2021年幕開け:イスラエル国内注目点 2021.1.4

地中海から見たイスラエル パウロが出発していったカイザリヤが見える

2021年が幕開けた。新型コロナは、ワクチンが出回り始めたものの、変異種も出回ってまだ先行きは見えない。2021年出発にあたり、イスラエル国内情勢をまとめた。

1)2021年:イスラエル人口・ユダヤ人割合減少傾向・移住者増えるか?

イスラエルの中央統計局によると、イスラエル総人口は、15万1000人増加して929万1000人。昨年生まれた子供は17万6000人。死者は5万人だが、このうちの6000人、(15人に1人)は、コロナ関連死であった。

www.timesofisrael.com/as-it-welcomes-in-2021-israels-population-numbers-9291000/

新移民は、移住を検討する人は増えているのだが、コロナの影響で、移住者は前年の3万3247人から40%減って2万人であった。ユダヤ人新移住者が少なかったことと、アラブ人人口が増えたことから、ユダヤ人の割合が、昨年から0.2%減って73.9%となっている。

www.jpost.com/israel-news/in-first-jewish-population-in-israel-drops-below-74-percent-654050

今後のコロナ情勢をみないとわからないが、イスラエルでワクチンが効果的に接種されている他、医療体制が優れていることから、新移住者だけでなく、海外にいるイスラエル人の帰国が促進される可能性も期待されている。

しかし、イスラエルの経済は相当な打撃を受けているので、必ずしも移住が増えるとは予想しにくい。もし移住がすすんだとしたら、それは、まさに預言の成就の中で起こっているということかもしれない。

*1月1日:エチオピアから300人移住

内戦が続くエチオピアから昨年12月、316人が移住したが、続いて2021年1月1日、二組目となる300人が到着した。移住を実現したのは、ユダヤ機関とクリスチャンエンバシー。ユダヤ人とクリスチャンの共同作戦である。

作戦は、「イスラエルの岩作戦」と呼ばれ、2000人までの受け入れを実現する予定。

www.jpost.com/israel-news/300-ethiopian-immigrants-the-first-to-make-aliyah-to-israel-in-2021-654086

2)コロナ情勢と経済問題:春から観光業復活できるか?

イスラエルは、昨年末から国民へのワクチン接種を開始。すでに122万人の1回目接種を終えた。まもなく、2回目の接種を始める予定で、ネタニヤフ首相は1月末までに250万人の接種を終えることが目標と言っている。

しかし、アラブ系住民の間で、ワクチン接種が進んでいないことや、変異型の感染が特に超正統派の間で拡大していることが指摘されており、相変わらず、アラブ系住民、超正統派と、一般住民との格差が課題となっている。

100万人目ワクチン接種を受けたアラブの町ウム・エル・ファハンのサミール・マフムード市長 出展:GPO

しかし、記念すべきワクチン接種100万人目は、イスラエルでは、特にイスラエルに反抗的と認識されているアラブ人地域、ウム・エル・ファハンのサミール・マフムード市長が受けて、互いの平和をアピールしたりしている。

しかし、これと並行して、変異型コロナがイスラエルにもすでに入っており、感染者の数はまだ、1日に3500人を下らず、実質感染者は5万人を超えており、感染拡大に歯止めはかかっていない。ニュースによると、まもなくロックダウンが強化される見通しになっている。

i24ニュースによると、最も打撃の大きい観光業では、海外からの観光は前年度から81%の減少、国内観光も50%の減少となった。観光業の統計エキスパートによると、2019年の観光業収入は360億シェケルあったが、2020年は260億シェケル減って、100億シェケル(約1兆1000億円から3000億円)にまで減収になるみ。観光業関連で生活していた20万家族が収入源を失っている。

www.timesofisrael.com/gutted-by-pandemic-tourism-to-israel-saw-81-drop-in-2020/

観光ガイドらは、今年6月までは失業保険があるとのことであったが、それまでに観光業が回復するかどうか、楽観的な見方をする人は少ない。

政府は、ワクチン接種を急ぎ、2月末までには、ワクチンを必要とする人々への接種を終えて、4,5月には、海外からの観光を再開させるとの野望を伝えてきている。しかし、失業率は今も7−10%で、観光業が回復しなければ、今年、貧困者の問題が本格化していくとみられる。

貧困率は現在、8%から14%だが、6月ごろ、失業保険が終わるとともに20%にまで上昇し、回復に4−5年はかかるとの悲観的な予測が出ている。

www.jpost.com/israel-news/israels-economic-recovery-from-covid-19-will-take-years-report-finds-653889

3)3月総選挙で政権交代なるか?

