第36・ベネット・ラピード政権とは 2021.6.14

第36新政権 リブリン大統領の右にベネット氏、左にラピード氏が座っている。 出典:GPO

新政権の形

13日夜、就任式を終えた第36ベネット政権は、最初の閣議を行なった。

右派、左派、中道派、アラブ政党まで加わった8党首からなる政権だが、なんとか合意にいたったという政権で、大臣27人で、史上3番めに大きい政権。女性閣僚は9人で史上最大である。

首相はベネット氏が先に2年、次にラピード氏が2年、首相となる。

現時点では、ベネット氏が首相ではあるが、実質的には、ラピード氏の党の方が、議席ははるかに大く、組閣を命じられたのもラピード氏であったことから、本来は、ラピード氏が本先に首相であったはずである。

このため、首相はベネット首相でも、実質的には、ベネット氏・ラピード氏のペアのよる政権ということである。以下は最初の閣議の様子。ベネット首相のすぐ右にラピード外相が座っている。

主な閣僚は以下の通り。なんとなく右派が重要ポジションをもらっているが、これは国民の右派に偏っている昨今の傾向を表していると言える。

首相:ナフタリ・ベネット氏(49)(ヤミナ・右)
外相(次期首相):ヤイル・ラピード氏(57)(未来がある党・中道)

防衛相:ベニー・ガンツ氏(62)(青白党・中道)
内務相:アイエレット:シャキード氏(45)(ヤミナ・右)
経済相:アビグドール・リーバーマン氏(62)(イスラエル我が家党・右)
法務相:ギドン・サル氏(54)(ニューホープ党・右)
教育相:イファット・シャシャ・バイトン氏(ニューホープ党・右)
移住相:プニナ・タマノ・シャシャ氏(青白党・中道)
農水省:オデッド・フォーラー氏(イスラエル我が家・右)

公共治安相:オマール・バーレブ氏(労働党・左)
交通相:メラブ・ミハエリ氏(労働党・左)
保健相:ニツアン・ホロビッツ氏(メレツ党・左)
厚生相:メイール・コーヘン氏(未来がある党・中道)
エルサレム相:ゼエブ・エルキン氏(ニューホープ:右)

www.timesofisrael.com/whos-who-in-the-bennett-lapid-government/

14日、大統領官邸を訪問し、恒例の集合写真を撮影した時の様子。リブリン大統領の右側にベネット首相、左にラピード外相が座っている。

アラブのラアム党はどうなる?

アラブ政党のアッバス氏は、政権には入らないが、国会では毎回政権に賛成することを約束することで、様々な要求を受理してもらっている。

ラピード氏との合意は、①南部ベドウイン3地区を正式に認定すること、②違法だとされ撤去の危機にあるアラブ人居住区の撤去を2024年末まで延期する。③アラブ人居住地の治安強化などである。

しかし、アッバス氏は、イスラエルの領内におけるアラブ人の領地の権利に関しては戦っていく意思を表明している。

www.timesofisrael.com/in-speech-before-swearing-in-raam-leader-vows-to-reclaim-expropriated-lands/

施政方針:現実に即した政策

就任にあたり、13日、ベネット氏が、国会で就任前に明らかにした新政権の方針は以下の通りである。

ベネット首相は、まずは、イスラエルを守り、経済を向上させてきたネタニヤフ前首相への感謝でスピーチを始めた。

次に、様々な世代が、それぞれ違った試練に直面してきたと述べ、イスラエルは歴史的に、2回の流浪を経験したが、それぞれの時代の指導者たちが、必要な妥協をしなかったことをあげた。

その上で、今、違う考えの人々とともに座っているということを誇りに思うと述べ、主義主張が違う中で、共に歩み寄りをしようとしたラピード氏に感謝を述べた。

また、「今は、選挙を繰り返し、憎み合うという選択肢はなない。これは国家的な責任だと考える。施政方針としては、まずは、現実的な問題に取り組んでいく。私たちは働くためにここにいる。」と述べた。

1)教育

教育に力を入れるため、新生児から幼児教育を、教育省の管轄とする。

2)超正統派とユダヤ教関連

今回、超正統派は代表が連立政権に加わっていないが、ベネット首相は正統派でもあるので、超正統派たちの生活や権利は守っていくと述べた。その中には、先にメロン山の将棋倒し事故で死亡した16歳の少年の父親と約束したとして、事故の責任問題を明らかにする委員会を立ち上げると約束した。

