カタール情勢とイスラエル 2017.6.29

カタールが、サウジアラビアなど湾岸諸国から、イランと過激派グループを支援しているとして村八分になっていることはお伝えした通り。23日、サウジアラビア、UAE、バハレーン、エジプトの4カ国は、カタールに対し、全面的な断交を回避するための条件として、13か条を提示した。

その13か条には、アルジャジーラ放送局の閉鎖、イランとの外交関係の削減、トルコ軍基地の閉鎖、ムスリム同胞団との関係遮断などが含まれている。

これを受諾するかどうかの期限は7月3日となっているが、カタールはこれを拒否するみこみとなっている。

サウジアラビアとの断交で食料調達にも危機的となったカタールには、地理的に向かいのイランが食料を搬入し、トルコもカタール側に立って、食料を搬入するほか、以前からの約束で、カタールに駐屯するトルコ軍を増強しているもようである。

www.bbc.com/news/world-middle-east-40262713

もしカタールが、13か条を拒否した場合、断交がさらに徹底することになり、GCC(湾岸協力会議)からの追放もありうるとサウジアラビアの外相は語っている。アメリカのティラーソン国務長官が、仲介を試みているが、4カ国のカタールへの態度は固そうである。

今後、カタールが、イランとの結びつきを強化すると思われるが、サウジアラビア外相は、「イランとカタールの結びつきは今に始まったことではない。もし両者がさらに関係を深めるとしたら、だれが敵味方かがはっきりするだけだ。」と語っている。

www.bbc.com/news/world-middle-east-40428947

現在、仲介にあたっているアメリカだが、先月サウジアラビアに武器を12兆円分売却したのち、カタールにも6月戦闘機F15を120億ドル(1兆5000億円程度)を売却することが決まった。

敵対するサウジにもカタールにも武器を売るとトランプ政権。ウラでどんな話になっているのかは全く不明だが、将来もし戦争になった場合にはどちらもがアメリカの武器を使うことになるわけである。

<サウジアラビアに対イラン強硬派の新皇太子誕生>

サウジアラビアのサルマン国王(81)は、王位継承1位のモハンマド・ビン・ナエフ皇太子を解任し、継承2位であった息子のモハンマド・ビン・サルマン氏(31)を交代させた。次のサウジアラビア王は、モハンマド・ビン・サルマン氏ということになる。

モハンマド・ビン・サルマン氏はこれまでからもサウジアラビアの内外の政策を取り仕切ってきたが、今回の昇格で、その権力がさらに集中することになるという。

www.nikkei.com/article/DGXLASGM21H6P_R20C17A6EA2000/

モハンマド・サルマン氏は、これまでサウジアラビアの防衛相を務め、イエメンでの戦争を導いてきた人物である。アメリカとの関係が深く、イエメンでの戦争において、イランに強硬的であることで知られる。

しかし、ワシントンポストは、この若いモハンマド・サルマン氏の力量に影もあると評する。

イエメンでの戦争は長引いており、終わる気配がない。このため、イエメン市民は深刻な人道危機に陥っている。最近では、イエメンでコレラが流行し、すでに20万人が罹患して死者も多数出ている。サウジアラビアの経済もまだ赤字が続き、改善の見通しはたっていない。

www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/theres-reason-to-doubt-saudi-arabias-charming-new-crown-prince/2017/06/25/f17ff988-582f-11e7-ba90-f5875b7d1876_story.html?utm_term=.5fce93ffc456

<イスラエルにはチャンス!?>

サウジアラビアがカタールに圧力をかけて、ガザへの支援をやめさせたことに加えて、親米対イラン姿勢を示していることは、イスラエルにとってはチャンスと考えられている。

イスラエルを総合的、客観的に評価し、今後に生かそうとする毎年恒例のヘルツェリア・カンファレンスで、イスラエル軍諜報機関のヘルツィ・ハレビー大佐は、「今、サウジアラビアなど穏健派スンニ派諸国と、共通の敵、共通の目標がある。今は関係回復のチャンスの時であると語った。

リーバーマン防衛相は、パレスチナ人たちは、防衛面でも経済面でもまったく自立できていないことを指摘。仮にイスラエルとパレスチナで国を分割する和平交渉が成立したとしても、平和になるどころか、問題は増えると警告した。

一つには、仮に将来、パレスチナという国が成立した場合、シリアやイラクで悲惨な状況の中、教育も受けられなかったような人々が70万人が、イスラエルのすぐ隣に入ってくることになる。パレスチナが防衛も経済も自立できていないため、難民は結局イスラエルへ入ろうとするだろう。これは巨大な問題だと語った。

そういうわけで、イスラエルはパレスチナとの2国家交渉をする前にまず、サウジなど穏健派スンニ派諸国と、正式な国交を回復し、地域ぐるみで、パレスチナへの適切な支援と圧力の中で交渉することが唯一の解決への道だと語った。

さらに、リーバーマン防衛相は、サウジアラビアなど穏健派と国交を回復し、経済関係も成立した場合、両国にとっても有益だと語った。具体的に、イスラエルには450億ドルに上るとの研究結果があると語った。


石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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