総選挙になるか!?:野党リクードが来週ベネット連立政権不信任案提出へ 2022.6.15

ベネット首相 GPO

実験は終わった!?史上最も多様な政権・1年で終わりか?

ニール・オルバック氏(ヤミナ党議員)

カオスに陥っているイスラエル国会。連立政権からまた一人、離脱者が出た。ベネット首相のヤミナ党議員のニール・オルバック氏である。

これにより、連立政権の議席数は、120議席中、59議席となり、まさに過半数割れ状態になった。

これを受けて、先週、否決されて問題となった西岸地区法案の2回目、3回目の審議の声はなくなり(可決の見込みなし)、筆頭野党リクード(ネタニヤフ前首相党首)が、来週水曜にも連立政権の不信任案を提出するみこ

みとなった。

ベネット首相は、これまではまだ連立維持へ自信を表明していたが、さすがに、「離脱した議員が戻らない限り、連立維持は維持できない。ここ1-2週間で、どうなるかが決まる。もし乗り越えられたら政権は長く続く。しかしそうでない場合は、これで終わりだ。」と連立維持ができない場合もあるという意味合いの発言もし始めている。

連立政権をここまでの危機に陥れたのは、まずは、昨年アミハイ・チクリ氏が政権の一部の法案に反対票を投じ、今年になって連立からの離脱が決定した。続いて、4月にイディット・サルマン氏が連立離脱を表明。さらに続いて今回のオルバック氏が離脱を表明したのだが、3人は、いずれもベネット首相のヤミナ党員であった。

ベネット首相は、国会に持っていた、わずかな基盤であった自党7議席から、1年の間に、3議席失ったということである。

加えて、連立側であるはずのアラブ政党ラアム党のマゼン・ガナイム氏、左派政党メレツ党ガイーナ・リナウィ・ゾアビ氏が先週、政権の出した法案に反対票を投じたことで、連立政権の過半数われが、より明らかになっていた。

さらに、先週、青白党(ガンツ党首)のミカエル・ビトン氏が、連立不信任案意外、連立政権からのいかなる法案にも賛成票を投じないと表明し、こちらも連立の弱体化をあらわにする事例となった。ベネット政権の弱体化が、どんどん明らかになった形である。

www.timesofisrael.com/in-fresh-blow-to-coalition-blue-and-white-mk-renews-boycott-of-coalition-votes/

ベネット政権は、史上初の右派左派アラブ政党からなる政府で、これまでになかったような有益性もあった。2年半も通らなかった予算を可決させた。リーバーマン経済省の元、この1年で、イスラエル国家の借金は減ったとのことであった。

また、ベネット首相自身は右派なので、直接、パレスチナ自治政府に支援の手(パレスチナ人へのイスラエル国内労働許可増加など)を表明しなかったが、その横で、左派のガンツ防衛相が、それを実施するという都合の良さもあった。ラアム党の登場で、国内アラブ人の生活環境が、多少は改善したかもしれない。

総合してみると、確かにこれまでの政権より、左派色が勝っていたといえるのかもしれない。このため、右派議員らがまずは耐えられなくなったということであろう。

その一方で、西岸地区などでのイスラエル軍の動きや、西岸入植地の増設をはかるなど、右派的な動きもあったので、左派もまた気に入らなかったわけである。

結局、ベネット政権では、それぞれのイデオロギーをどこか犠牲にしなければならなかったことから、右派左派アラブ政党、すべてから離反者が出るという結果になったわけである。

オルバック氏は、先週、「(アラブ政党との協力という)実験は終わった」と言っていたのであった。

www.timesofisrael.com/as-orbach-departs-even-the-coalition-is-no-longer-convinced-it-can-survive/

結果はまだまだ流動的:総選挙の予想

しかし、まだストーリーは完全に終わったわけではない。連立を離れたからといって、野党リクードに組みすると言っている離反議員は基本的に、少なくとも今のところは、最初の離脱者チクリ氏以外、いないのである。

オルバック氏は、最終的にベネット政権存続危機を決定的にした人物だが、だからといって、リクードを中心とした右派政権に賛同しているわけではない。オルバック氏は、今の連立政権のまま、党首を別の右派議員になるべきだと言っているのである。

また、もし来週本当に、連立の崩壊が決まった場合、次の政府が決まるまでの半年近くは、暫定政権になるが、その期間の首相は、左派世俗派のラピード氏が担うことになっている。それについて、オルバック氏は、受け入れられない立場である。したがって、来週の政権不信任法案に賛成票は投じないと言っている。

先週政権法案に不賛成を出して、政権の弱体化を決定づけたラアム党ガナイム氏と、左派メレツ党のゾアビ氏が、これからの交渉で、連立に戻る可能性はなきにしもあらずではある。

いずれにしても、この二人も、今のところ、今の連立政権には賛同できないが、総選挙はしたくないので、不信任案には賛成しないと言っている。

とはいえ、オルバック氏が戻らない限り、まだ連立政権は59議席のままなので、過半数割れに回復の見込みはない。

ラアム党は、リクードが受け入れるなら、そちらに着くこともありといった発言もみせはじめている。しかし、右派であるリクードがラアム党の票に依存するとしたら、それはこれまでと同じことになるわけであるし、右派政権として、内部からの反発もあるだろう。

となると、リクードが過半数になるには、ギドン・サル党首のニューホープ党(現在は政権側)が、リクード側に入ることが必須になってくる。このため、今回の混乱のきっかけになった西岸地区関連の法案を審議に出したギドン・サル氏が、リクードに示唆されたのではないかと疑念がもたれている。

しかし、サル氏はそれを否定している。いずれにしても、ニューホープは、次回総選挙では、議席獲得のための最低得票率に達しないかもしれず、そうなると、国会からいなくなる可能性すらある存在なのである。

こうしてみると、仮に、来週、ベネット政権の不信任案が可決して、総選挙になったとしても、結局、リクードもまた、過半数には届かないというのが、総選挙予想なのである。

ちなみに、その場合の総選挙日程は、今年10月29日とみられる。それから連立交渉があり、実際に政権が立つのは、年末から新年初頭というところである。

その間にも世界は危機的なまま、どんどん動いている。外交も動きが激しい。国内では、またコロナの感染も増えつつある。

このカオス。。国民はいったい、どう受け止めているのだろうか。知人友人に聞くと、多くの場合、ベネット政権は支持できないという声が多い。テレビの主要なニュースを配信しているチャンネル12が行った統計によると、ベネット政権の支持率は35%で、56%は、この政権は存続するべきではないと答えていたとのことである。

www.i24news.tv/en/news/israel/politics/1655188465-poll-shows-majority-of-israelis-want-bennett-government-to-end

いったい、主はなにを言わんとされているのだろうか。ベネット政権終了か、生き残るのか?だれがイスラエルの指導者なのか?まさに主のみが知る、という状況である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。