西岸地区でハイキング家族に爆弾テロ:17歳少女死亡 2019.8.26

23日金曜朝10時ごろ、エルサレムから出てすぐ西、ラマラにも近い、西岸地区山中の自然の泉、ボビンの泉で、道路に仕掛けられた爆弾(IED)が爆発。

ちょうど家族で遊びに来ていたロッド市在住で、軍のラビ、エイタン・シュナブさん(49)の長女リナさん(17)が死亡。長男のドビールさん(19)が重傷。エイタンさんも腹部に負傷した。

エイタンさんは、救命救急士でもあったため、爆発後、レナさんに駆け寄ったが、レナさんは全身に負傷してすでに死亡していた。その後エイタンさんは、自身も相当な傷を負いながら、警察に電話連絡。ドビールさんに祈りのショールで止血を施行したとのこと。

まもなく治安部隊と救急車がかけつけて、負傷した2人はエルサレムの病院に移送された。ハダッサ病院によると、ドビールさんは、重傷だが、回復に向かっているという。エイタンさんは中等度の負傷で、病床で記者会見も行った。

エイタンさんは、「リナが、自分の体で爆弾を吸収して、私たち皆を守ってくれた。リナは英雄だ。」と語った。ドビールさんは、父親同様に救命救急士になる勉強をしており、共に止血法について話していたところだったという。

www.timesofisrael.com/i-wanted-to-believe-its-just-a-dream-dad-recalls-bomb-that-killed-daughter/

リナさんの葬儀は、死亡した当日、安息日入りの直前の午後3時に、居住地のロッドで行われ、数百人が出席。父親のエイタンさんは出席できなかったが、電話で、会衆に、「強くあろうとしています。」と語った。

リナさんの妹は、リナさんと過ごした17年に感謝し、「この失われた穴は、家族だけでなく、イスラエル全体の穴です。」と語った。ネタニヤフ首相は、エイタンさんに電話をかけて、追悼を述べるとともに、エイタンさんたちの早い回復をと話したという。

www.jpost.com/Israel-News/Terror-victim-Your-death-leaves-a-void-in-the-heart-of-nation-599508

なお、今回テロがあったボビンの泉だが、2015年にもロッド出身のダビー・ゴネンさん(25)が撃たれて死亡するというテロ事件が発生していた。以来、この泉は、「ダニーの泉」とも呼ばれるようになっていた。

事件後、いつものように、ハマスは事件を起こしたパレスチナ人を賞賛する声明をだしている。

<容疑者3人逮捕>

事件後、イスラエル軍は、ただちに付近のパレスチナ人の村への捜査を開始し、24日までに3人を逮捕した。詳細はまだ不明。

今回のような、仕掛け爆弾によるテロは、新しい手口である。西岸地区には、今回の泉のようなハイキングスポットが数多くあり、イスラエル人も多くが出かけている。今後、同様のテロをどう防ぐのか、懸念がひろがっている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5574489,00.html

西岸地区では、今月8日に、グッシュ・エチオン地域で、ドビール・ソレックさん(19)がナイフで刺されて死亡。

16日には、神殿の丘のイスラエル警察官がナイフで刺される事件が発生。同日、再びグッシュ・エチオンのバス停で、姉ノアムさん(19)と、弟ナフムさん(17)が車で突っ込まれて、重傷となるテロ事件が発生している。

<西岸地区で何がおこっているのか:パレスチナ自治政府との決裂の結果?>

先月7月26日パレスチナ自治政府のアッバス議長(84)は、治安維持の協定も含め、イスラエルとの協定を全面的に破棄すると言った。

これは、イスラエルが、防護壁周辺のパレスチナ人の家屋を破壊したことを、国連安保理に訴えたが、アメリカがこれを阻止したことへの反発であった。

しかし、アッバス議長は、以前にも同様の発言をした後、結局、イスラエルとの協力を破棄するすることがなかったという前例があったため、今回もさほど深刻にとられることはなかった。

