西岸地区でイスラエル兵1人(21)死亡:ポンペオ米国務長官訪問直前 2020.5.13

アミット・ベン・イーガル軍曹 出展 :Social medianなど

アミット・ベン・イーガル軍曹訃報

12日夜明け前、西岸地区北部ジェニン近郊、パレスチナ人の町ヤベッドで、ゴラニ部隊が、テロ容疑の4人を逮捕し、家を出たところ、屋根の上から大きな石が落とされて、アミット・ベン・イーガル軍曹(21)を直撃した。

証言によると、パレスチナ人は、イスラエル兵たちを待ち構えていて、ベン・イーガル軍曹が見上げたところへ、石を落としたもようである。ベン・イーガル軍曹は、ヘリコプターでハイファのランバン病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。今年に入って最初の戦死者となった。

イスラエル軍は、石を落とした容疑で、ヤベッドから20人の身柄を確保したほか、犯人の捜索を行なっている。

12日、ベエル・ヤアコブで行われた葬儀には、葬儀は50人までとの規則を無視して、数百人がマスク着用で参加した。父親のバルフさんは、「私の独り子。お前は私の人生を変えた長男だった。もう私には何も残ってない。」と深すぎる悲しみを語った。

www.timesofisrael.com/my-son-is-a-hero-hundreds-attend-funeral-for-soldier-killed-in-west-bank-raid/

イスラエルでは、独り子の場合、特に危険な戦闘部隊に配属されることは基本的に禁止されているが、本人の希望と、親の許可はあれば、配属は可能になる。ベン・イーガルさんはこのケースで、任務終了の1ヶ月前の訃報となった。

www.timesofisrael.com/idf-soldier-killed-by-rock-thrown-at-his-head-during-west-bank-arrest-raid/

ハマス:西岸地区占領への反発

i24ニュースによると、この事件の後、パレスチナ人のソーシャルネットワークでは、ベン・イーガル軍曹の写真とともに、同様の行為を扇動する投稿が確認されている。しかし、パレスチナ自治政府からのコメントはない。

パレスチナ自治政府は、コロナ危機による経済対策として、イスラエルから、8億シェケル(2億4000万円)の借款を行うとの情報がある。一度に全部ではなく、何回かにわけて数ヶ月かけて送金されるとのことで、アッバス議長としてはなにも言えないのだろう。

www.timesofisrael.com/israel-to-transfer-nis-800m-to-pa-to-offset-coronavirus-losses-report/

一方、ハマスは、「ジェニンでの出来事は、パレスチナ人の、占領者を西岸地区から追放する願いに変わりがないことを示している。特に今出ている西岸地区の合併案に反発しているのだ。」と公言した。

video.i24news.tv/details/_6156151849001?clip=5a94117623eec6000c557fec

*パレスチナ人とコロナ危機

以下の国連の資料によると、11日までのパレスチナ人の間で行われたPCR検査は、4万2417件で、感染者は計547人。このうち172人が東エルサレムで、残りの355人が西岸地区在住者。12日の報告によると、過去24時間に感染者はなし。

ガザについては、検査数7100件中、感染者は20人。(国境かでの出入りがないことが功を奏した?)

reliefweb.int/report/occupied-palestinian-territory/occupied-palestinian-territory-opt-covid-19-emergency-5

西岸地区の現状:ネタニヤフ首相の合併案

新型コロナ危機の中、イスラエルとパレスチナ自治政府の協力も報じられていたが、イスラエルへの抵抗運動は不変で、イスラエルの対策もまた気をぬけないものであった。テロの情報があれば、これを未然に防ぐために、イスラエル軍が夜中に行って逮捕するという作戦が続いている。

また、11日には、昨年8月にリナ・シュナーブさん(17)を殺害したテロリストの家を、ラマラ近郊で、破壊する作業も行なっており、小さな衝突は、茶飯事に発生している。

www.ynetnews.com/article/ByoGyYUcL

また、イスラエルでは、ネタニヤフ首相の続投が決まり、ネタニヤフ首相が選挙前から実施を予告していたヨルダン川西岸地区の入植地、ならびにヨルダン渓谷の合併が現実味を帯びてきており、再び、衝突が悪化する可能性が出てきている。

13日には、アメリカからポンペオ国務長官が、主に西岸地区の合併について協議するため、イスラエルに来て、ネタニヤフ首相とガンツ氏とに会うことになっている。こうした動きの際には、テロを多発させて妨害するケースが多いので、懸念されるところである。

*アメリカの姿勢:パレスチナ国家設立必要

アメリカは、イスラエルが西岸地区の一部の合併を認めているが、今以上の建築活動、すなわち入植地の拡大は認めないとしている。また、それ以外の地域でのパレスチナ国家の設立を認めるとし、イスラエルに、パレスチナ自治政府との交渉再開を義務付ける。

*イスラエル世論:西岸地区合併は無理?

西岸地区の合併案だが、言うまでもなく、ヨルダンは猛反発。ヨーロッパからも厳しいコメントが続く。イスラエル民主主義研究所が行った調査によると、イスラエル人で、合併に賛成し、実現すると思う人は、44.7%であった。

合併に反対する人は31.8%と3割を超えている。しかしもう少し細かく見れば、イスラエル人でもユダヤ人だけでみると、合併に賛成は51.7%。反対は、23.5%となる。

石のひとりごと

また、21歳の若者が、元気の只中で、帰らぬ人となった。イスラエルで選びの民であるということは、決して楽なことではない。祝福は大きいが、理解不能な苦しみに真っ先にあうのもまた選びの民であるからである。

紹介されている生前の写真を見ると、ベン・イーガルさんは、明るく、どこにでもいるイスラエルの若者で、友達もたくさんいるし、ガールフレンドもいたようである。そんな21歳の元気いっぱいの息子を亡くした父親の失ったものの大きさと大きな心、霊の痛みは、いつもながら想像を絶する。

このようなことがあるたび、イスラエルという国の存在がいかに高価であるのかを思わされる。ベン・イーガルさんのお父さんと家族友人、部隊仲間たちの上に主のなぐさめと支えがあるように。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。