若年化するテロリスト 2016.2.20

イスラエルの諜報機関の調べによると、この5ヶ月の間に発生したテロ228回のうち、約50%が、20才以下の少年少女によるものだった。

この228回のテロに関わったテロリストは219人だったが、このうち22人(10%)が、16才以下。81人(37%)が16-20才となっている。

また、20才以下のテロ事件のうち、11%は、女子によるものだった。http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4768276,00.htm

イスラエルでは、こうしたまだ子供によるテロにどう対処したらよいのか、効果的な対策がとれていない。各事件を分析したところ、テロ行為に及んだ子供たちは、決して貧しい家庭の子供たちではなく、教育も行き届いていた子供たちであったことがわかった。

なぜこういう行動に出るのかについて、ソーシャルメデイアなどを通じた扇動あることはもちろんだが、この世代は、第一、第二インティファーダの後に生まれている。暴力では結果が出ないということを経験していないため、暴力の訴えようとするのではないかとの見方もある。

しかし、若者たちはそこまで考えておらず、たんに希望を見いだせないことによる実質、自殺行為だとパレスチナ人臨床心理士ムサルハ博士は見ている。
オリーブ山便り2016.1.26参照 http://mtolive.blog.fc2.com/blog-date-201601.html

<テロ犠牲者家族:罰則強化、具体的な取り締まり要望>

イスラエル政府は、テロを未然に防ぐため、多くのことをやっている。エルサレムの中心地では、バス停に警備員が立ち、バスにも時々警備員が見回りに来る。また、報道はないが、西岸地区で、立ち入り捜査が頻繁に行われ、多数が逮捕されている。

リブリン大統領はテロ犠牲者遺族を訪問したり、ネタニヤフ首相は、テロの波の被害にあった家族たちに面会した。家族たちは、テロリスト家族をガザ地区へ追放すること、まだ子供といえるテロリスとの責任者である家族の家を破壊するという措置をすみやかに実施するよう要請した。

これについては実際に、イスラエル政府は親の家を破壊するという罰則を実施している。パレスチナメディアのマアヤンによると、この5ヶ月間にパレスチナ字400人が、自宅を追われたと報じている。

<ユダヤ人実業家:西岸地区パレスチナ人の労働許可促進を要請>

テロリストをイスラエルから遠ざけたいと願う家族の要望とは反対に、イスラエルの大手企業は、パレスチナ人への入国規制緩和を要請している。取り締まるだけでは、憎しみだけが残り、解決につながらないという考え方である。

1)アラブ系市民を雇用するラミレビ

今回。被害にあったスーパーラミレビは、イスラエルでは最も安いと人気のチェーン・スーパーで、全国的にどの店舗でも多くのアラブ人を雇用している。西岸地区のラミレビでは、ユダヤ人もアラブ人も共に買い物をしている。

ラミレビでは、2014年にも西岸地区の店舗内でテロが発生した。その際、ラミレビが雇用していたアラブ人労働者が手引きをしていたことから、イスラエル社会からは、一時はアラブ人を雇わないようにとの圧力もあった。

しかし、ラミレビの社長は、普段は両者は仲良く働いているとして、今もアラブ人たちの雇用を守る立場を貫いている。

2)西岸地区パレスチナ人を雇用するソーダストリーム

今回のようなイスラエル国内でのテロ事件によって、大きく影響を受けるのは、実はイスラエルで働く一般の西岸地区在住のパレスチナ人である。検問所でのイスラエルへの出入りがさらに厳しくなる他、入ったとしても、今度はユダヤ人に復讐されると恐れながら働いている。

またイスラエル政府が西岸地区パレスチナ人に対して発行する労働許可を出し渋るようになる。許可証を失ってイスラエルに入れなければ、安定した仕事を失ってしまう。

*職場が平和を実現する? http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4766549,00.html

ソーダストリームは、かつて西岸地区のパレスチナ自治区に工場があり、多くのパレスチナ人を雇用して、ユダヤ人とパレスチナ人が共に働く職場を実現していた。

しかし、ユダヤ人の企業が、西岸地区のパレスチナ自治区にあるということで、BDSムーブメント(イスラエル製品をボイコットする運動)は、ソーダストリーム製品のボイコット運動を展開し、CEOのダニエル・バウンバウム氏は、ひどい非難を受けた。

しかしそれでも、ソーダストリームの収入は逆に増えた。BDSが逆に宣伝になったようだとCEOのダニエル・バウンバウム氏。最近では日本への輸出も増えているという。 *日本のソーダストリーム:https://www.sodastream.jp/about/ 

そこで工場を3倍の大きさにするため、2015年、ソーダストリームは、ネゲブのベドウインの町ラファット(イスラエル領内)へ移転した。結果として、BDSが求めたように、西岸地区の工場は閉鎖となった。しかし、それで困ったのはパレスチナ人だった。

移転先のラファットでは、雇用されたのは、イスラエルでは最も貧困層にあたるベドウインたち(アラブ・イスラム)である。先に西岸地区で雇用を得ていたパレスチナ人たちは、イスラエルへの入国許可がとれなかったために、多くが職を失う事になったのである。

ソーダストリームによると、これまでに許可をもらえたのは、同社の西岸地区工場で雇用されていた約600人のパレスチナ人のうち、わずか74人だった。

その74人の許可証も2月いっぱいで切れる。テロの波が続く中、許可の延長ができるかどうかはわからないという。現在もソーダストリームで働くアリ・ジャハルさん(39)は、「ここでは政治は関係ない。みな家族のようだ。

それに、ここでは給料もパレスチナで働くより少なくとも2倍はもらえるし、休暇も福利厚生もあるので、なんとか働きを続けたい。」と語っている。こうしてみると、西岸地区のパレスチナ人のことを本当に考えているのはソーダストリームの方で、BDSではなかったということである。

CEOのダニエル・バーンバウム氏は、「雇用こそが平和への道筋だ。共に働くことで互いの理解も深まる。私たちこそ平和を促進しているのだ。政府にはもっと多くのパレスチナ人に労働許可を出してほしい。」と強く訴えた。

それにしても、犠牲者家族の要請に応じてとりしまり強化か、パレスチナ人への労働許可発給か。ネタニヤフ首相、むずかしい決断である。このテロの波を終わらせるにはどうしたらいいのか。ただただ神に祈るしかなさそうである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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