また、超正統派の人々の兵役免除年齢を24歳から21歳までとし、人生で早いうちに兵役を終えて、トーラーの学びに集中するか、職業訓練を受けることができるようにする。

コシェル(律法にかなった食品)認証における競争を促すとともに、そのシステムの構築を行う。これにより、経営への負担が軽減されるとともに、コシェル関連の独占を解消しつつ、コシェルのレベルが向上することを目指す。

3)経済

リーバーマン経済相を中心にコロナで失われた雇用の回復をめざす。特に収益の大きいハイテク産業での雇用を促進し、2026年までに、雇用の15%をハイテク産業従事者とする。中小企業を支援し、失業保険への加入もできるようにする。

高齢者の支援を、最低賃金の70%のレベルにまで上げる。

建築を増進し、家屋の値段があがらないようにし、若者たちが家を購入できるようにする。

4)インフラ

ホロビッツ保健相は、将来のパンデミックに備え、医療システムの向上を図る。

関連、水源問題の改善。北部、特ガリラヤ地方に病院と大学を設立し、開拓を進める。公共交通の整備を進める。

西岸地区C地域(イスラエル人居住地)のインフラ強化を図る。

5)行政改革

サル法務相のもとで、法と行政のバランスを整えていく。まずは、法務長官の役割と行政の役割を整理するための部署を作り、この問題に取り組んでいくものとする。

不要な規制や、官僚主義を削減し、市民にフレンドリーな行政をめざす。目標はシンガポールのような、紙を伴わない、順番待ちなしの行政である。

6)アラブ系市民

ラアム党のアッバス氏とともに、アラブ人コミュニティとの関係を深めていく。ネゲブ地方のベトウインとも同様である。

8)外交とディアスポラ

ラピード外相を中心に外務省の改革をすすめる。湾岸アラブ諸国との関係は強化し、経済技術協力、文化交流を継続する。またアメリカのバイデン政権の強力に感謝し、アメリカとの関係を深めるよう努める。友好国として、信頼の中で、問題解決にのぞむ。

海外のユダヤ人コミュニティとの関係強化と移住を促進する。 世界の反ユダヤ主義とたたかう。

9)防衛

イランの核化を認めない。イスラエルは世界とイランとの核合意には参加していないので、これからも、独自の防衛を続ける。先月、パレスチナ人との緊張が改めて明らかになったが、敵は、私たちの存在を否定するものであるから、妥協できることではないということを内外に明らかにしたい。

ガンツ防衛相とともに、防衛には投資し、防衛、攻撃どちらの力も強化していく。今ガザとの停戦にあるが、ハマスがこれを破る場合は、容赦なく対処する。

石のひとりごと:新時代の政権に祈る

ベネット首相は、意見がコロコロ変わると指摘されているが、その変わり方は、その時々でもっともイスラエルにとって益になることは何かを考えての動きであったようにも思う。(石のひとりごとにすぎないが・・・)

今回、ラピード氏と合流するにあたり、ネタニヤフ首相からは「首相になりたかっただけだろう。」と詐欺師呼ばわりされ、かつての右派仲間からは、裏切り者と激しく非難されている。

しかし、今先に首相になる道を選んだのは、少なくとも、先に右派が主導の政権にしておくべきと考えたのではないかとも考えられないだろうか。

もし、先に世俗派で、中道左派のラピード氏が首相になった場合、イスラエルのユダヤ的性質は、予想上に消し去られていたかもしれない。そうなれば、この政権の存続はますます短くなっていただろう。これはラピード氏自身もまた、察していて、ベネット氏を先に首相に押し出した可能性もある。

ベネット氏にとっては、議席6議席という少数で、首相になる可能性は、全くもって0であったにもかかわらず、今自分が首相になっているということから、まずは神の前に、またラピード氏やすべての閣僚の前に、おおいにへりくだらされている可能性もある。実際、ベネット首相は閣議も祈りで初めて、終わりも主の導きを願うとのコメントでしめくくっている。

このように考えると、この歴史的な形で生まれた新世代によるベネット・ラピード政権。以外にうまくいくかもしれない。

タイミングも覚えたい。新政権になったのに続いて、7月には、大統領もリブリン大統領から、ヘルツォグ大統領に交代する。

またイスラエルの宿敵となっているイランでも18日に大統領選挙が行われることになっている。新しい時代に生まれた新しい市政権である。これからの動きに主がどう介入されていくのか、ベネット首相、ラピード次期首相とその閣僚たちが、日々、主に導かれていくことを期待したい。

 

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。