イスラエル人とパレスチナ人:極右含む右派政権をどう思うか 2022.11.16

今は右派ネタニヤフしかない?:複雑なイスラエル市民

エルサレム市内

いろいろな意味で、今のラピード政権から、過激なほどに劇的などんでん返しといえる。イスラエルでは右傾化が進んでいると言われ、国民の過半数がこの右派政権に一票を投じたわけだが、それでも、汚職裁判の途中にあるネタニヤフ氏が首相になることを快く思っていない人は少なくない。

しかし、世界やイスラエル周辺の状況を考えると、やはり、ネタニヤフ氏ほどに強い指導者が必要ということを考えた人も多かった。「強い」「恐ろしい」ということが、テロを抑える力となり、防衛につながるからである。

また、極右だからといって、必ずしも危険で悪いとは言い消えれないという声もある。その例として、1977年から首相だったメナヘム・べギン首相があげられる。

べギン首相は、かつて、イスラエル建国前のイギリス委任統治時代、イギリスと追放しようとして、数々のテロを決行したイルグンのメンバーで、完全に極右であった。しかしイスラエルが建国すると政界入りし、右派政党を集めてリクード党と結成。1977年に首相になる。今と少し類似する状況である。

べギン首相は、右派であったにもかかわらず、1978年にはエジプトのサダト大統領とキャンプデービッド合意に署名。翌年には、エジプトと和平条約を締結して、シナイ半島からイスラエル軍を撤退させ、半島をエジプトに返還した。極右からは、大きなイメージ転換で、世界はベギン首相とサダト大統領にノーベル平和賞を授与した。

また2001年からのアリエル・シャロン首相も、右派政権として世界中から警戒されたが、ガザからイスラエル軍と入植地全てを撤退させた。つまり、極右だからといいって、かならずしも危険とは限らないということである。

イスラエル人ジャーナリストのBさんは、断固ネタニヤフ支持者ではないと言う。しかし、ラピード首相は(レバノン海域問題など)外交で国を売り出してしまったと激しく怒っていた。だから、「今は心ではなく、頭の理解で、ネタニヤフに投じる時だ。」と主張していた。

右派ネタニヤフ氏でよかった!?:現地パレスチナ人ジャーナリスト・インタビュー

ナブルス市内

この時期に、東エルサレム在住のパレスチナ人ジャーナリストのSさんに話を聞くことができた。

驚いたことに、Sさんは、ネタニヤフになって良かったとの意見を持っていた。無論、これがパレスチナ人全体の考えではないが、かといって、この人だけの考えだけでもないだろう。

Sさんは、次のように語った。「ネタニヤフ氏は明らかに右派なので、考えていることがわかりやすい。またやると言ったらやる人でもある。だから交渉も可能だと思う。

また、強いリーダーの存在は、平穏につながる。イスラエル国内でも、過激派にものを言わさず、パレスチナ側でも、「ネタニヤフか・・ならばしかたないな」というあきらめの感覚があった。

今、西岸地区でイスラエル軍とパレスチナ人との戦闘が毎日にように繰り広げられているが、ラピード政権に変わってからのことである。ネタニヤフ氏がトップならこのようなことにはならなかったかもしれない。昨年、イスラエル国内でもアラブ人地域で、戦闘状態になったが、これもベネット政権になってすぐのことだった。

ベン・グブール氏は、確かに極右で、西岸地区全部がイスラエルだという考えを持っているが、彼は自分の考えをペラペラ喋る。だからわかりやすい。そう言う人は恐ろしくない。本当に怖いのはだまっていて行動を起こす人だ。

今のラピード政権、前のベネット政権は、ばらばらで対処が難しい。ベネット氏がこう言う。するとラピード氏は別のことを言う。さらにガンツ氏が違うことを言うなど、計画性もなかった。結局、何もしなかった。

また、ベネット、ラピード政権は、政治的な論議はせず、パレスチナ人の経済を回復させることだけに力を入れた。経済がよくなれば、パレスチナ人は変わると考えていた。それはあまりにもパレスチナ人をばかにしている。私たちにも尊厳はある。だれにも占領されない、自決権のある国を持つこと。それが目標だ。

今の混乱は自治政府の責任でもある。イスラエルを憎むといいながら、一方では、イスラエルと協力もしている。私はまた、パレスチナ自治政府は、トランプ前大統領の和平案を受け入れなかったことは、失敗であったと考えている。

トランプ氏は、パレスチナ人の経済だけでなく、政治的な解決を含むプランをオファーしていた。自治政府は、当時、ただただすべてを拒否したが、それは間違いだったと思う。政治的な解決のオファーがあるなら、頭から拒否せず、とりあえず、それを確認、検討するべきだ。

もし、その道を行っていれば、パレスチナもまた中東の一つの国として、アブラハム合意に加われたかもしれない。(ハマスなどと違い、自治政府はイスラエルの存在を認める立場であるため、2国家共存はありうるため)

とはいえ、汚職にまみれたPAのかつての古いPLOの支配はもう終わらなければならない。今は、若い世代でビジョンをもつ指導者を選挙で選ぶべきだ。そうして、イスラエルとも交渉をして、自立した国を立ち上げたい。しかし、PAがいる限り、それは不可能だ。この中途半端こそがイスラエルの望むところなのだ。だから、イスラエルはPAを維持させようとしている。

しかし、たとえ高齢のアッバス議長が亡くなっても、次の人物が出てくるだけで、自治政府はこれからも続くだろう。パレスチナ人だけで、この問題を解決することはできない。国際的な強力な力が必要だが、それが今不在だ。バイデン大統領はパレスチナ問題への解決案を持っていない。

この問題は、解決も将来もとんずまりにある。解決は見えない。だから、今、若い世代で新しい形の反イスラエルに反PA感情が加わったようなムーブメントが始まっているのだ。(事項紹介のライオンズデン)

*何をもって占領というのか

パレスチナ問題において、何が占領かということについて、Sさんは、西岸地区(自分たちの領域)に80万人からのユダヤ人入植者が住んでいること、検問所で出入りをチェックされることをあげていた。一つの独立した国ではないということ。

石のひとりごと

Sさんのネタニヤフでよかったというコメントには驚かされた。この1年、ベネット氏、ラピード氏による多様な政府が、意外にうまく状況に対処していると感じていた。しかし、パレスチナ側からすると、いったい何がいいたいのかよくわからない、顔がみえないということだったようである。

顔となるリーダーの在り方について、確かに・・・とは思わされたものの、これは、パレスチナ人が民主主義というものに不慣れであることを表しているのではないだろうか。

Sさんだけでなく、パレスチナ人たちは、正当な選挙でリーダーを選びたいと言っているが、最終的には、市民の声を反映するというよりは、一人の強いリーダーが、強力に支配する方を好むのではないかと思う。

生き残りをかけて厳しい戦いをしている中東世界において、民主主義は、場違いなのかもしれない。

これからネタニヤフ氏が再びイスラエルの顔となって、パレスチナ人たちとも立ち向かう。強いリーダーと民主主義が同居することになる。難しい国運営である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。