終わらないガザの焼夷凧・南部国境での衝突 2018.6.30

ガザとイスラエル南部との国境では、29日金曜も、パレスチナ人約2000人が、6箇所に分かれてイスラエル軍に火炎瓶を投げるなどして衝突。パレスチナ人2人(13歳、24歳)が死亡した。

同時に、焼夷凧や風船も飛来し、金曜だけで、イスラエル南部で15箇所で発火。消防隊が四苦八苦させられた。

昨日木曜には、複数のパレスチナ人が、イスラエルへ侵入しようとしたため、戦車が戦車砲を発砲し、17歳が死亡した。水曜にも、防護壁を壊してイスラエルへ侵入しようとしいたパレスチナ人らがいたため、イスラエル軍が発砲。3人が負傷した。

焼夷凧や風船は、日々飛来し続けており、木曜にも20箇所で発火。畑地が焼失している。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5298845,00.html

イスラエルのメディアで、「サムソンはどこにいる」というものもあった。

(古代イスラエル人とペリシテ人の時代。聖書によると、イスラエル人のサムソンが、狐を使ってペリシテ人の畑を焼くのだが、デリラに騙されて力を失った後、ペリシテ人に捕まり、ガザへ連れて行かれる。力が回復すると、ガザで大勢のペリシテ人を殺すことになる)

火曜、イスラエル軍は、ガザで、焼夷凧や風船を指導しているとみられるハマス指導者所有の車両など数カ所を空爆した。すると、ガザからイスラエル南部へロケット弾13発が撃ち込まれた。

迎撃ミサイルが作動するなどして、人的被害はなかったが、住民たちは夜中1:40以降、「ツェバ・アドン」というサイレンでシェルターへ駆け込んでいる。ハマスは、「イスラエルが暴力をエスカレートしたので、防衛した。」と世界に訴えている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5297490,00.html

<イスラエルの対処:ガザのための港をキプロスに?>

ガザの焼夷凧については、ハマスにやらされているだけではないと言われる。貧困と、長年、ガザから自由に出入りできない状況から希望をなくした若者たちが、率先して実行しているというのもまた間違いではない。

*ガザからの出入りは、イスラエルの検問所2箇所と、エジプトの検問所1箇所だけである。エジプト側はしょっちゅう閉鎖されるので、現在、最も物資の出入りが多いのは、イスラエルのカレン・ショムロン検問所である。

人口200万人のガザの状況は日々悪化しており、今の状況に対し、武力で叩くのか、逆にガザの状況を改善して、愚かな行為をやめるよう導くのか、イスラエルでは、論議が続いている。

こうした中、イスラエルは、現在、イスラエルを経由して、陸路でガザへ搬入している商品や人道支援物資を、イスラエルを経由しないでガザへ搬入するための港をキプロス島に設立する案を、メディアを通して明らかにした。

これが実現すれば、イスラエルの包囲により、ガザの住民は事実上、監獄に入れられているという状況ではなくなる。

当初、ガザへの人道支援に反対していたリーバーマン防衛相もこれを推進し、すでにキプロスとの話をすすめているという。

ただし、この案は、ハマスが2014年の戦争以来、今も引き渡さないイスラエル兵2人の遺体と、ガザへ迷い込んだイスラエル人とを返還するならという条件つきになるみこみ。

ガザの生活環境は、すでに崩壊直前であり、ハマスは、まだイスラエルからの正式な申し入れではないとしながらも、興味を示しているようである。

一方、パレスチナ自治政府は、イスラエルとは、いかなる交渉もするべきでないという姿勢を崩していない。しかし、今のガザの困窮は、自治政府がハマスに対する経済制裁を継続しているからなので、ガザとしては、自治政府のいうことを聞かなければならない理由はないわけである。

この案が発表されたのは、トランプ政権の中東和平を担当するクシュナー大統領補佐官とグリーンブラット中東和平特使らが、関係諸国を歴訪後、ネタニヤフ首相と会談した直後であった。

このため、この案の背景には、トランプ政権が勧めている中東和平案(まだ明らかにされていない)がからんでいるとみられている。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Israel-announces-plan-to-relieve-Gaza-isolation-by-building-port-in-Cyprus-560859

<トランプ政権の中東和平担当者らの中東巡回>

トランプ政権の中東和平担当・クシュナー補佐官とグリーンブラット特使らは、サウジアラビア、カタール、ヨルダン、エジプト、イスラエルと巡回訪問を行った。この間、ネタニヤフ首相も、ヨルダンのアブダラ国王を訪問している。和平案が動いているのは確かだが、まだその中身は伏せられたままである。

パレスチナ自治政府のアッバス議長は、トランプ大統領が、エルサレムはイスラエルの首都と認めて以来、アメリカとは断絶している。このため、クシュナー氏らの訪問も受け入れなかった。

クシュナー補佐官は、パレスチナの新聞のインタビューに応じ、「アッバス議長が交渉の席につくなら、アメリカはいつでも応じる用意がある。」とし、それでも応じないなら、アッバス議長が応じる応じないに関わらず、まもなく公に発表すると語った。

また、アッバス議長の意見は25年間変わっておらず、なんの成果もあがってこなかったとし、和平を実現する気があるのかどうか疑問だと語った。

インタビューの記事は、一面トップで報じられ、パレスチナ人聴衆にアピールした形となった。

www.reuters.com/article/us-israel-palestinians-kushner/trump-adviser-kushner-criticizes-abbas-says-u-s-peace-plan-near-idUSKBN1JJ16D

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。