先日、イスラエルがドイツにアロー3長距離迎撃ミサイルを引き渡したことはお伝えした通りである。
イスラエルとドイツは、2年以上前の2023年、ハマスの襲撃の1週間以上前に、アロー3迎撃ミサイルを46億ドル(約7200億円)で売却する契約を締結し、準備を開始した。両国の国交正常化60周年を記念する今年、12月3日に、その引き渡しが行われた。
アロー3は、現在、ドイツ東部のドイツ空軍基地に配備されているウクライナ戦争でロシアと対立するヨーロッパの防衛に、非常に大きな貢献になったと言われている。イスラエルが国外にアロー3を輸出するのは、これが初めてであった。

しかし、ドイツにはアウシュビッツがある。ホロコーストで600万人のユダヤ人を大虐殺した国である。それからまだ80年しか経っていない。
その状況で、ユダヤ人の国、イスラエルが、ドイツの防衛に大きく貢献していたということである。
よく考えると、イスラエルのこの動きは、驚きとして捉えられることだろう。その背後には、ドイツの真摯な悔い改めがあるが、イスラエルの前向き姿勢もある。
第二次世界大戦後から、3年後の1948年にイスラエルが独立すると、ドイツは、その4年後の1952年に、ホロコーストの罪による賠償合意をイスラエルと締結した。
以来、道徳的、経済的な賠償をずっと継続している。様々な外交危機においても、常にイスラエルを支持する立場を継続してきた。
その結果、イスラエルでは、ドイツは、国家としては、おおむね悔い改めていると認める見方が一般的である。
このように、イスラエルとドイツの国交は、常にホロコーストが土台になっている。皮肉にも、それこそが両国を結び合わせる結果になっている。雨降って、地固まるとでもいうのだろうか。
近年、ドイツは、イスラエルのドローンや対戦車ミサイルなどを購入するようになっていた。今回、アロー3を購入、配備することで、初めて、イスラエルが、ドイツの防衛に貢献する関係にまで進んだということである。アロー3の引き渡しは、両国の傷のかさぶたが取れたことの象徴だとも言われている。
しかし、ホロコーストの責任者であるドイツを防衛するとなると、さすがに、被害者にとってはひっかかるかもしれない。
しかし、ユダヤ人は、赦すとうことではないにしても、過去や怒りにとらわれることこそが、敗北と考えている。逆に、そのドイツの防衛に、イスラエルが貢献すること。それこそが勝利という見方もある。
また、実際のところ、将来を考えれば、ドイツを含むヨーロッパの防衛は、イスラエルにとっても益になる。過去よりも、これからを優先するというのもイスラエルの文化でもある。
ただ、国家レベルと、現状は違っているという点も指摘されている。戦後80年たって、ドイツでは、ホロコーストに関する認識に変化があり、ガザ問題でイスラエルへの批判的な見方も広がっていることも忘れてはならない。
