速報!ネタニヤフ首相を起訴:司法長官決断 2019.11.22

22日、マンデルビット司法長官が、数年にわたる調査を経て、ついに、ネタニヤフ首相(70)を、収賄、詐欺、背信の罪で起訴すると発表した。その際、これはイスラエルの市民にとって、私個人にとっても、苦しく悲しい日だとのメッセージを発した。

www.timesofisrael.com/ag-announces-netanyahu-to-stand-trial-for-bribery-fraud-and-breach-of-trust/

現役首相が犯罪者として起訴されるのは史上初。ネタニヤフ首相は、史上最年長首相という記録を達成したばかりだが、その栄誉も一気に崩れ去る流れになった。ネタニヤフ首相は、この訴状を否定。これは、自身に対する陰謀だとして、あくまでも首相を続けていくと主張した。

次項で述べるが、イスラエルでは、この前日の21日、青白党ガンツ党首が、期限内に連立の立ち上げを終えることができず、その権限を大統領に返上。その役割が国会に移行されたものの、3回目総選挙の可能性が濃厚になったところであった。

イスラエル政府は、今、収拾がつかないほどに混乱を極めている。

*ネタニヤフ首相の訴状

①ケース1000:ハリウッド関係者などから70万シェケル(250万円相当)の品を受け取り、ビジネスの便宜を図った。(背信罪)

②ケース2000:新聞イディオト・アハロノトに自身に肯定的な記事を出す見返りにライバル社より優遇措置をとった。(背信罪)

③ケース4000:通信会社ベゼックへの優遇措置の見返りとして18億シェケル(540億円)を受け取っていた。(収賄)*最も深刻とされる

*起訴(Indict)と判決(Accused)の違い

起訴ということは、相当確実とみられる罪状についての訴えがなされたということで、まだ罪人として決定されたわけではない。問題は判決がどうなるかである。可能性は低いとされながらも、無罪となる可能性もまだ残されている。

起訴された結果、無罪になれば、ネタニヤフ首相は文字どおり、無罪放免である。しかし、有罪とされた場合、収賄なら10年以下の禁錮刑か、相当する罰金。もし、詐欺と背信であれば、3年以下の禁固刑となる。ここまで来てはじめて、ネタニヤフ首相が退陣を余儀なくされることになる。

www.ynetnews.com/article/SkdXPPV2r

<今後どうなる?:結局まだしばらくはネタニヤフ首相?>

まずは、起訴されたからといって、実際にネタニヤフ首相が法廷に立つまではまだまだ時間がかかるとみられる。特に、今は3回目総選挙になる可能性もあるほど政治が混乱しているので、実際の起訴がはじまるまでには、予想以上に時間がかかる可能性も指摘されている。

その間に、ネタニヤフ首相が、不服を訴えることもできるし、たとえ法廷に立つ時が来たとしても、イスラエルの法律では、罪人としての判決が出ない以上は、首相が退任する義務はないとされる。

さらにリクードは、暫定政権でもまだネタニヤフ首相が政権運営を担当している間に、国会で、「首相を起訴することはできない」とする法案を審議させる計画もあるという。ただし、この法案については、この状態で必ず通るかどうかは不透明である。

また特に今、野党・青白党ガンツ氏も連立を立ち上げられず、その役割が国会に移行されたところで、国会が、期限とされる21日後(12月11日)までに、なお政権が立ち上がらない場合、3回目総選挙になるわけだが、その流れになる可能性が高まっている。

そうなると、ネタニヤフ首相は起訴されたまま、少なくとも3回目総選挙が行われるとみられる来年3月17日までは、首相のポジションにとどまることは可能である。

www.timesofisrael.com/political-stalemate-could-see-netanyahu-trial-delayed-by-half-a-year/

これからどうなるのか。常に予想外のことがおこるイスラエルなので、これからもただ見守るしかないだろう。

<モラル上退陣を要求:青白党>

ネタニヤフ首相起訴を受け、その前日に連立擁立の指命を大統領に返上していた青白党のガンツ氏は、犯罪で起訴されるような人物は自ら辞任すべきだと主張。

その際、かつてネタニヤフ首相自身が、汚職疑惑を追及されていた前オルメルト首相に対し、「モラル上、公のポジションにとどまるべきではない。」と訴えたビデオを流した。

青白党NO2のラピード氏は、「もし、ネタニヤフ首相が、首相にとどまった場合、夜にシリアを爆撃し、翌朝には法廷で、証人に直面することになる。それはありえないことだ。子供達の教育の責任を担う首相が、深刻な罪状の疑いを抱えるということもありえない。」と訴えた。

また、ここまで深刻な問題を抱えたままでは、国の一大事を決断する際に、自己防衛を鑑みた決断をしてしまう恐れがあるとも訴えた。

www.ynetnews.com/article/r111f600NhH

<苦渋のマンデルビット司法長官:国民の本意は?>

確かに、犯罪の項目で起訴されるような人物が、首相であることは倫理上ありえないのかもしれない。特にユダヤ教では、罪という概念がしっかりしているので、そのまま目をつぶるわけにはいかないだろう。

しかし、過去13年以上にわたり、身を粉にして国を導き、多数の敵に囲まれながらも全ての戦争、すべての国際社会からの悪口にも耐え、今イスラエルは、平和を維持でき、経済も反映し、手に負えないぐらいの観光客で賑わう国になった。その背後にネタニヤフ首相の献身があったことは誰も否定できない。

マンデルビット司法長官は、長年、ネタニヤフ首相を知っているだけに、起訴に踏み切ることへの苦渋を訴えている。しかし、法に関わるものの義務として起訴を決断したと述べている。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/272061

もちろん、ネタニヤフ首相の退陣を求める国民も決して少なくないが、これまでの働きを高く評価する国民もまた多く、マンデルビット司法長官の気持ちは、多くの国民の思いと重なっているだろう。

イスラエルは今、本当に難しい問題に直面しているといえる。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。