政権内でも対立:IDFが右派ユダヤ人入植地を先取り撤去 2023.1.23

ギャラント防衛相とスモルトリッチ西岸地区担当の対立

新ネタニヤフ政権と対立するのは、最高裁だけではない。防衛関係者と強硬右派政権も対立しており、司法と同様に、爆弾の落とし合いになっている。

新ネタニヤフ政権では、強硬右派宗教シオニスト党のスモルトリッチ氏が、従軍経験も少ないのに、大胆にも防衛相のポジションを要求していた。しかし、さすがにこれは不適格であったため、元参謀総長のヨアブ・ギャラント氏が防衛相になっている。

ところが、ネタニヤフ首相は、その代わりとして、スモルトリッチ氏に、西岸地区担当と閣僚というポジションを与えただけでなく、その地域での防衛にまで、スモルトリッチ氏が指示を出すことができる体制にした。

さらに、国境警備隊についても、西岸地区入植地については、極右のベングビール氏が大きな影響力をもつ形となっている。総じて、入植地の拡大にゴーサインをだしたような形とも理解できる体制である。

この配置について、イスラエル軍からは、西岸地区での指示系統が混乱するとの懸念が出されているだけでなく、政権が、入植地拡大に踏み出すのではないかとの懸念が、パレスチナ側にも広がっている。

こうした中、イスラエル軍は、20日(金)、ギャラント防衛相は、新しく就任したハレヴィ参謀総長に、西岸地区のアリエル市周辺、オール・ハハイムに、右派ユダヤ人たちが、新たに建築した前哨地を撤去するよう、指示を出した。この前哨地は一晩で建てられたものであり、明らかに違法行為であった。

これに対し、西岸地区担当のスモルトリッチ氏は、同日、朝のうちに、軍の撤去を差し止めるよう、前哨地のユダヤ人たちに指示を出していた。しかし、軍はこれにかまうことなく、前哨地の建物を、夕方までに完全に撤去した。

政権内部にも大きなほころび

この一件は、西岸地区の指示系統が2つになっていることを証明しただけでなく、スモルトリッチ氏の権威を大いにそこなう形となった。言い換えれば、イスラエル軍から、ネタニヤフ政権に対する、大きな挑戦である。

これを受けて、スモルトリッチ氏は、22日の週の初めの閣議を欠席して、これに抗議を表明。右派たち100人ほどが、20日に破壊されたオール・ハハイムの前哨地を再建しようとし、「絶対に立ち退かない」「今の軍は、前の左派政権を引き継いでいる。」といった意思表示を出した。

国境警備隊は、再建しようとしている活動家たちを止めようとし、少なくとも6人を逮捕したとのこと。Times of Israelによると、この前哨地に関わっているのは、右派ユダヤ人の5つの家族だという。

この問題でややこしいのは、政権内での争いであるという点。ネタニヤフ政権下のギャラント防衛相と、スモルトリッチ西岸地区担当相の対立である。これについては、非はスモルトリッチ氏にあるとされるようだが、極右のベングビール氏は、「ユダヤ人の入植地を撤去するなら、違法なパレスチナ人の家屋も撤去すべきだ。」と反論。

今回撤去された入植地の近くの違法なパレスチナ人家屋の航空写真を国会に提出したとのこと。確かに、パレスチナ人の家屋は増えているのだが、パレスチナ人に建築許可が出されることはほとんどないので、全部違法ということになる。しかし、1995年のオスロ合意によれば、エリアCであれば、パレスチナ自治政府のエリアでもあるので、違法といえるのか、言えないのか・・???という微妙な話である。

いずれにしても、この点においても、新政権の大きなほころびが明らかになった形である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。