ISISとシリア人難民 2016.4.11

<シリア難民の近況>

1)トルコとヨーロッパの難民協定その後

先月、トルコとEUが、ギリシャに流れ着いた難民についての取り決めを行ったが、その実施がはじまった。

4月初頭、暴動が発生するのではないかと懸念されたが、比較的静かにまず最初の難民200人がトルコへ送還された。送還されたのは、難民申請を出していなかった人々で、約130人はパキスタン人だった。

この様子を見て、現在ギリシャ(レスボス島)の難民キャンプにいた難民ら3000人が一斉に難民申請を出した。少なくとも、その内容が精査されるまでは、送還を逃れることが可能である。現在、400人の担当官が申請の精査にあたっているが、なかなか時間はかかりそうである。担当官は62人増員予定。

ところで、難民たちが、これまでギリシャで難民申請をしなかったのは、経済的に破綻しているギリシャではなく、ヨーロッパのどこかで難民申請をして、そこに落ち着くためである。しかし、このままではトルコに送還されると知って、ギリシャでの難民申請に踏み切ったとみられる。

しかし、あくまでもヨーロッパへ向いたい難民たちは、国境を破ってマケドニアへ移動を試みたり、別のルートを探したりする者もいる。マケドニアでは、こうした難民を追放するため、催涙弾を使うなどして国際的な問題となっている。

なお、多数の溺死者を出したトルコからギリシャへの密航ルートを利用する難民は、今回のトルコーEUの措置により、すべてトルコへ送還されることになっている。その効果は劇的で、今ではトルコからギリシャへの密航はほとんどないという。

しかし、この措置が、難民本人の意思を無視している点や、すでに270万人のシリア難民を抱えるトルコで、今後十分な難民対策がとれるとは思えない。

また北アフリカからイタリアへ移動するルートが再燃したり、新たなルートができてしまう可能性も懸念されているところである。

www.bbc.com/news/world-europe-35967351

*悲惨なトルコにいる250万人のシリア難民の様子

トルコは250万人にのぼるシリア難民を受け入れているが、住居施設は20万人分しか支給していない。当然、一つの体育館のような場所に数百人が文字通りゴミの山のようにぎっしり雑魚寝している。

子供たちは80%が教育を受けられないままで働かされている状態が続く。治安も悪く、過去4ヶ月でわかっているだけで16人が銃殺されている。

www.independent.co.uk/news/world/europe/pictures-of-life-for-turkeys-25-million-syrian-refugees-crisis-migrant-a6969551.html

*難民数字

2016年1月1日から4月7日までにギリシャへ到着した難民:15万2461人 うち子供37% トルコからギリシャへ移動中の死者数366人 (IOM調べ)

2)シリア・イラク国内

シリア、イラク領内では、ISISが領地を失う流れが続いている。

先週、ISISがまだ本拠地として維持しているモスル(イラク第二の都市)にはイラク軍がせまり、ISISが逃れ始めている。これに先立ち、モスルからは、市民たちが大きな衝突に備えて、数百人単位で逃れて出て来て、ISIS支配下での耐え難い生活について語っている。

www.bbc.com/news/world-middle-east-35942072

シリアではISISに占領されていたアル・カラティンの町(ダマスカスから北へ100キロ)がシリア軍によって奪回された。町には300人のシリア正教のキリスト教徒が取り残されていたが、そのうち21人が、イスラムへの改宗を拒否して虐殺されたと司祭が証言。5人がまだ行方不明だという。

またキリスト教徒の少女たちは奴隷に売るとISISに警告されていたと司祭は語っている。(少女たちは無事ということと思われる)

教会建物はじめ、町はかなり破壊されているが、シリア政府軍は、バスで住民を町に戻す作業を行っている。

www.bbc.com/news/world-middle-east-36011663

*戦うキリスト教徒

イラクでは、クリスチャンが武器を持って立ち上がり戦闘部隊「バビロン部隊」を形成している。司令官のライヤン・アル・キルダニ氏は、その人数は明らかにしていないが、かなりの数の戦闘員がおり、イスラム教徒の部隊とともに戦っているという。

キルダニ氏は、「イスラム国はデビルだ。」とし、「聖書が、右の頬を打たれたら、左を出しなさいといっていることは知っている。しかし、今、強い防衛力を持つことで攻撃されなくなった(戦わなくてよいという事)。家もとりもどした。キリスト教徒の苦しみは終わった。」と語る。

またルカ書22:36から、「イエス自身が剣を買っておくように言っている。」と語り、武器所有・使用は聖書的にも容認されていると言っている。これについては様々な神学的論議がある。

しかし、同じ聖書(新約以外)を基盤に持ち、「殺してはならない」と命じる神を信仰するユダヤ人も、無抵抗から武器を取って戦うようになった歴史的な時期があった。イスラエルの建国はそこから始まったのである。

中東のキリスト教徒もまた、無抵抗の時代から今、迫害の極地を経て武器をとる時代に至っているようである。キルダニ氏によると、キリスト教徒の戦闘部隊が活躍するのはイラク史上初めてだという。

www.bbc.com/news/magazine-35998716

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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