ベネット首相とプーチン大統領会談もりあがる?:ロシアでも安息日明けまで滞在延長 2021.10.23

ベネット首相とプーチン大統領 GPO

ベネット首相のプーチン大統領初訪問

先月、ラピード外相が、モスクワを訪問し、ラブロフ外相と会談。それから一月ほど後の22日、ベネット首相が、ソチにて、プーチン大統領との直接会談を行った。ベネット首相は、約2週間前、プーチン大統領69歳誕生日の祝いの電話をかけていたが、直接会うのはこれが初めてであった。

首相官邸報道官によると、ベネット首相の訪問は、プーチン大統領の招きに応じたものであったとのこと。しかし、訪問日の22日は、金曜日で安息日入りの日である。ユダヤ教正統派であるベネット首相は、この日の日没までに、移動を終え、イスラエルの自宅に到着していなければならない。

このため、ベネット首相は、朝5時に出発。3時間後にソチについて、プーチン大統領と対談に5時間。午後1時に出発すれば、日没までには、イスラエルの自宅に戻るという計画であった。しかし、会談は予想以上に長引いた。このため、ベネット首相とその一行は、バイデン大統領との会談で訪米した時と同様、そのまま安息日が終わるまで、ソチに滞在することとなった。

イスラエルとロシア国交30年

ベネット首相は、まず、プーチン大統領に、イスラエルとロシアの国交が30年を記念し、これまでの友好関係に感謝を伝えた。また、イスラエルとロシアの特別な深い関係についてをプーチン大統領に話した。

ベネット首相は、「第二次世界大戦中、ナチスドイツを北から攻めて、ユダヤ人たちを救出したロシア赤軍の中には、50万人のユダヤ系ロシア兵がいた。このうち20万人は、赤軍兵士としてナチスと戦っている最中に戦死した。イスラエルでは今、この人々を記念するミュージアムを建設中だ。」と報告した。

また、「イスラエルが建国してからは、100万人を超えるロシア系のユダヤ人が移住してきた。イスラエル国内には、100万人以上のロシア語を話す市民が在住する。イスラエル軍にも多くのロシア系の人がおり、イスラエルのために戦っている。」と述べ、プーチン大統領に深い感謝を述べた。

しかし、プーチン大統領は、ベネット首相に私たちの間には多くの課題があり、話し合いが必要だと述べたのであった。

イスラエルとロシアの最近の課題

両首脳は、様々なことを話しあったが、特に注目されていたのは、シリア、イラン問題であった。シリアの現アサド政権は、2011年、アラブの春に続くシリア内戦でで崩壊寸前であった。しかし、ロシアが介入して、シリア軍と共に反政府勢力を攻撃したことから情勢は逆転。

以後、シリアにロシアが進出し、それとともにアサド政権は今も生き延びている。この中へイランが進出しているというのが今のシリアである。

中東における、この一連のをきっかけに、アメリカの信用は地に落ちた。今では、中東で最も力があるのはロシアとなっている。さらには、今年のアフガニスタンからの撤退で、中東で今、最も影響力があるのはロシアである。

イスラエルは国境近くにまでイランが、入ってくることを看過することはできない。自衛のためにシリア領内のイラン関係施設を断続的に攻撃するようになった。これを受けて、シリアは、イスラエル空軍機に対処するための迎撃ミサイルを配備した。

しかし、当初は、性能がいまいちであったことから、謝ってロシアの戦闘機を撃墜したこともあった。このため、ロシアは、シリアに最新鋭誘導型迎撃ミサイルS-300やS400を配備する。これらが配備されることにより、イスラエルのシリア領内のイランなどへの攻撃は、かなり難しくなった。

こうした中、ネタニヤフ前首相は、プーチン大統領にアプローチし、イスラエルがシリア領内のイラン関連施設を攻撃する必要への理解を求め、攻撃を黙認するということで合意をとりつけた。その後、イスラエルは、シリア領内のイラン関連施設を数えきれないほど攻撃しているが、ロシア軍と衝突したことはない。

