第5回世界ホロコーストフォーラムより:世界統一の型?? 2020.1.28

ヤドバシェムでのフォーラムの様子 写真出展:ヤドバシェム

23日、アウシュビッツ解放75周年を記念して、エルサレムのホロコースト記念館ヤド・バシェムで、第5回世界ホロコースト・フォーラムが行われた。

アウシュビッツを解放したのは、旧ソ連の赤軍である。ナチスの崩壊は、この赤軍が、レニングラードを包囲していたドイツ軍を撃退したところから始まっていた。このため、フォーラムに先立ち、プーチン大統領が、レニングラード包囲戦戦死者のメモリアルを、エルサレムに奉献する式典を行った。

式典には、リブリン大統領とネタニヤフ首相も出席。ホロコーストフォーラムは、この直後にヤドバシェムで始まった。

このフォーラムの目的は、単にアウシュビッツの解放を記念することだけではない。過去のことだけでなく、今、欧米社会で反ユダヤ主義暴力が悪化していることを受けて、イスラエルが、首脳たちを招いて、警告を発するとともに、対処を約束してもらうという趣旨のイベントであった。

イスラエルの招きに応じ、ホロコーストを覚える式典に46カ国の首脳が集結したことは、イスラエル史上初めてのことであり、歴史的なできごととなった。

<リブリン大統領、ネタニヤフ首相演説>

首脳たちを前に、最初のスピーカー、リブリン大統領は、「イスラエルが、このフォーラムで、被害者として、諸国の哀れみや補償を求めているのではない。」と強調した。世界の反ユダヤ主義は、今も変わりはないが、イスラエルは今は、前向きな民主国家として強い国になっていると語った。

その上で、イスラエルは、ホロコーストの事実を覚え続けると言った。それは、恨み続けるということではなく、これを覚えて、歴史を繰り返さないようにするためであり、それは、諸国にとっても同じ責務であると訴えた。

アウシュビッツを解放したのは、旧ソ連の赤軍だった。しかし、この時同時に、西から、アメリカ、イギリス、フランスなどの連合軍が、ナチスドイツを攻撃し、全世界が協力する形で、ナチスを壊滅させたのであった。

人類最大の悪を、人類が協力して打ち破ることができたと述べ、欧米とロシアはイデオロギー的にも一致することが難しいが、この時のことを思えば、ともに協力して悪と戦うことは可能であるということがわかる。これからも反ユダヤ主義と戦うチームになっていただきたいと呼びかけた。

一方、ネタニヤフ首相は、義なる異邦人が、自分だけでなく、家族の命のリスクを負ってまでもユダヤ人を助けてくれたとして、諸国異邦人たちに感謝を述べるところから、メッセージをはじめた。

しかし、アウシュビッツ解放は遅すぎたとして、イスラエル国家の存在の重要性とともに、その首相として、第二のホロコーストを起こさないようにすることが、自分の最大、最重要の任務であるとの認識を語った。

<諸国応答>

続いて、プーチン大統領、ペンス副大統領、マクロン仏大統領、チャールス皇太子、そして、諸国代表としては、最後に、ドイツのステインマイヤー大統領が、スピーチを行った。主なスピーチの内容は以下の通り。

1)ロシア:プーチン大統領

プーチン大統領は、大型バス満員のジャーナリストや、護衛など総勢600人を連れてきていたという。フォーラムのメッセージでは、赤軍兵士たちがアウシュビッツを解放した時の記録を読んだとして、そのショックを語るところからメッセージをおこし、アウシュビッツを解放したのがロシア軍であったことを強調した。

当時はナチスに協力した人々が、ウクライナ(ユダヤ人140万人虐殺)やリトアニア(22万人虐殺)におり、時に司令官であったナチスよりも残虐だったとしてナチスだけの犯罪ではなかったと述べた。

また、同時にナチスは、ユダヤ人を抹殺しようとしたが、同じことをロシア人、ベラルーシ人、ウクライナ人、ポーランド人に対しても行おうとしたことを忘れてはならないと語り、ホロコーストは二度と起こってはならないと述べた。

全体的に見ると、プーチン大統領は、ホロコーストを、ユダヤ人に特化せず、グローバルに表現したということである。しかし、たとえば、ポーランドのユダヤ人は、95%が抹殺されたのであり、他の民族とは比べられないような現状があるとして、イスラエルでは、批判の声もあった。

そのロシアだが、1939年に、ナチスと条約を結び、ナチスとともにポーランドの北東部を攻め取ったのであった。これについて、ポーランドとロシアの間には、まだ未解決の問題を抱えたままである。

完全原稿: www.timesofisrael.com/this-crime-had-accomplices-full-text-of-vladimir-putin-holocaust-forum-speech/

2)アメリカ:ペンス副大統領

ペンス副大統領は、反ユダヤ主義暴力と戦っていく必要を述べ、ホロコーストを否定し、イスラエルを地図から抹消しようとする国、イランに対し、強くたっていかなければならないと訴えた。

また、イスラエルが、この悲劇(1945年)から3年の”死の谷”の後に、イスラエルが立ち上がった(1948年)ことへの驚きと敬意を述べ、「今日、私たちは、ユダヤ人の力と回復力、信仰を見ているが、それは神のユダヤ人への誠実の証を見ていることである。」と述べた。

最後には、神が、ユダヤ人とアメリカ、ここに集まった全ての国々を祝福されるように。天に平和を創られるように、私たちすべての国に平和を与えてくださるようにと祈りでしめくくった。

