第77回目国際ホロコースト記念日:イスラエル在住サバイバー16万5800人 2022.1.29

世界の外交官にメッセージを語るベネット首相 Roi Avraham (GPO)

1月27日は、アウシュビッツ虐殺収容所が解放された日で、国際ホロコースト記念日とされる日であった。今年は77回目にあたる。国連はじめ、各地やオンラインで記念イベントが行われた。

イスラエルでは、ヤド・ヴァシェムと外務省がそれぞれオンラインでのイベントを行った。1月27日は、国際ホロコースト記念日だが、イスラエル自身が覚えるホロコースト記念日は、独立記念日の前に行われる。今年は4月27日。

イスラエルに生存するホロコースト・サバイバー

現在、イスラエルに在住するサバイバーは、政府のデータによると16万5800人。みな75歳以上で、平均年齢は85歳。19%は90歳以上で、950人が100歳を超えている。一般的に女性の方が長生きするが、サバイバーも60%以上は女性である。

サバイバーのうち、64%は旧ソ連やヨーロッパ出身者である。旧ソ連の国々(ウクライナなど)が5万9900人。続いてルーマニア1万9100人、ポーランド8900人、ブルガリア4500人、ハンガリー2400人、ドイツ2300人。

残りの36%は、ナチスが手を伸ばしていた北アフリカ諸国から3万600人、イラクから1万8000人がサバイバーとして、イスラエルに移住した。Times of Israelの記事によると、約40%は1951年にイスラエルに移住し、最後の波は、1990年代に旧ソ連からの移住が実現した時にイスラエルに移住していた。

2021年の間に死亡したサバイバーは1万5324人。計算では毎日42人のサバイバーが亡くなったことになる。今の世代は、生存するサバイバーに会える最後の世代だとヘルツォグ大統領は語っている。

多くの家族に恵まれた人も多いが、孤独な人もいる。サバイバーへの補償は、国から様々な形で支給されているが、サバイバー支援団体によると、サバイバーの3人に1人は貧困で、チャリティからの支援を受けているとのこと。

www.timesofisrael.com/on-eve-of-holocaust-remembrance-day-israel-home-to-165800-survivors/

ベネット首相から世界へ

ベネット首相は、この日、オンラインで世界の外交官たちにむけて、30分近いコメントを出した。

fb.watch/aPfYjibWpq/

以下は、そのダイジェスト版。

ベネット首相は、30分のメッセージを自身の妻の祖父、エリさんの話から始めた。エリさんは、ポーランド出身。15歳の時に、ホロコーストの中、父を失い、それから5年、母と2人の弟をポーランド国境の森の中に隠し、隠れ場所を変えながら、5年間生き延びた。

しかし、ロシア軍が解放1週間ほど前になったころ、エリさんが、働きに出ていた間に、母と弟2人はポーランド人に殺害されてしまった。その後まもなく、戦争が終わるのである。もう少しのところでエリさんは、家族とともにこれまでの努力もすべて失ったということである。

エリさんは、のちに結婚し、イスラエルで家族を持つことになった。しかし、ベネット首相は、この思いがエリさんから消えることはなく、その目には、いつも深い悲しみがあったと言っている。

ベネット首相は、今、いつ殺されるか心配せずに子供を育てられるということは、当たり前ではなく特権だと思わなければならないと警鐘を鳴らす。

ユダヤ人は、今、この世界で安全な場所を作ることができた。ユダヤ人を殺そうとする者は知らなければならない。我々はもはや、殴られっぱなしではなく、殴られたら、厳しく殴りかえすと思った方がよい。

自由は当たり前だと思ってはならない。それに喜んで欲しい。正義が当たり前だと思ってはならない。常に検証してほしい。悲惨なことを見て傍観者になってはならない。戦って欲しい。ホロコーストから、悪に決して屈服してはならないということを学んで欲しい。

今、イランは毎日ユダヤ人の国を亡き者にしようと言いながら、核兵器にむかって突進している。にもかかわらず、それを無視する態度や、静かにそれを受容する様子がみられる。ユダヤ人の国を消し去ろうと公言する国とは、いかなる正式な関係も許されてはならない。

イスラエルは、(世界の)無関心に対するユダヤ人の抵抗である。今、私たちは自由で強い国、独立した国になった。この記念の日、不条理への無関心と戦い、犠牲となった人々をおぼえよう。ユダヤ人は2度と無力にはならない。2度とホームレスにはならない。

ホロコーストの恐怖は消せないが、私たちと世界のよりよい未来を作ることは可能だ。「Never Again(2度とおこさない)」は単なるキャッチフレーズではない。行動してほしい。

石のひとりごと

ベネット首相のメッセージで、無関心と繰り返していたのが印象的だった。今世界では、反ユダヤ主義暴力が、急速に増えているが、ユダヤ人の場合はそのような目にあっても、世界は、無関心とまではいかなくても、本気で対処が必要だという感じにはならないような気がする。

確かにイランはイスラエルを地図から抹殺すると明言しているにもかかわらず、世界は、そこは無視で、普通に外交交渉をしようとしている。歴史はくりかえす傾向にあるが、今もあるこのユダヤ人に対する独特の世界の無関心が、神を無視して自力の知恵と力を誇る人類の罪の本質とどこか関連しているのかもしれない。

ホロコーストが指し示していることは、ただ関係した国々の歴史にとどまらず、非常に深い、人類全体への神からのメッセージがあると思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。