ナスララ党首がガリラヤ侵攻とキプロス攻撃を示唆:ヒズボラと全面戦争の危機 2024.6.20

ヒスボラのナスララ党首登場:イスラエルに警告

先週3日間、ヒズボラはイスラエル北部へロケット弾の雨を降らせ、イスラエル軍も反撃し、ヒズボラのトップクラス指導者が死亡した。

その後、イスラム教ハッジに入って以来、今もまだ小休止状態が続いていたが、その後、数は依然より少ないものの、キリアット・シモナなどへのロケット弾が撃ち込まれている。

イスラエルはシリアへの攻撃など、これまでと同様の動きを続けている。

こうした中、18日、ヒズボラは、ドローンが撮影したハイファ港の映像を公開。これはほんの一部であり、イスラエル全土の映像を何時間分も保有しているとして、いつでも、どこへでも攻撃できると強調した。以下はその映像だが、なんとも音楽で演出しているようである。

www.timesofisrael.com/in-open-threat-hezbollah-publishes-drone-footage-of-sites-in-northern-israel/

これに対し、イスラエル軍は、ヒズボラのドローン発射地への攻撃を実施。ハレヴィ参謀総長は、ヒズボラが掌握しているのは、一部に過ぎないとこれにとりあわなかった。

するとその翌日19日、先週、イスラエルに暗殺された指導者タレブ・アブドラら3人の葬儀で、ヒズボラのナスララ党首が、1時間半にわたって演説(オンライン)し、久しぶりにメディアに現れることとなった。

ナスララ党首は、ヒズボラは、イスラエルとの全面戦争を望んでいるのではなく、ヒズボラはただハマスを支援しているのみであると強調。しかし、イスラエルの動きによっては、全面戦争に発展する可能性があると警告した。

演説の中で、ヒズボラは、次の点を挙げ、イスラエルにこれ以上の攻撃はしないように示唆した。

①イスラエルの攻撃に対するヒズボラの反撃は陸海空全域に及ぶ。イスラエル全域に安全な場所はない。

②地中海への攻撃は悲惨なことになる。(天然ガス採掘エリアへの攻撃を示唆)

③イスラエル空軍に空港をつかわせているキプロスへも攻撃する。
(キプロスは、イランが4月にイスラエルに向けて大量の発射したミサイルなどを迎撃したイギリス空軍機に発着場として空港を使用することを許可した)

イスラエルとキプロス
周辺(青色エリア)にある天然ガス BBC

これを受けて、キプロスのフリストドゥリディス大統領は、ガザへの人道支援物資搬送に協力している。

また、キプロスは、イスラエルだけでなく、レバノンとイラン、双方とも外交的なルートを維持しているとして、「我々はこの対立の解決になっても、問題になるつもりはない」と声明を発表した。

ナスララ党首は、締めくくりに、レバノン南部から避難している市民たちや、暗殺された司令官らの家族にむけてとしながら、今、「1948年(イスラエル独立戦争)以来、最大となる戦闘に直面している」と述べた。

www.timesofisrael.com/nasrallah-says-no-place-in-israel-would-be-safe-in-war-threatens-to-target-cyprus/

アメリカの外交努力も限界か

現在、フランスとアメリカが、全面戦争を阻止するべく、外交的努力を行っている。18日には、アメリカのこの地域を担当するホフスタイン特使が、イスラエルを訪問した後、レバノンのベイルートを訪問。レバノン議会のナビ・べエリ報道官(ヒズボラより)と会談している。

レバノンは現在、政治的経済的にも崩壊状態にあり、実質的には最大政党ヒズボラに支配されているようなものである。

その後に大きな変化は報告されていない。イスラエルは、外交努力がうまくいくかいかないかに関わらず、国の存続に関わる事態になれば、武力への移行は躊躇しないと言っている。

イスラエルに対し、アメリカは、全面戦争は誰も望んでいないと釘をさしている。

イスラエルは真剣:ヒズボラへの攻撃は躊躇なしか

 Northern Command HQ in Safed, June 19, 2024. (Ariel Hermoni/Defense Minisry)

Times of Israelによると、イスラエル軍は、18日、IDFハレヴィ参謀総長は、北部担当長官と会談。

ヒズボラとの戦闘が激化しているとして、これからのレバノンでの戦闘計画を承認したと発表した。その中には地上軍による作戦も含まれている。

イスラエル軍としては、ヒズボラを撃滅ではなく、リタニ川より北へ押し返すことが目標になる。

www.timesofisrael.com/top-israeli-generals-approve-lebanon-offensive-battle-plans-army-says/

ヒズボラとイスラエルの対立は今はじまったわけではない。イスラエル軍は、1982年のレバノン戦争以来、長くレバノン南部に駐留していたが、2000年に撤退を決めた。

ヒズボラは、1982年にシーア派(イランと同じ)組織として発足し、イスラエル軍撤退以後、レバノン南部で急速に力をつけた。レバノンにおける一つの政党としての顔もある。

それから24年の間に、イスラエルとの間には何度も戦争となってきたが、その度に停戦になってきた。レバノン南部は、ガザ国境のように、トンネルもあるが、地形敵に、イスラエルより高いので、戦闘員がなだれ込んでくる可能性がある。

また、この24年の間に、ヒズボラが配備したミサイルは、イスラエル北部だけでなく、テルアビブやエルサレムも含む文字通り全土に向けて、15万発にも及んでいることは、イスラエル軍も周知の事実である。ハマスと同様、それらは、一般市民の家屋内外周辺に設置されている。

これらが一斉に発射されたら、迎撃ミサイルでは追いつかないだろう。何年も前に、この地域を見渡す北部国境を取材したが、その時点で、レバノン側には、ヒスボラだけでなく、イランの旗もひるがえっていた。

イスラエル軍関係者は、もし、ヒズボラと対戦になれば、ミサイルの雨になる前に、全面的な絨毯攻撃に出るしかないと言っていた。そうなれば、イスラエルだけでなく、レバノン市民の間に膨大な被害が出るだろうとのことであった。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。