イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)が国交正常化で合意:アラブ諸国と3国目 2020.8.14

ネタニヤフ首相 出展:GPO

アメリカ仲介・イスラエルとUAE国交樹立合意

合意を発表するホワイトハウス
出展:ホワイトハウス

13日、ネタニヤフ首相は、イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)が、アメリカの仲介で、国交樹立、正常化することで合意したと発表した。現時点で、イスラエルと和平条約を交わしているアラブ諸国は、エジプト(1979年)とヨルダン(1994年)だけなので、歴史的な3国目ということになる。

歴史的な合意は、13日木曜、アメリカのトランプ大統領、イスラエルのネタニヤフ首相、UAEのムハンマド・アル・サイード皇太子の電話による会談で決定したという。

今後、イスラエルとUAEは、合意を書面にまとめ上げて、3週間後にアメリカのホワイトハウスで、署名式を行う。

この合意によると、両国は互いの国に、大使館を置き、直航便を開通させる。投資や技術協力が可能になるほか、互いの国民の旅行も可能になる。UAEには、ユダヤ人最大1500人のコミュニティがあり、シナゴーグも3つあるが、この人々は、今回の合意に、特に大きな喜びを表明している。

www.timesofisrael.com/uae-jewish-community-celebrates-peace-with-israel-excited-about-direct-flights/

ネタニヤフ首相は、13日、両国が協力することで、世界に大きく貢献することになる、さらにアラブ諸国がUAEに続くだろうと期待を込めてこの合意を国民に報告した。

イランとUAE
出展:Wikipedia

なお、UAEは、イランとホルムズ海峡をはさんで対峙する位置にある。この位置に、アメリカの友好国であるイスラエルが足がかりを持つことは、イランに目を光らせるイスラエル、アメリカにとって大きな一石が投じられたことになる。

トランプ大統領は、歴史的な合意だと喝采。同時にこれは自分がすすめた中東和平案があったから実現したのだと、自らの功績を強調するとともに、今後、他の湾岸アラブ諸国が、これに続くだろうとの期待を語った。

*合同発表の全文
www.timesofisrael.com/full-text-joint-statement-on-normalization-of-relations-between-israel-uae/

ところで、UAEはその名の通り、領土を持つ首長7人が一緒になってつくりあげた連邦国である。日本人にはなじみの深いドバイもそのうちのひとつ。この中で、今回、UAE代表としてイスラエルとの合意に至ったのは、UAE最大の首長国アブダビのモハンマド・アル・サイード皇太子であった。

サマリア地区(西岸地区)一部合併案は棚上げへ

今回、UAEがこの合意の条件として出したのが、イスラエルがめざしてきたサマリア地区(西岸地区)の一部合併案の棚上げにするということであった。

これは、トランプ大統領が、「正規の取引」と称してすすめている中東和平案のひとつとしてすすめていたもので、西岸地区のユダヤ人入植地や周辺道路などを含む30%をイスラエルの主権下に、その他70%はパレスチナの主権下(パレスチナ国家認める)という案である。

計画では単純明快にみえるかもしれないが、現地において、その分離の仕方は非常に複雑であった。また、パレスチナ自治政府にとっては、たとえ70%を支配下に入れると言われても、東エルサレムを首都にできないほか、非武装の国にするという実現不可能としかいいようのない計画であった。アッバス議長は、NOが1000回だと頭からこれをはねつけたのであった。

イスラエル国内でも、一方的な合併はありえないと反発する意見、右派たちは、ユダヤ人入植地がイスラエルの国に合併されることは歓迎するが、パレスチナの国を認めることには承服しかねるなど、意見は割れた。

その後、コロナ危機が勃発し、イスラエルもアメリカも、自国のコロナ問題や、黒人デモなどで、この問題に関わることができなくなった。しかし、ネタニヤフ首相は、世界がコロナ危機で、手いっぱいのすきにと考えたのか、またはトランプ大統領が在職中にと考えたか、はたまた、右派の支持を維持するためか、今のうちに合併を実施してしまおうという動をしていた。しかし、国内からは左派を中心とした激しい反発もあり、この問題は、自然に棚上げ状態となっていた。