今年、3月、イスラエルは、4回目の総選挙を行うことが決まった。ネタニヤフ首相と同等の立場で、首相を交代するところまでの人気を博した青白党、ガンツ氏だったが、就任依頼、ネタニヤフ首相にまったく歯が立たず、味方から党を離脱する人々が相次いでいる。

最終的には、ニセンコーン法相に続いて、相棒とも言えるアシュケナジー外相が、青白党から選挙に出ることはないと表明。ガンツ氏の青白党は、次回の選挙では姿を消している可能性が高まっている。

www.haaretz.com/israel-news/.premium-foreign-minister-gabi-ashkenazi-will-not-run-in-gantz-s-party-1.9411641

一方、リクードNO2のギドン・サル氏(54)が、首相を目指して、右派の新党ニューホープ党を結成。就任したら、首相職は最長8年にする法律を成立させると、在職13年になるネタニヤフ首相退陣を訴えている。この他、右派では、同じく首相を目指すナフタリ・ベネット氏の右派党、リクード以外の右派による連立政権を目指すイスラエル我が家党のリーバーマン氏がいる。

こうした中、先週、超ベテラン政治家、現テルアビブ市長のロン・フルダイ氏(76)が、世俗派を代表する新たな左派政党、イスラエル人党を立ち上げると発表した。世俗派が、ガンツ氏に期待して支持した青白党に変わる党である。さっそく、右派政党のベネット氏らの票に影響を及ぼすほどの勢力になっている。

無論、ネタニヤフ首相に退陣の意思はない。コロナ禍にあっても数千人規模の、反ネタニヤフ首相デモが行われているが、日々の仕事に邁進している。外交、ワクチン政策でも結果を出しており、まだネタニヤフ首相の力は非常に大きい。

今年、だれがイスラエルの「王」になるのか。注目される点である。

4)警察と衝突する過激なユダヤ人極右ユースグループの問題

コロナ禍にあっても、イスラエルとパレスチナ自治政府の憎しみの壁は厚く、アッバス議長は、イスラエルの支援を頑固拒否を続けている。こうした中、昨年末から西岸地区入植地のユダヤ人極右ユースグループ、ヒルトップユースの過激化が問題になっている。

12月中旬以降、過激右派ユダヤ人ユースが、西岸地区のパレスチナ人に石を投げるなどの暴力行為に出るケースが相次いでおり、ハアレツ(左派紙)によると、すでに20回以上に及んでいる。

12月21日、パレスチナ人の車両に投石していたヒルトップユースたちを警察がみつけた。その後、ヒルトップユースの車と警察がカーチェイスとなり、ユースの車が横転して大破。アフバ・サンダック君(16)が死亡した。

デモの様子 出展:イスラエル警察

これを受けてヒルトップユースたち約200人が、エルサレムの警察本部になだれ込んで、ザンダック君の死亡に関係した警察官を出せと要求した。約10人が逮捕された。ヒルトップユースらは、先週、1000人規模でデモを行うなど、警察との衝突が続いている。

www.timesofisrael.com/suspect-dies-in-police-chase-of-settlers-who-threw-rocks-at-palestinians/

デモの中で、ヒルトップユースが、デモを取り締まろうとした警察官に集団で暴行し、「焼き殺せ」などと叫んでいる様子が流されたりしている。

www.timesofisrael.com/protesters-beat-police-detectives-at-demonstration-over-settler-teens-death/

アフバ・ザンダックさんが死亡した事件は、20日、西岸地区北部の入植地で、エステル・ホーガンさん(50代)が、遺体で発見された翌日であった。ヒルトップユースは、パレスチナ人にむけて、この事件に対する報復を行っていたとみられる。

なお、エステルさんは、20日午後、エクササイズに出たところ、大きな石で殺害されたとみられ、警察はテロ事件とみて捜査が続けられていたが、すでにパレスチナ人容疑者が逮捕されている。

イスラエルでは、長いロックダウンで人々の心が蝕まれている。家庭内暴力が急速に悪化している他、アラブ人市域では、抗争による殺人事件が急増している。イスラエルと隣人パレスチナ人との関係も、これまで以上に、厳しくなっているようである。

5)続くオンライン礼拝

エルサレムアッセンブリーでは、昨年3月以来、ほとんどずっとオンライン礼拝が続いている。ユーチューブでの礼拝の後、ズームで40−50人近くが、20分ぐらいだが、祈りの課題を出し合い、ともに祈る時を持っている。

メノー牧師は、ズームミーティングには、賛否両論あるとしながらも、これが唯一、孤立せず、ビリーバー社会とつながる手段であるとして、毎週、参加を強く呼びかけている。

特に家族で唯一ビリーバーである人にとっては、このつながりは命取りにもなりうる。

加えて、一人暮らしの教会員に、困ったことがあれば、24時間いつでも電話してくるように常に呼びかけている。また、時々濃厚接触になったり、家族がコロナ陽性になったなどの連絡があり、自粛に入ると、教会では、食料を届けたりしている。しかし、直接渡せるわけではなく、玄関において、離れてから、家の者が取りに出てくる形だという。

イスラエルではまたロックダウンが強化される見込みになっているので、これまでのように、教会に行けなくなっている人々、特に家族の中で唯一ビリーバーだという人たちの信仰が守られるよう祈る必要がある。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。