しかし、最近のこととして伝えられた件は以下の通りである。

ダラア

イスラエルや、ゴラン高原にも近いダラアでは、元反政府勢力であった部隊をロシアが養う形で、シリア軍に組み入れた第8部隊(約1万人)がいた。

この部隊の兵士たちは、元は反政府勢力なので、当然ながら、シリア軍には反発的であった。このため、ロシアは、これを解散。武器は全部シリア軍に移譲させるとした。

これにより、この部隊がいたダラア周辺、さらには、ゴラン高原にも空白地帯が生まれており、イスラエルは、そこにイランが入り込んでくる可能性が懸念されている。

これについては、ロシアがイランに道を提供したのではないかとの懐疑的な見方もある。

www.timesofisrael.com/russia-disbanding-syrian-militia-it-formed-opening-up-golan-for-iran-report/

ロシアはイスラエルのシリア攻撃に不干渉の原則確認

このように、ロシアは、イスラエルの治安に大きな影響力を持つ国となっている。ロシアとはよい信頼関係を維持し、連絡を密に取れるようにしておかなければならない。

前回、ラピード外相がラブロフ外相と会談した際には、イランの核開発への懸念と、イスラエルは自衛する権利があると伝え、ロシアに理解を求めていた。

しかし今、シリア、イラン情勢は、この時よりもさらに緊張が高まっている。こうした中でのベネット首相の訪問であった。

これまでに伝えられているところによると、プーチン大統領は、ネタニヤフ前首相時代からの友好関係を保つことを望んでおり、イスラエルのシリア攻撃には不干渉の立場を続けることで合意したとのことである。

とりあえずは、この約束がとれただけでもOKであろう。

www.timesofisrael.com/meeting-bennett-putin-says-he-aims-to-continue-warm-ties-forged-under-netanyahu/

安息日明けまでソチに滞在:プーチン大統領との個人的対談も

会談は、ソチのプーチン大統領官邸で行われた。ベネット首相とプーチン大統領の会談は、予定通り5時間、おおむね良い空気の中で行われたという。この公式の会談の後、両首脳は、2人でバルコニーに出て話し、その後、家を出て黒海湖畔にむけて散歩しながらの話をしたとのこと。

このため、ベネット首相が日没までにイスラエルの自宅に戻ることができないと判断されたことから、今回もソチで安息日が終わるまで過ごすことになった。

ベネット首相は、この個人的な時間を賞賛し、関係が深まったと述べた。この時に通訳として同行したゼエブ・エルキン住宅相(ロシア語が母国語)は、イランの問題ほか、様々なことを話あえたと語っている。そのうちの一つは、WHOがまだ認めていないロシア製ワクチンについてであるが、ベネット首相は、プーチン大統領にロシア人のイスラエルへの旅行についても話し合っている。

これまで、ネタニヤフ前首相は、プーチン大統領との関係は、自身との個人的な関係においてのみ可能になっていると言っていたが、その流れをベネット首相が引き継いだとも報じられている。

石のひとりごと

今、若いベネット首相(49)の肩に、歴史をも動かすような大きな責任が任せられていることを思う。会談するベネット首相には少々緊張もうかがえる。

今国会で、ベネット首相を支持する議員はわずか4人。首相なりたかったものの、ほぼ無理な立場にあったのに、全く思わぬことに今、この立場に立っているわけである。ベネット首相は、今何を感じているのだろうか。

また、若い新米のイスラエルの首相をプーチン大統領はどう見ただろうか。プーチン大統領。年を経て、海千山千の知恵者であるだけでなく、ロシアのメンタリティは、欧米の頭とはかなり違っているはずである。いわば、ベネット首相の前にいる怪物というところだろうか。

しかし、イスラエルの背後には、聖書の神、主がおられるだけでなく、世界中のクリスチャンが祈りでバックアップしていることを思えば、実際には、ベネット首相の方がはるかに大物である。

今、ありえない人がイスラエルの王として立てられている。ベネット首相が、首相という立場にあってもなお、安息日を優先する姿から、以下のみことばを思い出す。ベネット首相が、ただイスラエルの主により頼んでいることを祈る。

わたしは、あなたのうちに、へりくだった、寄るべのない民を残す。彼らはただ主の御名に身を避ける。(ゼパニヤ3:12)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。