実際、この後、イスラエルは、パレスチナ人が、イスラエルで購入する際に代理で徴収しているガソリン等の税金のうち、ドルを、自治政府に送金することで合意したと報じられた。同時に、今後この税金を今後は、自治政府が直接徴収することになったと伝えられた。

イスラエルは、今年初頭から、パレスチナ自治政府がテロ家族に給与を支払い続けていることに反発し、代理徴収の税金月2億ドルの送金を徐々に停止していた。これに自治政府は反発。イスラエルからの送金を一切拒否するようになった。このため、西岸地区の現金不足が深刻になり始めていたのであった。

このため、イスラエルは5億6800万ドルの送金とともに、今後は、パレスチナ自治政府が、自らガソリン関連の税、月約6000万ドルを徴収することで合意したと報じられた。

しかし、これで、アッバス議長が期限を直して、イスラエルとの協力を再開することにはならなかったようである。

今、西岸地区で、テロが急増していることから、イスラエルとの治安維持協力は実際に途絶えており、結果的にテロに走るパレスチナ人が増加している可能性が懸念されている。

ネタニヤフ首相はこのところ、テロに対し、厳しい報復措置、つまり、ムチではなく、アメを与える方策をとっている。たとえば、ハマスを抑えようとして、カタールの現金搬入を認めたなどである。

リーバーマン氏は、こうした政策に同意できず、防衛相を辞任し、政府から離反したのであった。リーバーマン氏は、リナさんが死亡した今回のテロ事件についても、ネタニヤフ首相の弱腰の政策が招いたものだと批判した。

www.france24.com/en/20190726-palestinians-israel-halt-agreements-taxes-un-demolitions 

リーバーマン氏が正しいかどうかは別として、現在、西岸地区でのテロの激化が懸念されている。

<石のひとりごと:イスラエル人とテロ被害>

いつも思うが、リナさんは、朝元気に父親と兄と連れ立ってピクニックに向かい、その午後3時半には、もう地中に埋葬された。朝いた人が、もう完全にいなくなったのである。あまりの急展開に、家族の混乱は想像を絶する。

また、死んでしまったリナさん本人も、もしその霊が今、いずこかにいるとしたら、どうこれを受け取っているのかと考えさせられる。まだ十代にして、この世での歩みが終わってしまったのである。これまでの望みや目標はなんだったのか。命というものは、生きているだけで、奇跡なのかもしれない。

しかし、正直なところ、日本人としては、なぜそんな危ないところに子供達を連れて行ったのかとも思えないではないが、イスラエルでは、それを言う人は一人もいない。

ああ、またテロか・・と一瞬顔を暗くする。しかし、すぐに日常に戻らざるをえない。ニュースは次のことに移って、2日以内には、もう話題にすらのぼらなくなる。イスラエルでは、テロはいつ、自分に襲ってくるかもわからない。来たら「自分の番が来た」のであって、それまでは、あまり考えないようにしている。

エイタンさんは、右派、宗教シオニストで、西岸地区はイスラエルの地であると主張するグループに属している。そのエイタンさんの妻で、今、娘のリナさんを失い、長男も今まだ重傷となっている、母親シーラさんは、苦痛の表情で、これもまた信仰の問題で、メッセージであると語る。

そのメッセージとは、ユダヤ人はけっしてひるまないということだという。今回起こったことの痛みは続くが、それでもユダヤ人が、トーラーの国、イスラエルの再建をやめることはないと語った。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/267872

再建するイスラエルの領土がどの範囲かは棚にあげるとして、それは聖書に預言されていることである。いつかは、成就するのであろうが、そこには、ユダヤ人たちの重すぎる支払いがあるということを覚えなければならない。

それはまた同時に、ユダヤ人たちの周囲にいるパレスチナ人たちもまた、ともにその支払いをするということでもあろう。両者を覚えて祈りが必要である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。