こうした中でのUAEのこの問題棚上げ条件だったわけである。ネタニヤフ首相にとっては、むしろ、渡りに船であったかもしれない。いともあっさりと、西岸地区合併案の棚上げを受け入れ、UAEとの国交正常化を選んだ形となった。

www.timesofisrael.com

イスラエル国内の反応:青白党は背後

アラブ諸国とのあらたな国交開始については、概ね歓迎といえる。テルアビブ市は、市役所壁に、UAEとイスラエルの旗を交互に映し出して、国交開始への祝いを表現した。

www.timesofisrael.com/lauding-normalized-ties-tel-aviv-city-hall-lights-up-with-flags-of-israel-uae/

ガンツ氏は、腰痛がひどくなったとして、11日、急遽、椎間板ヘルニアの手術を受けた。数日で回復にむかっているが、UAEの決定について、青白党のガンツ防衛相と、アシュケナジ外相は、蚊帳の外に置かれていたもようである。

www.timesofisrael.com/hospital-says-gantz-out-of-surgery-after-successful-operation-for-back-injury/

これについて、ネタニヤフ首相は、それがアメリカの指示であり、発表までできるだけ内密にして、イランなどの妨害が入らないようにするためだったと説明している。これについて、ガンツ氏からの反発はない。

この合意について、落胆したのは、西岸地区一部合併を推し進めていた右派と西岸地区入植地住民である。右派党(ヤミナ)のナフタリ・ベネット氏は、UAEとの合意を高く評価しながらも、「大きなチャンスの時を逃した。」と述べた。

これについて、ネタニヤフ首相、トランプ大統領も、西岸地区合併の懸案については、完全に放棄したわけではなく、とりあえず今は、これを棚上げにするということだと強調している。また、トランプ大統領は、イスラエルとUAEが国交を始めることでどれほどの益があるかが見えたら、(パレスチナとの)状況もまた変わってくるだろうと述べている。

トランプ大統領まきかえしになるか

このイスラエルとUAEの国交正常化合意は、国連のグテーレス事務局長はじめ、特にイギリスのジョンソン首相が、賞賛すると表明している。

www.timesofisrael.com/un-chief-uks-johnson-welcome-israel-uae-deal-suspended-annexation-plans/

この歴史的な発表は、トランプ大統領にとっても、大きな後押しになったと考えられる。この発表は、米大統領選挙におけるライバルのバイデン候補が黒人、ユダヤ人からの支持も期待できるハリス氏を副大統領候補に選んだとのニュースが全米、世界に駆け巡った直後であった。

この歴史的な合意を実現させたトランプ大統領の支持率がもちなおすかもしれない。全てが計算の上で、今この時に、この発表がなされたのではとも思わせられるところである。

石のひとりごと

ネタニヤフ首相の動きを見ていると、ともかくなんでもトランプ大統領の言う通り、という様子が見え隠れして危うい感じもする。またトランプ大統領の動きもどうにもおぼつかない。しかし、今回もまた、結果的に、国交を持つアラブ諸国がもう一つできたという大きなどんでん返しとなった。

UAEがイスラエルとの国交に合意したということ。これはこれまでの「1967年の合意に戻るまでは、アラブ諸国とイスラエルが手を組むなど絶対にありえない。」という大前提がひっくり返されたことになる。

しかも、イスラエルは、合併計画を保留(停止ではない)にしただけで、実質的には、西岸地区からもエルサレムからも、一歩も撤退せず、何も変えていないのに、UAEとの国交合意を獲得したのである。

今思えば、この西岸地区の合併問題。どうみても不可能にみえたが、ネタニヤフ首相はパレスチナ側を脅かすばかりに実施を主張していた。もしかしたら、こういう結果になるためのダミー計画だったのではないか・・・とは石のひとりごとである。

www.timesofisrael.com/upending-traditional-views-on-peacemaking-israel-uae-deal-truly-heralds-new-era/

さて、エゼキエル38章には、将来、安心して住んでいるイスラエルを攻撃してくるゴグ・マゴグの戦いのことが書かれている。攻めてくるのは、北のロシアやイラン、トルコ、南からは北アフリカ方面の国と考えられている。

これに参戦していないとみられるシェバ、デタンという地域にあたるのが、すでに、イスラエルと和平条約に至っているエジプト、ヨルダン、そして、今回のUAEを含むアラビア半島である。今回、UAEのイスラエルとの国交樹立で、一歩も二歩もこの終末の形に近づいた感がある。

やはり、私たち人間の想像も介入も超えたところで、主は、歴史を支配しておられる。今朝は、ますます再臨、いやその前の携挙が現実になってきたような気がした。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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