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9日、野党最有力の国民統一党ベニー・ガンツ氏が、今の緊急事態戦時内閣を離脱すると正式発表した。これに伴い、秋までに総選挙を行うことをネタニヤフ首相に要求した。しかし、ガンツ氏が離脱しても、ネタニヤフ政権は、64議席と過半数を維持するため、総選挙になるかどうかは不明。
ガンツ氏は、今、同意する議員は、続いて政権を離脱するように呼びかけている。逆に、極右政党のベングヴィル氏らは、彼らを戦時内閣に加えるよう、ネタニヤフ首相に要求し、国内の分裂がまたもや、表面化した形である。
ガンツ氏・戦時内閣から離脱の理由:政治的配慮で決断が遅い
イスラエルは今、ネタニヤフ首相を中心とする、右派左派(中道)が共存する、緊急事態戦時内閣が国を運営している。
この中に、極右のベングヴィル氏や、宗教シオニストのスモトリッチ氏など、極端な右派は入っていない。また、左派のラピード氏も入っていない。
この中で、いわば中道左派であり、野党で最有力の元イスラエル軍参謀総長のガンツ氏(国民統一党)が、戦時内閣に加わり、政権が極端な右寄りに進まないようにとの思いから、閣僚として、この政権に留まってきたのであった。
しかし、ネタニヤフ首相が、これほどの犠牲を費やしてもなお、漠然とハマス殲滅を掲げて、戦争を続けていることについては、疑問を発しており、先月、ネタニヤフ首相に対し、戦後ガザをどうするのかなど具体的なビジョンと、その方策を示すよう要求。
6月8日を期限として、その提示がないなら、戦時内閣を離脱すると爆弾宣言をしていた。
しかし、ネタニヤフ首相は、これになんの返事もしなかった。また、その期限である6月8日に、人質4人救出劇があったため、ガンツ氏は、政権離脱の発表の延期を余儀なくされた。ネタニヤフ首相は、この作戦の遂行を6日に正式に決定し、8日に実施するよう指示していたのである。
現地メディアは、救出作戦の成功で、一時は、ガンツ氏の気が変わるかとも言っていたが、9日、ガンツ氏は、戦時内閣を離脱し、総選挙を求めると発表した。
続いて、ガンツ氏とともに立っている、やはり元IDF参謀総長で、ハマスとの戦争で息子を戦死させた、ガディ・アイセンコット氏なども政権を離脱すると発表した。
ガンツ氏らは、その理由として、ネタニヤフ首相が、「ハマスに対する真の勝利を妨げている」と主張した。ガンツ氏の言う、真の勝利とは、①人質全員の帰還、②ガザのハマス壊滅と管理者交代、③北部国境からの避難民の帰還(南部ガザ国境避難民は概ね帰還)、④アメリカが関係するイランと敵対するアラブ諸国との関係強化、である。
ガンツ氏は、ネタニヤフ首相が、政治的な配慮から、重大な決断をためらうことが多く、これらを達成するための時を逃していると指摘する。ガンツ氏は、苦渋の決断で政府を去ることにしたと語っている。この決断について、左派のラピード氏は歓迎を表明した。
ガンツ氏後に極右政治家が入るか!?
ネタニヤフ首相と与党政党たちは、「今は選挙の時ではない。一致して戦う時だ。」と、ガンツ氏を引き止めようとした。しかし、ガンツ氏は、真の勝利に向けて、9月までに総選挙を行い、国民に信頼される政府を立ち上げるべきだと主張した。
また、特にネタニヤフ首相のリクード党員でありながら、ネタニヤフ首相に時々に反旗を翻している、ギャラント防衛相をさして、ガンツ氏の方針に同意する議員は、続いて離脱するようにと呼びかけた。
一方で、極右のベングヴィル氏(国家安全保障相)と、宗教シオニストのスモトリッチ氏(財務相)らは、ネタニヤフ首相に、ガンツ氏らが出た後の戦時内閣に自分達を加えるよう、訴えている。
ネタニヤフ首相は、世界の非難がさらに深まることを懸念し、この2人が入ってこないよう、ガンツ氏を維持したかったとの見方もある。
これから先、イスラエルの政府はどうなるのか、注目される。
石のひとりごと
戦争だけの話ではない。イスラエルの運営に、政治が深く関わっていることは、今に始まったことではない。それにしても、ネタニヤフ首相は、政治家としては、経験も知恵もしたたかさもガンツ氏のはるか上であり、ガンツ氏は、これまでからも何度も利用されてきたように思う。
ガンツ氏は、やはり純粋なのである。今回も、先月のガンツ氏の要求に、ネタニヤフ首相は返事すら出していなかった。
戦時内閣から、ガンツ氏が離脱した後、どうなっていくのかと思うが、ネタニヤフ首相のしたたかさは、ガンツ氏をはるかに超えていることを思えば、おそらくは、うまく、すりぬけるのではないかと思う。