トランプ氏のチームと、バイデン政権チームの協力はあるのかどうか、注目されている。

www.timesofisrael.com/qatar-said-resuming-gaza-mediation-role-as-trump-envoy-pushes-for-deal-by-jan-20/

トランプ氏が戻ってくることでハマスの読みが崩れはじめた:TOIラザー・ベルマン氏分析

先週、泣きながらビデオに出ていた人質イダンさんの家族に会っていたトランプ氏January 14, 2024. (Screenshot combo)

Times of Israelの分析家、ラザー・ベルマン氏によると、トランプ氏が次期大統領に再登場してくることで、「シンワルの3つの賭け」とも言われた、3ポイントで、ハマスの読みが大きく崩れ始めている可能性があるとみている。その三点とは以下の通り。

①ハマスとヒズボラと2局面での戦闘で、イスラエルが望まぬ停戦に応じるという賭け

シンワルは、イスラエルに2局面で、長く戦闘が続くことで、停戦を余儀なくされると言う読みを持っていた。

②ICC(国際刑事裁判所)のネタニヤフ首相への逮捕状発行で、国際社会から停戦圧力がかかると言う賭け

シンワルは、ICCからのネタニヤフ首相への逮捕状発行で、イスラエルが国際社会から大きな停戦への圧力をかけられることになり、ハマスが残留して、ガザ復興の役割を担う立場に立つと言う読みを持っていた。

③イスラエル国内からの圧力でネタにタフ首相が停戦に応じると言う賭け

シンワルは、イスラエル国内で、人質解放にむけた停戦を求める声が高まっていることから、ネタニヤフ首相はこれに応じるしかなくなるとの読みを持っていた。

しかし、この読みはほぼすべて外れた様相にある。ヒズボラは、ナスララ党首はじめ指導者をほぼ失った上、ハマスのことは条件にも上げない状態で停戦に応じてしまった。

背後にいるはずのイランは、これまでに2回、イスラエルを攻撃したが、3回目は、攻撃するといいつつ、まだ何もしていない。

ICCからの逮捕状が出ても、最強のアメリカがこれを受け入れないトランプ氏が次期大統領である。ハマスにも停戦に向けた、しかもイスラエルに有利な形での停戦に大きな圧力をかけ始めている。

また、ネタニヤフ政権については、国民からの圧力はあるものの、ギャラント前国防相をカッツ氏に交代させるなどして、政権としては前より安定させた状態になっている。

トランプ氏はネタニヤフ首相を支持するとみられるので、政権崩壊の読みも、崩れかかっているといえる。

www.timesofisrael.com/isolated-hamas-faces-collapsing-negotiating-stance-after-drastic-trump-threat/

こうした読みから、カッツ国防相も、ハマスとの交渉に楽観的な見方を表明している。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。