米・西岸地区承認:入植地獲得を急ぐ右派ネタニヤフ首相 2019.12.7

ヘブロンで新しく入植者地区に入る建物 出展:Jerusalem Postphoto credit: TZIPI SHLISEL/TPS

先月18日、ポンペイオ米国務長官が、西岸地区にあるイスラエルの入植地を国際法上違法とはみなさないと、アメリカの方向転換を発表したことは、お伝えした通り。

イスラエルでは、ネタニヤフ首相と右派、入植地の人々がこれを歓迎し、ヘブロンへのユダヤ人入植を加速するほか、ネタニヤフ首相は、公約しているヨルダン渓谷の合併実現へ意欲を表明した。

しかし、ヨルダン渓谷の合併については、パレスチナ人はもちろん、ヨルダンが受け入れるとは考えられず、治安関係者からは、隣国との関係悪化を懸念する声もある。

1)西岸地区:ヘブロンにユダヤ人居住地を許可:ベネット防衛相

先月、ネタニヤフ首相から、暫定として任命を受けたばかりのナフタリ・ベネット防衛相が、12月1日、ヘブロンに新たなユダヤ人入植者のための建物70戸の建設を承認すると発表した。この計画により、ヘブロンのユダヤ人人口(500-850人/総人口21万人)は、今の倍になるみこみ。

なお、イスラエル政府がヘブロンに新たなユダヤ人居住地建築を承認するのは、今回が初めてではない。2002年に10戸、2017年にも31戸が承認されていた。

パレスチナ人からすれば、じわじわとユダヤ人地区が拡大しているとみえているだろうが、人数的にはかなり、少ないといえる。

*ヘブロンをめぐる紛争

ヘブロンには、アブラハムとサラ、その子イサクとリベカ、その子ヤコブとレアの墓とされるマクペラの洞窟がある。これらの人々は、ユダヤ人にとっての父祖である。しかし、ユダヤ人は、ローマ帝国が支配した1世紀以降、1900年近く、この地に正式なアクセスを失うことになる。

その後、イスラム帝国が来て、ヘブロンは、イサクもう一人の息子、エサウの子孫であるアラブ人に支配されるようになり、父祖アブラハムの墓地として、イスラム教徒にとっても重要な地とみなされるようになった。

18世紀後半から、ユダヤ人が目に見えて戻ってくるようになると、アラブ人との紛争が始まった。1929年には、ヘブロンで、ユダヤ人67人がアラブ人に虐殺された。一方、1994年には、ユダヤ人過激派により、アラブ人(パレスチナ人)30人がマクペラの洞窟で銃殺された。

これ以降、ヘブロンは、マクペラの洞窟の建物を含め、その周辺地域は、ユダヤ人地域、アラブ人(パレスチナ人)地域にくっきりと2分され、両者が決して出会うことがないようにとの措置がとられた。

この時、ユダヤ人地域と指定された場所に住んでいたパレスチナ人らは、パレスチナ人地域へ退去させられ、その場所は空き家となって、なんとも寂しい様相を呈するようになっていた。

今回、ユダヤ人の居住として許可が出されたのは、このパレスチナ人が退去して空き家になっている市場の地域である。この地域は、18世紀後半に、ユダヤ人たちが、購入した土地だとイスラエルは主張している。

しかし、エルサレムポストによると、国際法上問題とならないよう、一応、店舗はそのまま店舗として残すとのことである。その背景は不明。

www.jpost.com/Israel-News/Naftali-Bennett-approves-new-Jewish-neighborhood-in-Hebron-609530

2)ヨルダン渓谷合併を急ぐネタニヤフ首相

ネタニヤフ首相は、9月の総選挙直前、右派の支持を得るためもあったと思われるが、政権をとった暁には、西岸地区の一部であるヨルダン渓谷を合併すると発表していた。

その後、ネタニヤフ首相は、司法長官から起訴されるなどして、時期政権をとれるかどうか、先行きは見えない状態に陥っている。

しかし、12月5日、ネタニヤフ首相は、ポルトガルを訪問中にリスボンで、ポンペイオ米国務長官と会談。会談後の記者会見で、「西岸地区とヨルダン渓谷における主権は、完全にイスラエルにあることを確認した。」と述べた。

