神殿の丘騒動:黄金の門をめぐる衝突 2019.3.16

先月2月22日(水)、神殿の丘を管理するヨルダンのイスラム組織ワクフが、黄金の門(あわれみの門)周辺の建物を一方的に開放し、この場所にモスクを建てることを要求。イスラエルの治安部隊と衝突した。24日、イスラエルの治安部隊は、ワクフ高官を含む5人を逮捕した。

黄金の門は、ワクフが違法にモスクの建築を行って、貴重な考古学資源を破壊しないよう、最高裁の命令により、2003年から閉鎖されていた門である。イスラエルは、ワクフがこれに違反したと訴えている。

しかし、ヨルダンのアブドラ国王は、ワクフメンバーが逮捕されたことから、これを非難した。しかし、同時にイスラエルとの衝突を望まない国王は、アメリカへ飛んで協力を求め、3月9日、ヨルダン、イスラエル双方の高官が、ワシントンで交渉にのぞんだ。

しかし、門を長期間の修理を目的に閉鎖するとするヨルダンの解決策に対し、イスラエルは、修理しないでそのまま閉鎖することを要求。交渉は決裂したままで、12日には、神殿の丘のイスラエル警察ボックスに火炎爆弾が投げ入れられるなど、緊張が続いている。

www.timesofisrael.com/israel-jordan-said-holding-talks-to-end-conflict-at-temple-mount-gate/

<神殿の丘と考古学>

今回、イスラエルが、黄金の門の修理を認めないのは、黄金の門が、後期ビザンチンからウマヤド王朝時代に建てられたとされる最古の門であり、その下には、貴重な第二神殿時代の考古学資料が眠っていると考えられるからである。

修理と称して、ここにモスクを建てられることにでもなれば、貴重な考古学資料が破壊されてしまう。

イスラムのワクフは、これまでにも、考古学者の立ち会わせなしに、神殿の丘の地下を掘って、モスクを建て、その時に出た土をぞんざいに廃棄してきた。イスラエルの考古学者は、この廃棄された土をふるいにかけて、貴重な考古学資源を今も回収する作業を今も続けている。

神殿の丘、特に現在、イスラムの黄金のドームが立てられている場所はかつて、ユダヤ人の第一、第二神殿があった場所。イスラエルにとってこれ以上重要な場所はない。神殿の丘の発掘は、イスラエルの考古学者の夢である。

しかし、1967年の六日戦争以降、ワクフに神殿の丘の管理権を譲ったことから、いまだかつて、イスラエルの考古学者が神殿を発掘できたことはない。

<黄金の門の宗教的意義>

黄金の門は、神殿の丘唯一東にある門で、ユダヤ人にとっては、メシアが来る門(エゼキエル44:1−3)、クリスチャンにとっては、将来、再臨したイエスが神殿の丘へ入る門として知られている門である。そこにイスラム教のモスクを建てるということである。

神殿の丘に関しては、昨年、神殿の丘内部で治安部隊3人が殺害された事件を受けて、イスラエル軍が、ライオン門から神殿の丘への入り口に、金属探査機を入り口に設置したところ、激しい暴動となった。

これを受けて、最終的に、イスラエルは、金属探査機を撤去する方策をとった。ワクフの要求に屈した形である。エルサレムポスト記者は、イスラエルが厳しい態度に出ず、ワクフのいいなりになってきたことで、つけあがられていると指摘している。

www.jpost.com/Opinion/Fundamentally-Freund-Take-back-the-Temple-Mount-583533

<神殿の丘にシナゴーグを建てる!?>

ワクフが黄金の門にモスクを建てようとしているのに対し、神殿の丘にユダヤ人のシナゴーグを建てるよう、政府に訴えているグループもいる。

現在、ワクフが支配する神殿の丘では、ユダヤ人は、宗教書をもちこむことはおろか、祈ることも赦されない状況にある。クリスチャンが聖書を持ち込むことも赦されない。

これに対し、ユダヤ人にも権利はあるはずだとグループは訴え、神殿の丘にユダヤ人のためのシナゴーグを建てるよう、国に訴えている。

グループのスポークスマン、アサフ・フレイド氏は、ワクフが、現状維持の原則に反して、黄金の門にモスクを建てようとするなら、こちらも原則を破るべきではないか。私たちにも祈る場所が必要だ。黄金の門の近くの建物を使いたい。」と語っている。

フレイド氏は、グループが、神殿の丘全部を支配しようとしているのではないことを強調し、神殿の丘をヘブロンのマクペラの洞窟のように、2分割して、ユダヤ人にも祈る場所をつくることを提案している。

神殿の丘にシナゴーグをつくる案は、2014年に宗教シオニストのラビたちが、ネタニヤフ首相に陳情書を提出した他、2017年、西岸地区ハラミシュでのユダヤ人入植者惨殺事件の後にも、右派系議員から呼びかけが行われた。

フレイド氏は、ワクフが、黄金の門にモスクを建てようとしていることに憤慨しており、ユダヤ人も立ち上がるべきだと語る。同団体は、3月末に、エルサレム市役所から黄金の門までのデモ行進を計画している。

なお、このグループには、第三神殿推進派の議員ユダ•グリック氏も加わっている。

www.jpost.com/Israel-News/A-synagogue-on-the-Temple-Mount-Activists-call-for-construction-to-begin-582477

聖書には第三神殿が建つことが預言されているが(黙示録11:1など)、現時点ではまったく不可能ながら、じわじわとその日への足取りが近づいているようでもある。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。