経済崩壊寸前のレバノン:イスラエルが緊急支援を提示 2021.7.12

ガソリンスタンドに並ぶ車 Lines of vehicles waiting to fuel up in Beirut, Lebanon, in May.Credit...Diego Ibarra Sanchez for The New York Timeshttps://www.nytimes.com/2021/07/05/world/middleeast/lebanon-economic-crisis.html

レバノンの異常な経済危機

イスラエルの北に面する隣国レバノンの経済が、150年で最悪、未曾有の危機に陥っており、社会は崩壊の危機にあるとして、先週、レバノンのディアブ暫定首相が、国際社会への支援を要請した。

レバノンは、2020年3月にすでに債務不履行に陥っていたところ、8月に首都ベイルートで、蓄積していた化学物質の大爆発が発生。200人が死亡し、30万人がホームレスとなった。この時に政権は崩壊し、今ある政府は暫定政権である。

これに加えて、新型コロナの感染拡大となり、レバノン社会は、今、転がるように崩壊に近づいている。もはや国は終わったとして、出ていく人も多い。

経済では、レバノン通貨の価値が90%も下落し、1ドルの価値は、1500レバノンポンドから1万8000レバノン・ポンドとなった。文字通り、レバノン通貨は、紙切れ状態である。長年ためた貯金がすべて吹っ飛んだ形である。

この影響で、失業率が40%にまで上昇。仕事がある人でも、1ヶ月の給料の価値は、60ドル以下で、1日2ドル以下の生活を強いられている人が増えた。警察も含めて、公的な仕事についている人も毎日出勤ができなくなっているという。

レバノンには、前から貧困状態にあるシリア難民が150万人以上(全住民およそ25%)、パレスチナ難民も数十万いるのではあるが、この経済危機で普通のレバノン国民の中にも貧困層に陥る人が増えて、総人口のうち、55%が貧困層となった。

こうした中、物価の上昇が大きな問題となっている。

特に先週から大きく報じられているのが、ガソリンの不足。値段は以前の50%増。それでも長蛇の列で、奪い合いの様相もある。燃料不足で、停電時間も長い。医薬品も不足。

食品の値段も上がっている。たとえば牛乳は、2019年には約2ドルであったものが7ドル、1本200円ぐらいの2リットルボトルが、約700円ということである。

以下のビデオは、レバノンを訪問したアメリカ人が投稿しているビデオ。マクドナルド1個が20ドル近くになっているとのこと。

www.nikkei.com/article/DGXZQOCB022370S1A700C2000000/

国連ユニセフの報告によると、全世帯の77%(シリア難民では99%)が、食料を買う資金にも不足しており、30%の子供たちが、十分な食事を与えられていない。15%は教育を受けられなくなり、10人に1人は、仕事に出ているとのこと。

とはいえ、レバノンは、たとえばアフリカのような後進国ではなく、一見、普通の都市のようにみえるだけに、社会崩壊の現実が、終末の世の感じも否めない。

www.unicef.or.jp/news/2021/0132.html

イスラエルからレバノンへの支援表明:ガンツ防衛相

イスラエルのガンツ防衛相は、先週、「ユダヤ人として、人間として、人々が通りで空腹になっている様子には心が痛む」と述べ、UNIFIL(国連レバノン暫定駐留軍)を通しての人道支援を申し出たことを明らかにした。

しかしレバノンがこれを受け入れる可能性は低いと言われている。イスラエルは、昨年、ベイルートの大爆発の際も支援を申し出たが、レバノン政府は、これを拒否した。

イスラエルは、ハイファ沖の海底天然ガス油田についても、レバノンに話し合いを申し入れているが、今のところ、レバノン政府は、イスラエルとの交渉をいっさい拒否しているとのこと。

しかし、レバノンの惨状を受けて、ガンツ防衛相は、世界にむけて、レバノンを支援するようにも訴えかけた。

www.timesofisrael.com/gantz-offers-lebanon-humanitarian-aid-amid-financial-meltdown/

ガンツ防衛相がレバノンへの支援を申し出た背景には、ヒズボラとその背後にいるイランが、いわば救い主のごとくに、レバノンに進出してくる可能性が懸念されるからである。この経済危機にあって、レバノンのイラン傀儡組織、ヒズボラが、イランを引き込もうとすることは、大いにありうる。

イランは石油産油国でもあるので、レバノンに燃料や人道支援を行うことにより、レバノンがいよいよイランの足場になっていく可能性があるということである。

ただ今のところ、その可能性は低く、もし本当にレバノン経済がこのまま崩壊してしまった場合、たとえイランが介入しても、もう回復には至らなくなってしまうとも言われている。

www.haaretz.com/israel-news/with-lebanon-on-brink-of-collapse-israel-does-what-it-can-to-stave-off-iran-1.9975686

ヒズボラとイスラエルの最近の動き

国境で押収した銃
IDF

レバノンの国が危機的状況にある中、イスラエル北部国境では、ヒズボラの活動とみられる密輸事件が相次いでいる。

10日には、レバノンからドルーズの村ガジャールに密輸されようとしていた43丁の銃が押収された。その額は82万ドル(1億円程度)にも及ぶと推測される。

同様に、先月、ゴラン高原メトゥラから密輸されそうになった銃12丁が押収されている。こちらは14万ドル(1600万円近く)である。今年に入ってからだけで、レバノンのヒズボラによるとみられる密輸銃は100丁に及ぶという。

この他、ハシシが、レバノンからイスラエル側へ密輸されていることも知られていることである。これらの目的が何かは不明だが、国内でテロを行うのか、金にしているのか、メディアの情報からだけでは判断は難しい。

ヒズボラのナスララ党首は、先月、姿を表さず、やっと現れた際には、咳をしていたことから、コロナに感染したのではないかとも言われた。しかし、後にこれは、うわさに過ぎなかったとの情報になっている。

この時、ナスララ党首は、先月の11日間のガザとの戦闘について、エルサレムをイスラエルが支配することは受け入れられないとして、イスラエルを攻撃する可能性を示唆したのであった。

これに対し、ガンツ防衛相は、第一次レバノン戦争(1982)から39回目を記念する式典の中で、「イスラエルは市民を必ず守る。もしヒズボラが攻撃してきたら、イスラエルは、ミサイルとテロリストを隠している家々(南レバノンに15万発)が崩れ去るだろう」と述べた。

また、ガンツ防衛相は、レバノンで標的になる箇所は、ガザ地区よりもはるかに多いと警告した。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/gantz-if-an-attack-comes-from-the-north-lebanon-will-tremble/

レバノンの現状について、ヒズボラとイランがどう出てくるのか予測は難しい。危機的状況にあるレバノンが、これからどうなっていくのか。情報が入り次第お伝えする。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。