10月、カフロン財務相が、2017年1月から、イスラエル人の子供すべて、一人一人に、国が積み立て貯金を開始すると発表した。
その開始日が近づいた12月に入り、テレビでは親たちに開始を知らせ、手続きを始めるよう促す政府の宣伝が始まっている。
www.jpost.com/Israel-News/Politics-And-Diplomacy/Savings-for-every-child-plan-moves-forward-474421
<CDA(Child Development Account)>
CDAとは、子供たちが18歳になり、いよいよみずからの人生を歩み始める際に、親の経済能力にかかわらず、すべての子供に一定額の貯金があるよう、国が支援して一人一人に積み立て貯金を行うというプログラムである。
この資金で、大学に行ったり、ビジネスを始めることも可能で、貧困な家庭の子供たちが貧困から脱出できるようにするねらいがある。
アメリカやスカンジナビア、シンガポール、中国、2007年からは、韓国でもこのプログラムが始まっている。専門家によると、現時点で最も成功しているのはシンガポールで、仮にこの積み立てを18歳で引き出さなかった場合は、老齢年金にまで回すことができ、文字どおり、生涯を通して助けになるプログラムである。
具体的な方策は国によって違うが、だいたいの国においては、政府から支給される子供手当から一定額を差し引いて積み立てることに両親が合意した場合、政府は、それと同額を上乗せするという形で、積み立てを支援する。この方式であれば、国民すべての子供が対象にはならない。
イスラエルは、OECD諸国の中でも、貧富の差がかなり大きい国である。ミリオネア(資産1-5億円)の人が88000人以上でそのうち17人は、ビリオネア(億万長者)がいる一方で、貧困線以下で生活する貧困率は19%と、OECDでは最悪の国である。
また子供の貧困率は30%と先進国にしては非常に高い。(ただしイスラエルの場合は、出産率が高いユダヤ教超正統派とアラブ人社会の貧困率がそれぞれ一般ユダヤ人社会の3倍、2倍となっていることに注意)
こうした中、イスラエルでもCDAは長年、研究されてきたのだが、いよいよ来年1月から滑り出すこととなった。テレビでは、親たちに理解を求め、手続きを始めるよう促す政府広報が始まっている。
taubcenter.org.il/long-term-savings-accounts-for-children/
<イスラエルのCDA> haotzarsheli.mof.gov.il/Documents/english.pdf
イスラエルでは、120万世帯、300万人のイスラエル人の子供(ユダヤ人、アラブ人にかかわらずすべて)全員を対象とし、子供が生まれると国はその子供の口座を作り、月50シェケル(約1500円)の積み立てを開始する。
これに親は、支給される子供手当から50シェケルを差し引いて国の積み立てに上乗せすることが可能である。
これにより、子供たちは18歳になった時点で、12215シェケル(約36万円)、上乗せがあった場合は、21930シェケル(約72万円)が準備されていることになる。
イスラエルでは兵役があるため、積み立ての出金は、21歳でも可能。もし18歳で出金しなかったらさらに500シェケル(約15000円)、21歳でも出金しなかったらさらに500シェケルのボーナスがある。
これで、いかに貧しい家庭の子供でも、成績がトップレベルで奨学金を受けられなくても、大学に行くことは可能。なお、使い道については、学業などが好ましいとされているが、親との合意があれば、特に制限はない。
このプログラムを始めるにあたり、不公平がないよう、今いるすべての年齢の子供の場合どうなるのか、子供が18歳未満で死亡したらどうなるのかなど、細かいところにまで対処が準備されている。
相当な財源が必要になると思われるが、国が負担する資金は、初年度で、1億1030万シェケル(約34億円)、2年目からは24億シェケル(約720億円)と試算されている。
すべての子供を対象に、まずは公的積み立てが土台になるCDAはイスラエルが世界で初である。
プログラムが成功するか否かは、18年たってみないとわからない。あまりにも長期計画で、次期政権は、これをちゃんと引き継いでくれるのか、財源は確保できるのか。。。など、疑問や懸念は多々あるが、そこは見切り発車が得意なイスラエルである。なんとかなるのだろう。