しかしまた、イスラエルが今、まだ暫定政権であるため、具体的な計画を組むまではいかなかったと述べ、政権を立ち上げられないのは、青白党のガンツ氏が、党内ラピード氏らの反対を抑えられないこと、リーバーマン氏が自身の主張を曲げられないことが原因だと非難した。

www.timesofisrael.com/israeli-officials-warn-jordan-valley-annexation-will-imperil-ties-report/

ネタニヤフ首相は、青白党との統一政権交渉にあたり、その条件として、とりあえず、数ヶ月でよいから、まずは先に首相のポジションにつかせてほしいと主張している。

西岸地区におけるイスラエルの主権を認めるほど親イスラエルのトランプ政権がまだ存続している間に(来年大統領選挙)、できるだけ西岸地区合併への足がかりを残しておきたいと考えているからである。

また、現時点を含め、首相というポジションにいる間に、できるだけ多くの外交的な進捗を達成し、市民の支持を強化し、3回目総選挙、またはガンツ氏との一騎打ち選挙になった場合に備え始めているとみられる。

www.timesofisrael.com/after-pompeo-meet-netanyahu-says-israel-has-full-right-to-annex-jordan-valley/

<国連147カ国が入植地活動に反発>

ネタニヤフ首相のヨルダン渓谷合併への意志や、西岸地区での入植活動が活発化していることについて、国連総会は、12月4日、これを非難する決議を行った。

結果、147カ国が賛成、つまり、イスラエルは、東エルサレムを含む西岸地区でのいかなる入植活動もすぐにやめるべきとの回答をつきつけた形である。この決議ではまた、イスラエルの入植活動に対し、いかなる支援も行わないと宣言している。

しかし、一方で、国連におけるパレスチナ人の権利に関する決議では、昨年までは、棄権に回っていた国々が、今年は反対票を投じていたことが注目された。

特に昨年は棄権票を投じていたドイツが、親イスラエル票に立っていることが注目され、国連での流れが変わり始めているとネタニヤフ首相は主張している。今回、親パレスチナ議案に反対票を投じた国は以下の国々。

オーストラリア、ブラジル、ブルガリア、コロンビア、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、ドイツ、ギリシャ、リトアニア、オランダ、ルーマニア、スロバキア

www.jpost.com/International/147-nations-call-to-halt-aid-to-Israeli-settlements-610048

<石のひとりごと:嫌われながら頼られる国>

イスラエルという国は実に不思議な国である。世界中から嫌われながらも世界中から注目を浴び、技術力では頼られている。

先日大阪商工会議所で、イスラエルのサイバーセキュリティ技術に関するセミナーが開かれた。そこに集まっていたのは、中小企業の人々約百人である。新聞社も取材に来ていた。日本では通常、パレスチナ贔屓が多いのだが、ビジネスとなると、話は別のようである。

サイバージムという、一般の会社社長や社員などにサイバーセキュリティの技術を訓練を提供する会社は、東京にもオフィスを持つイスラエルの会社である。

その会社の説明によると、イスラエルの電力会社(日本で言えば東電)は、年間2億回だが、一回もその攻撃の影響を受けたことがないという。凄まじいセキュリティ能力を持っているからである。こうしたイスラエルの技術力に投資先を求める日本企業はどんどん増えているという。

まさに、イスラエルの存在そのものが、彼らの神が本当にいるということを証ししているようである。

また、ほめられたり、そしられたり、悪評を受けたり、好評を博したりすることによって、自分を神のしもべとして推薦しているのです。

私たちは人をだます者のように見えても、真実であり、人に知られないようでも、よく知られ、死にそうでも、見よ。生きており、罰せられているようであっても、殺されず、悲しんでいるようでも、いつも喜んでおり、貧しいようでも、多くの人を富ませ、何も持たないようでも、すべてのものを持っています。(第二コリンド6:8-10)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。