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カタール在住のハマス外交関係局長、ムサ・アブ・マルズーク(74)が、「今のガザの状況は勝利とはいえない。こんな結果をもたらすとわかっていたら、10月7日の襲撃はしていなかった」と、2月24日(月)、電話で、アブ・マルズークへのインタビューをしたニューヨークタイムスが報じた。
www.nytimes.com/2025/02/24/world/middleeast/hamas-official-interview-attack-israel.html
10月7日のハマス奇襲がもたらしたもの
1)イスラエルの損害
まずイスラエル側では、ハマスが10月7日にイスラエル南部を奇襲したことで、大部分が市民の1200人が死亡し、251人が人質となった。その後の戦争で死亡した治安部隊は891人。破壊されたのは、ガザ周辺だけにとどまっている。
これまでに人質192人をとりもどしたが、その代わりに、超凶悪なテロリストを含むパレスチナ囚人たち1025人を釈放している。
2)ガザとその支援組織への損害
一方、ガザの方では、IDFによると、ハマス戦闘員の死者は2万人近くに及んでおり、アブ・マルズークによると、今のハマスには、組織を率いて何かを決断するリーダーが不在になっている。
領土はもう人が住めないほどに瓦礫化し、死者は、ハマスの主張で約5万人(戦闘員含む)。瓦礫の下にはもっと死者がいると予想される。
住民のほぼ全員の200万人近くは、家を失い、食料も外からの支援にかかっている。さらには、今は住民のほとんどをガザの外へ再定住させるという計画まで上がっている。
この状態の中で、ハマスは、依然として、勝利を宣言しているということである。
また、10月7日のハマスによるイスラエル攻撃の結果は、ガザの破壊にとどまらない。ハマスを支援すると言っていたヒズボラが、その党首ナスララを失って、著しく弱体化した。
また、シリアで反政府勢力が立ち上がってアサド政権が崩壊したことから、イランがシリアから撤退。もはやヒズボラやハマスを支援が困難になった。
それだけでなく、イラン自身も、イスラエルの攻撃で、上空防衛能力を失っており、近い将来、イスラエルとアメリカに核開発施設を攻撃される可能性もある。中東の勢力図が大きく変化したのである。
これは勝利とは言えないとハマス高官(カタール在住)
ニューヨークタイムスの記事によると、アル・マルズークは、イスラエルをヘビー級チャンピオンのマイク・タイソンに、ハマスを普通の人と例える中で、そのイスラエルと戦って生き延びたことは、一種の勝利かもしれないと評価しながらも、今のガザの状態は、とうてい、勝利ということはできないと語った。
また、こんな結果になるのがわかっていたら、10月7日の奇襲に合意はしなかっただろうとも語った。その後、アル・マルズークは、ガザの非武装化にむけた交渉に応じる姿勢まで示唆していた。
しかし、この記事が出ると、ガザのハマス報道官ハゼム・カセム、またハマス当局も、「これは不正確であり、文脈から外れている」「これは我々を代表する発言ではない」と否定する声明を出した。
ガザのハマスは、今も勝利を宣言する姿勢を崩していない。
トランプ大統領がアラブ諸国にハマス抜きの管理体制方向で圧力か
イスラエルは今、ビバス母子遺体を含む4人の遺体返還に対し、釈放するはずだったパレスチナ囚人602人の釈放を延期にしている。
その理由が、ハマスが人質解放の際に行ってきたパレードやショーの非人道性である。ステージにネタニヤフ首相の鬼の顔を提示して、その前に遺体の棺桶をならべたり、ステージに立っている人質にハマスの頭にキスまでさせたのである。
これを受けて、ネタニヤフ首相は、先週土曜に予定されていた、パレスチナ囚人602人の釈放を終始すると発表。ハマスが、人質解放時のこうした侮辱的なことを止めると約束するまで、パレスチナ囚人は釈放しないと発表したのであった。
ハマスのレベルの低い、人質解放時の非人道性には、トランプ大統領も呆れたようで、戦後のガザの管理に、ハマスを関与させないシステムにするよう、アラブ諸国に強く圧力をかけているとの記事が出ている。
石のひとりごと
現状を見ると、確かにハマスが勝利したとはいえない状況にある。しかし、だからといって、イスラエルは、最も大事な国民がまだ人質に取られている以上、勝利したとは絶対に言わない。
一方、ハマスは、ガザ住民5万人近くが死亡し、ガザはもはや人が住める状態にないのに、勝利を宣言し続けている。「勝利とはいえない」と言ったアブ・マルズークは、いわばはだかの王様を指摘したということだろうか。
しかし、そのマルズークもその後で、人質1人あたりパレスチナ囚人500人とか1000人の釈放を要求しているという。その神経がどうにも理解できない。
ハマスとの交渉は、不可能といえるほどに難しいということである。