ぎりぎり人質交渉の決断:家族らに国の治安優先とネタニヤフ首相表明 2024.2.1

Kobi Gideon (GPO)

人質交渉の現状

人質交換と停戦の交渉が水面下で続けられており、さまざまな情報が錯綜している。ワシントンポストは、6週間で人質全員を解放する方向で交渉が進んでいると伝えていた。

バルネア・モサド長官とネタニヤフ首相 October 15, 2023. (Kobi Gideon/GPO)

しかし、先週、アメリカ、イスラエル(モサドのバルネア長官が代表)、カタール、エジプトが、パリで交渉を実施。

帰国したバルネア長官は、戦時内閣に、35日の停戦を実施し、その間に、人質35人(女性、病人、負傷者、高齢者)を解放するという案を報告した。

この案によると、まずは上記のように、人質35人を35日かけて、段階的に解放する。その後さらに停戦を1週間延長し、その間に第二段階として、まだ残っている人質の解放を検討するというものである。

しかし、この条件では、人質1人につき、パレスチナ人の囚人3人を釈放することになるだけでなく、マルワン・バルグーティなど、かなり高度なパレスチナ人指導者を釈放することが含まれている模様である。

ネタニヤフ首相はこれを受け入れることは、できないと表明。ハマスの方も、イスラエルが戦闘を完全に停止するという条項がないことを理由に、まだ返事をしていないという。

次回交渉は、エジプトになる見込みである。

www.timesofisrael.com/netanyahu-said-to-tell-hostages-families-he-wont-ok-deal-that-harms-israels-security/

極右政治家批判の人質家族:国会へ乱入

28日に、極右政治家たちがエルサレムの国際会議場で、ガザへのユダヤ人再定住こそが勝利を意味すると訴えるイベントを開催していたが、これは人質は無視しても、ハマスを殲滅する方針を示すものである。

翌日、人質家族たちは、国会に乱入し、人質のことは無視して踊り狂っていたと謝罪を求めたのであった。

Credit: Oren Ben Hakoon

イスラエル国内では、4割が、ガザへのユダヤ人再定住しか平和はないと考えているとのデータがある。一方で、人質解放を求めるデモは、エルサレムや各地で毎週のように発生している。

また、人質解放が実現しない中でガザに支援物資を送るべきでないと主張する人質家族が、連日、その車両を妨害する動きも続いている。

人質交換に関する交渉とその情報は、メディアの中で、飛び交っている。これからどうするのか。分断する国内世論を前に、ネタニヤフ首相の決断、またそれに掛かる圧力は文字通り、半端ない重圧となっている。

ネタニヤフ首相から人質家族代表へ:国の治安が優先になると通告

国際社会は戦争をなんとか停止させようと、人質交換の交渉を行っている。人質家族たちは、これまでから変わらず、いかなる条件でもすぐにでも人質を取り戻すことを要求しているが、政府は、どうもそれに応じる様子がないというのが現状である。

人質家族たちの間では、ネタニヤフ首相が、政権維持という政治的理由のために、強硬右派政治家たちの言いなりになっているのではないかとの懸念が出ている。

ネタニヤフ首相は、31日、エルサレムで、人質家族代表18家族の26人と会談の時を持った。

ネタニヤフ首相は、家族たちに、まず、政権維持という政治的理由で、決断をすることはないと確約した。その上で、「人質交換の条件が国の治安維持を脅かさないなら、それに応じる用意はある。

しかし、それが国の安全を脅かすことが明確であるなら、受け入れることはない。」と述べた。また見通しとして、人質の一斉解放ではなく、段階を追ったものになることは避けられないと、家族たちの意向に反する現状も伝えた。

人質家族たちからは懸念が噴出した。これを受けて、ネタニヤフ首相は、31日、「人質解放のためには、全力を尽くしている。ただ、“いかなる代償を払っても”人質救出をするということはない」ということだと説明するメッセージを発した。

ネタニヤフ首相は、目標は変わらず、①ハマスの解体、②ガザの非武装化、③ガザ市民の非過激化であり、このどれについても、妥協することはできないのだと理解を求めた。これは言い換えれば、ハマスを撲滅するまで、戦争は続けるということである。

www.timesofisrael.com/netanyahu-said-to-tell-hostages-families-he-wont-ok-deal-that-harms-israels-security/

www.jpost.com/breaking-news/article-784557

石のひとりごと

国民一人の命を何よりも大事にする国がイスラエルである。しかし、前にシャリートさん1人をハマスから取り戻すために、1000人以上のパレスチナ人囚人を釈放する決断をしたのは、ネタニヤフ首相だった。

その1000人の中に、今のハマスの指導者シンワルが入っていたのである。ネタニヤフ首相が同じ失敗を繰り返すことはないだろう。

しかし、家族を取り戻したいと訴える家族たちの思いも痛いほどにわかっていることと思う。「国民に寄り添う」などと甘いことを言っている日本の首相レベルでは絶対に対処できない、最大に難しい問題に、今、イスラエルの首相は立ち向かっている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。