80年代から生死不明捕虜ロン・アラッド飛行士捜索で物議:妻が覚悟の発言 2021.10.8

レバノン戦争中の1986年から不明となったロン・アラッドさん 写真:IDF

ベネット首相が国会でロン・アラッドさんについて報告

photo credit: MARC ISRAEL SELLEM
Jeruslem Post

イスラエルでは、4日、冬季国会が幕開けた。さっそく筆頭野党リクードのネタニヤフ前首相が、特にベネット政権のコロナ対策で大勢が死んでいると激しく非難の応酬がはじまっている。

こうした中、ベネット首相が、スパイ組織モサドの男女のメンバーにより、1986年のレバノン戦争以来、生死が確定しないまま行方不明になっている空軍パイロットのロン・アラッドさんに関する情報を集める活動を始めたと、詳細は語らなかったが、衝撃的な報告を行った。ロンさんが最後に確認されたのは、33年も前の1988年である。

ロンドン基盤のメディアやアルアラビアによると、モサドが、シリアにいたイラン軍司令官を誘拐し、遠いアフリカのどこかで、ロン・アラッド飛行士に関する情報を尋問。その後釈放したということであった。

その後、サウジアラビアのメディアが伝えたところによると、モサドは、レバノン北部の村で、遺体のDNAをとってロンさんのものかどうか調べていたとのことである。結果についての発表はない。

このモサドの作戦について、国内のメディアからは、当初、失敗であっただけでなく、これを公表したベネット首相に非難の声が殺到した。イラン人を誘拐しているので、イランの敵意を引き起こし、イスラエルの治安が危うくなったという解説もあった。

これを受けて首相府は、「作戦は成功したのであり、目標は達成された。イスラエルの政府は、どれほど年月がたっていようとも、捕虜になった国民を忘れることはないということだ。」と発表した。

こうした中で、キプロスで、ビジネスマンが暗殺されそうになったということである。ベネット首相たちは、この2つの件に関連性があるとみたようである。

*ロン・アラッド飛行士について

ロン・アラッドさんは、1982年に勃発したレバノン戦争で、戦闘機のパイロットとして参戦。南レバノンで爆撃を受けて飛行機が墜落に向かったため、パラシュートで脱出したところ、シーア派組織アマルに拘束された。その後いったんイランに連れて行かれ、またレバノンに戻ったとみられている。最後に生きている様子が確認されたのは、1988年の5月5日である。

その後は、ロンさんはもう死亡していると考えられてはいたが、イスラエル軍やヒズボラもそれぞれの見解を発表していた。最後は、レバノンの新聞が、2016年に出した見解で、ロンさんは1988年に、シーア派組織に拷問されて死亡し、レバノンの首都ベイルート近くのどこかに葬られたとのことであった。

www.timesofisrael.com/report-israeli-airman-ron-arad-was-tortured-to-death-in-1988/

誰かの命を危うくしてまで夫の捜索は不要:ロン・アラッドさん妻

タミさん

こうした流れの中で、7日、ロン・アラッドさんの妻、タミさんが、「もし夫が確実に死亡していることが明らかになっているなら、誰かの命を代償にしてまで、夫の遺体をとりもどす作戦はしないでほしい。」と公に発表した。

タミさんは、これまでからも、特別なミッションが行われるたびに、モサドにだれも犠牲者が出てないことを確認していたという。これまでのところこの件に関する犠牲者は発生していない。

タミさんは、その理由として、「夫のことをどうでもよいと思っているわけではない。しかし、この方針により、将来、捕虜になった人の命が守られるのではないかと思う。」と述べた。もしイスラエルが遺体になった場合は、もう交渉しないとなれば、敵は捕虜を殺さずにいるのではないかということである。

ロンさんがまだ生きているかどうかだが、2006年に、ロンさんの本格的な捜索を命じたオルメルト元首相は、この時の調査で、ロンさんがどこでどのように捕獲され、その後どのように過ごしていたかの詳細はすでにわかっていると述べた。

オルメルと前首相は、ロンさんはイランへは移送されていなかったこと、また1988年の5月にロンさんは殺されているとの考えを語っている。

www.timesofisrael.com/ron-arads-wife-if-hes-dead-israel-shouldnt-pay-a-price-to-return-his-body/

<石のひとりごと>

覚悟の決まったようなタミさんの発言だが、心のうちは悲痛だろう。しかし、それでだれかが死ぬようなことがあったらもっと心は痛むことになるだろう。いつも思うが、イスラエル人の中にある命への経緯は、普通以上である。自然にいのちの創造主への敬意が備わっているのだろう。

一方、2014年のガザとの戦争で戦死し、遺体をまだ返却してもらっていない2人の兵士の家族らは、必ず彼らを取り戻すよう、政府に要請を続けている。彼らはこの発言をどう受け取るだろうか。

無論、ロン・アラッドさんのケースは、30年以上も前なので、7年前のケースとは比べようもないことであるのだが、タミさんの発言は、イスラエルのメディアでは大きく取り上げられていた。

それにしても30年以上も前に、おそらくもう死亡しているとみられる国民のために、その情報を得ようと国をあげて動くような国が他にあるだろうか。こういう姿から、国民は一人一人が国に必要とされているという確信を持つことができ、健全な愛国心で、従軍もできるのだろうと思う。

石堂ゆみ

石堂ゆみ

ジャーナリスト、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて18年。学校・企業・教会などで講演して15年になります。