11年ぶり直接対話:ガンツ防衛相とアッバス議長がラマラにて 2021.8.30

29日夜、ベネット首相が帰国したわずか数時間後、イスラエルのガンツ防衛相が、ラマラでパレスチナ自治政府のアッバス議長と、対面での会談を行った。

これほどのハイレベルで、イスラエルとパレスチナ自治政府が会談するのは、2010年以来、11年ぶりである。電話での対話もネタニヤフ前首相とアッバス議長が交わした2017年が最後となっていた。

実務のみで和平交渉ではない:ガンツ防衛相

今回の対話は、まずイスラエル軍とパレスチナとの協力担当部署が、自治政府の諜報部担当と電話で対話するところからはじまっている。続いて7月、ガンツ防衛相が、アッバス議長と電話で会談。その後、両サイドからの一連の打ち合わせの後、今回のガンツ防衛相の訪問、アッバス議長との直接会談になったという。

パレスチナ自治政府は今、コロナ禍と海外アラブ諸国からの支援金が激減―(2019年の3億ドル(330億円)から2020年の3000万ドル(33億円))―したことを受けて、経済破綻の危機に直面している。

イスラエルもまた、自治政府の大きな収入源である税金(イスラエルが代理徴収している)から、自治政府がイスラエル人を襲ったテロリストの家族へ支給した補償金分を差し引いているが、その額は半年分で6億シェケル(180億円)に及んでいる。パレスチナ自治政府は、イスラエルはこの資金を支払うべきだと要求していたのであった。

www.timesofisrael.com/in-rare-meeting-gantz-holds-talks-with-pa-president-abbas-in-ramallah/

ガンツ防衛相のラマラ訪問が、ベネット首相の帰国直後であったことから、バイデン大統領がベネット首相に、パレスチナ人の生活の安定と、信頼関係を損ねるような衝突は避けるようにと念を押したとも伝えられており、それを実行してみせたということも考えられる。

ただし、ガンツ防衛相もイスラエル政府も、今回の直接会談の中身は、治安問題、経済、様々な市民レベルのことについてなど実務的なものであり、和平交渉の枠組みではないということを強調している。

www.jpost.com/breaking-news/gantz-meets-abu-mazen-in-ramallah-after-bennett-biden-meet-678070

実際のところ、パレスチナ自治政府の経済が崩壊し、その統率が失われることは、イスラエルにとっても得策ではない。ハマスやイランなどさらに悪いものが出てくるより、パレスチナ自治政府が存続する中で、なんとか対話ができる状態、もしくは現状維持でいるほうがマシという考え方には変わりはないだろう。

石のひとりごと:右派左派アラブまでの統一政権であることの可能性

11年ぶりのガンツ防衛相とアッバス議長の直接会談。これは注目すべき出来事だと思う。

右派で固まっていた前のネタニヤフ政権との違い、現政権にはガンツ防衛相含め中道左派も含まれていること、極右とまでいわれて警戒されてきたベネット首相が、意外にも柔軟であることが、少しづつわかりはじめてきたのかもしれない。

7月にアッバス議長と電話で対話したガンツ防衛相は、左派よりで、イスラムの祭り、エイド・アル・アドハであったことから、その挨拶から始めたという。

ベネット首相が、バイデン大統領との初会談で最大の目標としていたのが、信頼関係回復の土台作りということであった。どんな土台かというと、「違いあれども、敵ではない。あなたの益も考えている。だからお互いの違いを、お互い、良い思いの中で話し合い、できる限りウインウインのポイントを探そう。」という姿勢をお互が持つということである。

これは、今のベネット政権が、右派左派アラブ政党までが一つとなっている、超多様な統一連立政権であるからこそアピールできる姿勢であり、これまでになかった可能性につながっているといえるかもしれない。

その信頼関係にむけたジェスチャーとして、ベネット政権は今、出来うる範囲での支援を行おうとしている。しかし、ベネット首相自身は、バイデン大統領に伝えたように、そうした歩み寄りが、必ずしも結果につながっていかないということをよく知っていると思われる。それでもこの道をやってみるしかないのである。

前にも書いたが、結局のところ、パレスチナ人は、イスラエルを立ち退かせるという少なくとも表向きの目標を捨てるわけにはいかない。だから紛争はおさまらない。しかし、イスラエルの支援なしには立ち行かないという矛盾が現状なのである。

その矛盾となんとか付き合って行かないといけない。そこをなんとか賢く、つきあいながら、できるだけ共存していく道を模索するということである。新しいイスラエルの政権の祝福とその周囲の国々との平安を祈る。

www.timesofisrael.com/in-rare-meeting-gantz-holds-talks-with-pa-president-abbas-in-ramallah/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。