第36新政権就任決定:ネタニヤフ首相は退陣 2021.6.14

右端がベネット首相、中央がラピード外相、左がガンツ防衛相 出典:イスラエル国会

13日、イスラエルの国会で、承認60、反対59、棄権1で、ベネット氏(ヤミナ)とラピード氏(未来がある党)を中心とする8党からなるチェンジ・ブロックの政権を承認する議員が、かろうじて多数派となり、ネタニヤフ首相が退陣、新政権に政権を引き継ぐことが決まった。

これまで12年間、ワンマンで国を導いてきた長老のネタニヤフ首相から、ベネット氏、ラピード氏が主導をとりながら、右派、左派、中道派、アラブ政党までもが協力する全く新しい形の協力型政権になる。

新政権ではまず、ベネット首相が首相となり、2023年8月27日からは、ラピード氏が首相として交代することになっている。前半、ラピード氏は外相を務める。

ベネット氏(49)、ラピード氏(57)はどちらも、イスラエル独立戦争を経験していない。次世代政治家たちが、超ベテランのネタニヤフ首相を破った形である。

メディアは、歴史的にもありえない形の政権が成立したとして、「いまだかつてない」「歴史的」ということばを連発しながらこの出来事を報じた。

そんなメディアからは、あまりの変化で、見通し不明、懸念と期待、驚きと不安、また、喜びがうずまいていて、総じて、なんとなくの不安な感じも見えてくる。

以下は、決議が出た瞬間の国会の様子。議員たちが立ち上がって挨拶を交わす中、ネタニヤフ首相と現政権閣僚たちがその席を立って、次期政権にその席を譲っている。

その過程で、ネタニヤフ首相は、すぐ後ろにいるベネット氏に一瞬だが、握手している。

この後、ベネット新首相、次期首相ラピード外相から始まり、新政権閣僚たちが、次々に国会講壇に登壇して、就任の誓いと署名が行われた。(クリップ後半)

 

13日:国会議長交代、各党激論と決議・新政権就任・初回閣議開催までの流れ

13日は、まず国会議長を、ヤアリブ・レビン氏(リクード)から、ミッキー・レビ氏(未来がある党)に交代することで、採択がとられ、レビ氏(賛成67、反対52)が議長に就任した。

その後、16時、次期政権首相予定のベネット氏が、新政権の施政方針を発表を行なった。ベネット氏は、まず、これまでのネタニヤフ首相のイスラエルへの功績に感謝することから始め、詳細な姿勢方針を発表した。(事項参照)ベネット氏は、イスラエル社会にある憎しみを終わらせるとの覚悟を語っている。

しかし、ベネット氏が発表を開始するや否や、前にベネット氏と共に宗教シオニスト政党(ユダヤの家党)を立ち上げたスモルトリッチ氏が立ち上がって怒りを表明し、退場させられた。

その後も、新政権に反対するネタニヤフ陣営の議員らが、次々にヤジを飛ばして、ベネット氏のスピーチは、何度も妨害され、議員らが次々ににさせられていた。

続いて、リクードのネタニヤフ首相はじめ、国会に議席を持つ各党党首が、それぞれの意見を述べた。

ネタニヤフ首相は、ベネット氏が右派でありながら、意見を変えた詐欺師だと述べ、この“危険な政権”が倒れるまで戦うとし、「神のみこころにより、私は、みなさんが予想するより早く政権に戻ることになるだろう。」と述べた。

その後、決議が行われた。

投票が進む中、統一アラブ政党議員ら(ラアム党とは別のアラブ政党)は、国会外で待機し、万が一にもチェンジブロックから離脱者が出て、ネタニヤフ陣営が勝ちそうになった場合、国会に入って棄権票を投じ、ネタニヤフ首相側を多数派にしないように構えていた。

しかし、多数派になることが確認されると、統一アラブ政党議員たちも国会に入場し、反対票を投じたのであった。

これは統一アラブ政党が、ラアム党とは立場が違うことと、できるだけユダヤ人政権に協力する形を避けなければならなかったからである。(ネタニヤフ首相は退陣させたいが、新政権には協力しない立場に立たなければならないということ)

アラブ人としては、どんな形であれ、ユダヤ人政権に協力することはリスクになりうる。ラアム党のアッバス氏はこのリスクを覚悟してチェンジブロックに加わったということである。最終的に、棄権票1票を投じたのは、ラアム党議員の一人であった。

こうして、新政権を承認する票が60、反対が59、棄権1人と、超ぎりぎりの多数票獲得ということになり、ネタニヤフ首相の退陣と、新政権の発足が決まったのであった。

この新政権、皮肉なことに、アラブ系議員にかなり助けられての就任になったということである。

それぞれの祈り

新政権が決まるという13日の朝、ネタニヤフ首相支持者、ユダヤ教政党の支持者らは、嘆きの壁に、大勢集まって新政権にならないよう祈りが捧げられた。

同じ頃、ベネット氏は、イスラエル史上初となる正統派首相になるべく、正式な祈りのショールをつけて、神に朝の祈りを捧げる様子をツイッターで投稿した。

この日の朝、同じ神の前に、それぞれが別のことを祈っていたということである。

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一方、新政権就任が決まると、テルアビブでは、打倒ネタニヤフ首相デモを繰り返してきた数千人の世俗的な市民たちが、まるで独立記念日のごとくに、大騒ぎのお祝いをしていた。以下は、「ビービー(ネタニヤフ首相)は家に帰れ」と叫んでいる群衆の様子。

このあまりにも多様なイスラエルの社会を束ねていくのが、未だかつてないほど多様な新政権ということである。

まさに人間の知恵や力では不可能であろう。しかし、それこそが、聖書の国としてのイスラエルにとっては、最善の場所なのかもしれないとも思わされる。

いずれにしても、様々な障害を乗り越え、2年半を経て、ようやく正式な政府が誕生したということである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。