経済活動一部再開へ:自営業者が支援訴え国会・大統領官邸前でデモ 2020.4.20

リブリン大統領官邸にて 出展:GPO

経済活動一部再開とその内容

イスラエルの感染状況は、過去24時間で、感染者298人増えて3754人、死者は、8人増えて172人。人工呼吸器依存者は、109人。死者はまだ増える傾向にあるが、新たな感染者、また重傷者の数は減少に向かっていることから、イスラエル政府は、予定通り、外出規制の緩和を開始した。

19日(日)より、5月3日(日)までとして、最終的に発表された内容とは以下の通り。いわゆるロックダウンが始まってから1ヶ月半後の制限緩和である。非常に細部にわたって、具体的な指示になっている。

1)企業関連

①企業の労働者30%まで出社を許可。もしくは、一つの部屋に10人まで。ハイテク産業については例外もありうる。

*パープル・バッジ(自主証明)がある企業には、この制限の免除もありうる

パープルバッジとは、企業が、コロナ対策担当者を決め、政府の清潔規制を守っているかどうか、人が集まっていないイアコーヒーエリアやキッチンの監視、人の間隔2メートルの監視、社内に入る時の検温、社員の通勤アレンジを徹底している場合に得られる証明のこと。

万が一、社内で感染者が出た場合、その部署、もしくは企業全体は、保健省が許可するまで閉鎖とする。また、ハイリスクとされる者は出社しない方向で。

②店舗については、電気店、日用品店、メガネ屋などで、パープルバッジを実践している場合は、開店を許可。ただし、レジ1台なら客の入店は、3人まで。店舗が400平方メートル以上ある場合は、レジ1台につき4人まで許可。デリバリーはOK

モール、マーケット、レストラン、おもちゃ屋、美容院、洋服店は、今回はまだ開店しないこととする。

2)市民生活

①公共の場ではマスク着用を義務とする。(未装着を2回以上注意された場合、罰金200シェケル(6000円))施設はマスク着用していないものの入場を拒否すること。

②屋外での祈り集会19人までを許可。ただし、マスク着用で、互いに2mの間隔をあけること。男性は、1度に3人までミクベ(水に入る宗教儀式)許可。

③結婚式、葬式など、屋外であれば10人まで許可。ただしマスク着用と2m間隔の原則守ること。

④自宅から500メートルまでの間であればスポーツ、祈りに行ってよし。職場からも500mまで祈りに行ってよし。スポーツについては、家族間、いつも同じメンバー(2人)であれば許可。ビーチ、公園、子供遊び場、市のスポーツエリアは閉鎖。

⑤特別教育は3人まで1グループとして許可。1人の教育者は、3家族までのこどもたちを見ることを許可。この3家族以外では、まだ互いの家を訪問することは禁止とする。

www.timesofisrael.com/updated-guidelines-israels-eased-restrictions-in-the-battle-against-covid-19/

自営業者たちが訴え:ファラフェル屋さんの涙

イスラエルでは、たとえば、企業に働いていた人や、フリーでも、ツアーガイドなど、完全に仕事がなくなっている人の場合は、失業保険の対象になっている。

中小企業には、支援金が支払われることになっているが、ロックダウン後1ヶ月半で、まだ支払いが進んでいないというのが現状である。これまでに、政府にローンを申請した会社は、4万1000件。受理されたのは3000件で、実際にローンを受けた会社は、1900件にとどまっている。

イスラエルに50万あるとされる自営業者については、テレワークが不可能なまま、業務を停止させられ、なんの支援もないままとなっている。こうした企業は、国に、失業保険と同じ程度の支援を要求している。

こうした中、今回、規制の緩和が発令されたわけだが、たとえば、小さなファラフェルショップは、その対象にならなかった。デリバリーは許可とはいうものの、イスラエル人が、ファラフェルをデリバリーでオーダーすることはまずない。その場で食べないと美味しくないからである。

チャンネル13が、モールで、ファラフェル・スタンドを経営するユバル・カルミさん(57)を、インタビューしたところ、「もはや1シェケルもない。どうしたらいいかわからない。」と、泣きながらからっぽの財布を見せた。撮影スタッフの涙をさそったという。

カルミさんのケースでは、借金がある上に、家賃(3500ドル/約40万円)を払わなければならず、もはや食料を買うお金もないとのこと。

カルミさんは、自身がイスラエル軍予備役兵であることから、以前、兵士たちにファラフェルを、無料で振舞っている様子が、取材されていた。このためか、カルミさんの泣く様子が報じられると、視聴者から、献金の要望が殺到したという。しかし、カルミさんは、誇りを保ちたいとして、これを断り、政府に、開業の許可と支援を訴えている。

www.timesofisrael.com/sobbing-falafel-seller-symbol-of-viruss-financial-toll-moves-tv-crew-to-tears/

自営業者代表とリブリン大統領

エルサレムでは、カルミさんのような、小さな自営業者たちが、国会前と、大統領官邸前で、開業規制の変更と、政府からの支援を訴えるデモを行った。このほか、テルアビブ、ハイファでも、政府の企業支援に不備があると訴えるデモを行った。

www.jpost.com/Israel-News/Life-returns-cautiously-to-Israels-streets-self-employed-protest-625144

これを受けて、リブリン大統領は、デモ隊の代表たちと会談した。私立の小さな幼稚園を営むルーシーさん(45)は、国が約束した支援をまだ受けていないと訴えた。これまで、政府には義務とされる支払いはしてきたのだから、なんとかしてほしい。少なくともどういう計画になっているのか、明らかにしてほしいと訴えた。

アビール・カルミさんは、イスラエル企業の60%は小企業だと訴え、これまで以上に今支援を必要としている。私たちは忘れられているようだが、経財相と首相は、早く動いてもらいたい。そうでないと、無秩序になってしまうと思うと述べた。

リブリン大統領は、代表たちの話をじっくり聴いたのち、「(政府を)脅かすのはよくない。今は緊急事態だ。戦争と同じだ。私たちは、だれも取りこぼさないようにするとともに、視野を大きくしてみていく必要もある。私に訴えたことはみな、政府に伝え、対処していく。」と答えた。

石のひとりごと

経済活動の再会に踏み切ったイスラエルでは、経済の破綻もだが、まだ新型コロナの感染の再発も懸念されている。新型コロナについては、イスラエルも日本も、また世界中が、まだだれも歩いたことのない新しい道を、歩いているといえる。予期しない不備も、様々な不条理も出てくるだろう。

今後、世界恐慌になるとの見通しも聞く中、底知れぬ不安を感じるが、ホロコーストの時代に、「それでも生きるしかない」と言っていたサバイバーの声が響いてくる。これからは、だれかを非難するより、どうやって生きていくかを探っていく、サバイバルモードに切り替えないといけないかもしれない。

キリスト者としては、自分だけでなく、周囲の人々のサバイバルも考える者になる使命もある。まだ現実味がないが、その時がくれば、主がその思いも気力も、体力も必要も、すべて準備して、立たせてくださるものと信じる。ホロコーストの時代に立ち上がった人々はみなそうであった。

それにしても、このコロナウイルス、各国別に違う動きに見える。それぞれの文化に沿った感染のしかたをしているようにもみえる。トランプ大統領が言うように、このウイルス、実に狡猾でタチが悪い。

日本はどうにもどっちつかずにゆっくり進んでいるので、ずるずると、長ーい時間がかかってしまうのではとの懸念も感じる。何事も猛スピードでことが進むイスラエルと同じにはいかないだろう。政府も、我々も賢くこの事態を乗り切れるように祈るばかりである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。