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パリで、モハンマドの風刺画をめぐって教師が殺害され、続いて、ニースのカトリック教会で同様に3人が殺害されるテロが発生。フランスのマクロン大統領は、これらがイスラム過激派によるものと断定し、イスラム教そのものとの対決姿勢にまで発展する結果となった。今後が懸念されている。
ニースのノートルダム寺院(カトリック教会)でのテロで3人死亡:1人は断首
29日朝9時すぎ、ニースのノートルダム寺院にテロリストが入り、そこにいた女性(60)をナイフ(30センチ大)で殺害。文字通り断首した。さらに教会で働く男性(55)の喉をナイフで切って死亡させ、もう一人の女性(44)にも切りつけた。
3人目の女性は、教会の外へ脱出して、近くのバーに逃げ込んだが、のちに、搬送先の病院で死亡した。
現場に警察官が駆けつけると、テロリストは攻撃的なうごきで、「アラー・アクバル」と叫んでいたという。警察官らは、説得を試みたが、効果がなかったため発砲。テロリストは、取り押さえられて病院へ搬送され、重傷となっている。
教会は、祈りに来る人のために、常に扉が開けられており、誰でも入れる状態にあった。日曜の礼拝中でなかったことが不幸中の幸だった。
www.bbc.com/news/world-europe-54736277
後の調べで、犯行に及んだのは、チュニジア出身の21歳で、先月、チュニジアからボートに乗ってイタリアへ到着した難民とみられる。イタリア赤十字の証明書を持っていた。また逮捕時、電話2機と、コーランのコピーを所持していたとのこと。
マクロン大統領は現場を訪れ、犯行がイスラム過激派によるものと断定。「襲われているのは、フランスの本質である自由である。我々は決して屈しない。」と対決姿勢を明らかにした。
パリでモハンマド風刺画を授業で使った教師へのテロ:断首
これに先立つ10月16日、学校で、イスラム教教祖ムハンマドの風刺画を、授業で使った教師がサミュエル・パティさん(47)が、「アラー・アクバル」と叫ぶイスラム過激派の男に断首される事件に端を発している。
パティさんを殺害したのは、チェチェン出身の過激イスラム、アブダラ・アンゾロブ(18)。その後の捜査で11人が逮捕されている。マクロン大統領は、パティさんの葬式で、イスラム過激派には屈しないとする対決姿勢を明確にしたことが報じられていた。
マクロン大統領は、アンゾロフさんの葬儀を国葬のようにして行い、フランスの最高勲章、「レジオン・ドヌール」を授与までしていた。
また、今回も、フランス各地で、この事件に反発するデモが発生。パリでは、マスクをつけた群衆に、アンヌ・イタルゴ市長も加わって、フランス国家を歌いながら、「私たちは恐れない。私たちは分断されない。私たちはフランスだ」と書いたプラカードを掲げた。
Vous ne nous faites pas peur.
Nous n’avons pas peur.
Vous ne nous diviserez pas.
Nous sommes la France ! pic.twitter.com/GjUQo9AePa— Jean Castex (@JeanCASTEX) October 18, 2020
自由の国フランスとイスラム世界の対立
フランスといえば、2015年に、雑誌シャルリー・エブド誌が、モハンマドの風刺画を掲載したことに反発し、出版社にイスラム過激派が乗り込んで、編集長や社員、駆けつけた警察官ら合わせて12人を殺害。同時にユダヤ教コシェルのマーケットで4人が殺害される事件が発生した。
この時、表現の自由を謳歌する世界がこの事件に反発。現場となったパリでは、世界の首脳にネタニヤフ首相、どういうわけか、パレスチナ自治政府のアッバス議長も加わって、フランスとのソリダリティの行進なども行われたのであった。
ちょうどISが勢力を拡大しはじめていた時期で、この後、エジプトでは、コプト教徒(キリスト教の一種)21人がイスラム過激派に殺害された他、ユダヤ人を標的にしたテロも続いた。その後、2016年にも大きなテロが2回発生している。
今回、マクロン大統領が、イスラム社会との対立を明白にすると、イラン、トルコをはじめ、サウジアラビア、クウェートなど湾岸諸国、エジプト、ヨルダン、アルジェリアなどからもいっせいに非難が相次いだ。
イスラム世界との対立姿勢を明白にしたフランスに対し、バングラディッシュの首都ダッカでは、28日、フランス大使館前で、フランス製品をボイコットするよう呼びかけるデモに4万人が参加した。
デモは、パティさんの葬儀で、イスラム主義への対立姿勢を明確にしたマクロン大統領に反発する形で実施されたもので、マクロン大統領の写真を燃やす様子も伝えられていた。デモ隊はまた、フランスの大使を追放するよう訴えていた。
www.bbc.com/news/world-asia-54704859
バングラディッシュに限らず、こうしたフランスへの反発を訴えるデモは、パキスタンなど、アジアのイスラム諸国にもひろがっている。
マレーシアのマハティール前首相(95)は、フランス人教師が、モハンマドの風刺画を使ったことについて、殺害には同意しないとしながらも、「他人に対する侮辱」は表現の自由には含まれないはずだと主張。ニースの教会でのテロの直後、ツイッターに次のように投稿した。
「フランスは他者の気持ちを尊重することを国民に教えるべきだ。フランス人は、一人の行為をイスラム教徒全員の責任にしている。だからイスラム教徒には、フランス人を罰する権利がある」
フランス政府の猛抗議を受けて、ツイッターはまもなくこれを削除した。
www.aljazeera.com/news/2020/10/29/muslims-have-right-to-punish-french-says-malaysias-mahathir
レバノンのヒズボラとも対立姿勢
フランスへのイスラム社会からの反発は、レバノンにもみられる。レバノンでは、ベイルートの大爆発後、政府が総辞職する形となり、今後が注目されているところである。
フランスはかつての宗主国として、レバノンで影響力を伸ばそうとして、ヒズボラと対立する立場に立っている。経済的な困難から、ヒズボラは、イラン、トルコ、中国からの支援で国の再建を目指すとして、フランスと対立しているのである。
エルサレムポストによると、フランスが勢力を失いつつあるとのこと。
新型コロナの再感染拡大でロックダウン入り
こうした状況に追い打ちをかけるように、フランスでは、1日の感染者が4万7000人と、新型コロナの感染が再び深刻になってきたことを受けて、30日から1ヶ月を予定とする2回目のロックダウンに入った。上記テロは、その直前に発生したことになる。
石のひとりごと
2回目のロックダウンによる経済的な打撃ははかりしれない。フランスは今、大きすぎるほどの試練に直面している。若い大統領が、これをどう乗り越えていくだろうか。フランスとマクロン大統領を覚えてとりなすとともに、今後、欧米社会とイスラム社会の新たな対立の火花にならなければよいがとも思う。
また、こうしたテロが発生すると、まずは、ユダヤ人が狙われる可能性が高まるものである。フランス全体が危機的な状況にはある中、特に、フランスにいるユダヤ人組織が狙われる可能性も高いので、ここしばらくは、要とりなしと思われる。