完全原稿: www.timesofisrael.com/we-marvel-at-jewish-resilience-full-text-of-pences-speech-to-holocaust-forum/

3)ドイツ:ステインマイヤー大統領

ドイツはナチスを生み出した国である。このような場で演説することの難しさは想像に耐えない。ステインマイヤー大統領は、まずはヘブライ語で祈りを捧げた。

「私の国の恥に耐えています」と語り、ドイツの負っているこの責任には、終わりはない。ドイツがこれに対してどう対処するかで、私たちを判断していただきたい。」と、その悔い改めの深さと覚悟を述べた。

しかし同時に、ドイツで反ユダヤ主義暴力が発生していると述べ、「私たちの国は、何も学んでない。反ユダヤ主義は悪化している。」と認め、「同じことが二度と起こらないようにしなかればならない。」と危機感を持って決意を語った。

ステインマイヤー大統領が、へりくだって、明確にその罪の責任には終わりはないとまで言ったことを、イスラエルでは感動をもって受け取られていた。一方で、口で言うだけでなく、実際に反ユダヤ主義暴力を阻止するべきだとの声もあった。

完全原稿:www.timesofisrael.com/laden-with-guilt-full-text-of-german-presidents-world-holocaust-forum-speech/

<その他のエピソード>

1)ペンス副大統領が嘆きの壁訪問

23日、フォーラム式典後、ペンス副大統領は、嘆きの壁を訪問。敬虔な福音派クリスチャンとして、詩篇からのみことばを読み、10分にわたって、祈りを捧げた。

その後、新しいアメリカ大使館で、ネタニヤフ首相と会談。ネタニヤフ首相は、「アメリカほどの友はいない。」と述べた。

www.i24news.tv/en/news/israel/1579800692-us-vp-mike-pence-makes-visits-western-wall-in-jerusalem-s-old-city

2)プーチン大統領が、ベツレヘムでアッバス議長と会談

プーチン大統領は、23日、フォーラム式典後、ベツレヘムで、アッバス議長と会談。アメリカの和平案について話しあった。プーチン大統領は、パレスチナ自治政府への支持を表明。5月の戦勝マーチが行われるモスクワへアッバス議長を招いたとのこと。

www.jpost.com/Middle-East/Putin-and-Abbas-meet-in-Bethlehem-discuss-Deal-of-the-Century-615235

3)チャールス皇太子の祖母は義なる異邦人

イギリスのチャールス皇太子は、エルサレムで、その父方の祖母アリス王女の墓を訪問した。

アリス王女は、第二次世界大戦のころ、イギリス王室から、ギリシャとデンマークのアンドリュー王子と結婚。その息子フィリップが、後にイギリスの女王と結婚するにあたり、ギリシャ王族のタイトルを返上して、イギリス王室に入った。その息子がチャールス皇太子である。

アリス王女は、ギリシャで、ユダヤ人をナチスから保護したことで、義なる異邦人と認められた。アリス女王は、戦後もギリシャにとどまり、ギリシャ正教の修道女のための修道会を設立した。亡骸は、エルサレムのマグダラのマリアの教会に埋葬された。

チャールス皇太子は、このほか、ベツレヘムや、エルサレムのキリスト教サイトを訪問した。

www.bbc.com/news/uk-51236905

4)サイバー攻撃800回以上

チャンネル12が報告したところによると、このフォーラムの期間中に、キャッチされたサイバー攻撃は少なくとも800回はあったという。攻撃は、イラン、中国、北朝鮮、ロシアからとのこと。目標は航空機関連で、その飛行を妨害しようとしていた。

一般の旅客機が発着する中、これほどの数の首脳が航空機で出入りする。しかもプーチン大統領やペンス副大統領といった超大物ばかりである。これらの出入りや、首脳の動きをここまでみごとに計画し、護衛したイスラエルにはやはり脱帽である。

エルサレム市内は、22日、23日とバスの動きはかなり影響を受けたが、首脳の移動が終わればすぐに、道路閉鎖が解除されるので、困難ではあったが、移動ができなくなるということはなかった。

<石のひとりごと>

今回は、ドイツのステインマイヤー大統領がへりくだり、「私たちの責任に終わりはない。これに私たちがどうするかをみていてほしい。」と述べたことに感動を覚えた。

これを聴きながら、日本では、戦争を子供達に深く教えないまま、韓国に対して、責任の「終了宣言」をしたことを思った。無論、ナチスと日本を比べることはできない。しかし、いくら補償をしたとはいえ、加害者の方から、責任の終了を宣言できるものだろうか。

某国立大学の日本政治外交教授は、ナチスは、その罪があまりにも明確なので、むしろ幸運だ。日本の場合、国の性質が違うし、アジアで犯したとされる罪がどうもグレーの部分もあり、ドイツほど、国として謝罪を明らかにすることに問題が残ると言われていた。

そうした中、日本には、「水に流す」という文化がある。しかし、世界にそんな文化はない。しっかり覚えることで、同じ間違いを繰り返さないようにと努めるのが世界である。世界との文化の違いをよく見据えた上で、外交をしていく必要があると思った。

またこれほどの、首脳陣がエルサレムに集結した様子を見て、韓国人クリスチャンの友人が、将来のエキュメニカルな、世界統一を見るようだと言っていた。イスラエルは、聖書の神を実証する国だが、同時に、最後に神に逆らうものもまたイスラエルから出るのではとも思わせるフォーラムでもあった。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。