レバノンからロケット弾6発:イスラエルに届かず 2021.5.18

手前がメトゥラの町で、その向こうがレバノン

レバノンからロケット弾6発:イスラエルに届かず

17日夜、レバノン南部からイスラエル北部に向けてロケット弾が6発が発射され、北部各地でサイレンが鳴らされた。幸い、どれもイスラエル領内に届かず、レバノン領内に着弾し、被害はでていない。

国境にいたイスラエル軍が、直ちにロケット弾発射地方面に向けて砲撃22発実施したとのこと。レバノン軍によると、イスラエル軍の反撃の方向からみて、ロケット弾は、国境に近いシェバ・ファームから発射されていたとみられている。

念のため、イスラエル軍は、北部国境4キロ以内の住民に、シェルターを準備するよう指示したが、その後は平穏が戻っている。

小競り合いの北部情勢:ヒズボラ1人死亡

南部でガザとの激しい戦闘が続く中、北部でも小さい攻撃が散発し、緊張が続いている。

レバノンから最初にロケット弾が発射されたのは、13日(木)。これらはすべて地中海に落下した。この時はヒズボラの関与はなく、パレスチナ人によるものとレバノンのメディアは伝えていた。

メトゥラ

その同じ13日(木)レバノン国境メトゥラ付近で数十人とみられる一団の親パレスチナのデモが発生。付近に放火したり、イスラエル側に催涙弾を飛ばしたりした。

さらにはイスラエル国境にむかって接近してきたため、イスラエル軍が警告の砲撃したところ、レバノン人が1人死亡した。

レバノンのアウン大統領は当初、ヒズボラではないレバノン人が死亡したとして、「イスラエル軍の犯罪だ」と非難していた。しかし、後にヒズボラが、死亡したのは、ヒズボラのメンバー、モハンマド・ターハン(21)であったと発表した。

この直後、シリアからミサイルが3発、イスラエルに向けて発射された。1発はイスラエルに届かず、2発は空き地に着弾して被害はなかった。

*レバノンとイスラエルの国境

イスラエルとレバノンはまだ和平条約に至っておらず、まだ戦闘状態という扱いになっている。

このため、イスラエルとレバノンの間には、1978年から今も、UNIFIL(国連レバノン暫定駐留軍)が駐屯して双方を監視している。

しかし、2000年にイスラエルが南レバノンから撤退すると、ヒズビラがレバノンで勢力を拡大し、以来、2006年の第二次レバノン戦争を含め、イスラエルとの紛争が発生している。

最も最近では、2018年に、ヒズボラが地下トンネルを通じて、イスラエル側へ侵入を試みたため、イスラエルは、トンネルを破壊した上、防護壁を築いたのであった。

こうした中、UNIFILは、両者の間に立って、監視、警告はする役割をになっている。しかし、軍事的な介入はしていない。

今回もUNIFILが、レバノンからのロケット攻撃を察知し、ただちに双方に武力行使しないよう、警告を発していたのであった。

www.jpost.com/breaking-news/sirens-in-northern-israel-rockets-fall-in-lebanon-report-668376

嵐の前の静けさ?:Not Now の祈り

北部は今、“嵐の前の静けさ”といった不気味な空気になっている。ヒズボラとの戦闘は、絶対に避けなければならない。ヒズボラは、すでに15万発のミサイルとイスラルに向け、もう長い間戦闘態勢を整えているのである。

そのヒズボラを配下におくイランは、今のガザの戦闘をみて、「イスラエルには空の防衛に弱点がある」と言っているという。ハマスが、5分間に135発のロケット弾を発射したところ、アイアンドームは、これをすべて防御できず、イスラエル市街地に着弾するのを防ぎきれていなかったからである。

ヒズボラは、1日に2000発射するとみられている。以前、IDFは、もし次ヒズボラが発射してくれば、イスラエルは文字通り、絨毯爆撃のように、レバノン南部を短時間に攻撃して、ミサイルをすべて破壊する作戦に出ると言っていた。ハマスと同様、ヒズボラのミサイルも、市民の家の中や地下に配置されている。双方の被害ははかりしれない。

また、もし北部で戦闘になった場合、シリア、そしてイランが、介入してくる。そうなると、その背後にいて、シリアを中東、地中海への足掛かりにしているロシアが介入してくることにもつながってくる。ロシア、イラン、トルコなどが共にイスラエルに攻めてくるという聖書預言(エゼキエル38―39章)にまた一歩近づいいてしまう様相である。

エルサレムとりなしのリック・ライディングさんは、今はまだその時ではない、「NOT NOW」と宣言し、この争いを差し止めるとりなしをよびかけている。

幸いといっていのかどうかだが・・・レバノンは、昨年8月、ベイルートで発生した膨大ば大爆発により、子供10万人を含む30万人が、家を失いホームレスとなった。政治も安定していない。こうした中、ヒズボラがイスラエルと戦争を始めたら、国は終了してしまうだろう。レバノン政府が、ヒズボラを抑えている可能性はある。

www.forbes.com/sites/unicefusa/2021/04/23/ramadan-in-lebanon-after-a-deadly-explosion-trauma-lingers/?sh=5c76c47f1d38

また、イスラエルがガザで行なっている大規模で厳しい攻撃は、ヒズボラにとっても、攻撃の前に一考させられる様相であろう。イスラエルが今、ガザへの攻撃に手加減していないのは、ハマスに限らず、すべてのイスラエルに敵対する組織にイスラエルの力を見せつけて、さらなる衝突を防ぐという意味合いもある。

しかし、もしかしたらガザとの戦闘が長引けば長引くほど、北部戦線に影響が及んでくる可能性が高まるということになるのではないかと懸念されるところである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。