激動の中東:まとめ 2017.6.11

中東が非常にややこしいことになっている。この真っ只中で、イスラエル市民がおおむね平和にやっているというのも不思議なほどである。中東情勢について、また、それとイスラエルの関連については以下の通り。

<アメリカとイランとの対立:スンニ派VSシーア派鮮明に>

先週、サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、バハレーン、エジプトの中東4国が、カタールとの国交断絶を宣言。イエメン、リビア、モルディブがこれに続き、ヨルダンまで、国交のレベルを下げるに至ったことは前回お伝えした通り。

サウジアラビアなどが、国交断交によりカタールに要求しているのは、ムスリム同胞団をはじめとする過激派への支援とイランとの協力関係を断つことである。

アメリカのトランプ大統領はこの動きを賞賛し、「中東諸国が過激派撃滅への動きだした。」として、先月の自らの訪問の影響であると自負するコメントも出した。

www.reuters.com/article/us-gulf-qatar-idUSKBN18X0KF

サウジアラビアやエジプトなどはこのトランプ大統領のコメントを歓迎している。これで、アメリカは、スンニ派諸国の側についたことが明らかになった。

一方、シーア派のイランは、これに反発し、「サウジアラビアこそテロ組織を支援している国だ。アメリカこそテロ支援国家だ。」と訴えた。

この後になって、ティラーソン国務長官が、「湾岸諸国は、(カタールも含め)一致に向けて話し合うことを望む。」と、カタール断交に反対するかのようなコメントを出したが、先にトランプ大統領が、すでにカタールとの断交を賞賛していたこともあり、中東諸国はこのよびかけには反応しなかった。

edition.cnn.com/2017/06/05/middleeast/qatar-us-largest-base-in-mideast/index.html

1)カタールはどうなる?

カタールは小さい国だが、世界への影響力は大きい。液状ガスの輸出で世界で最も裕福な国の一つ。液状ガスの最大輸入国は日本である。今回のことで、カタールの株は下がったが、幸い、今のところ、市場に大きな影響はでていない。

しかし、カタール自体への影響は大きい。カタールは食料の90%を輸入に頼る国で、そのうち30%は、今回断交されたサウジアラビアに頼ってる。サウジアラビアとの国交断交により、交通路が遮断され、さらにはサウジアラビアの上空を空路として使えなくなった今、カタールは、人道的危機に陥る可能性もでてきた。

また、カタールには、エジプト人18万人、フィリピン人20万人ほか、パレスチナ人も多数出稼ぎに来ている。フィリピンは、カタールへの労働者の派遣を停止した。

2022年には、W杯も開催予定であるが、どうなるかは不明。

www.bbc.com/news/world-middle-east-40173757

<アメリカの矛盾?>

トランプ大統領はカタール村八分を賞賛しているが、カタールには、イラク・シリアのISIS空爆に向かう最大の空軍基地がある。カタールに駐屯するアメリカ軍は11000人規模である。これについて、世界はトランプ大統領がまたわけのわからないことをしていると批判した。

しかし、ティラーソン米国務長官は、これがISIS攻撃に影響することはないと構えおり、あわてた様子はない。実際、それに関することの問題は今の所伝えられていない。

edition.cnn.com/2017/06/05/middleeast/qatar-us-largest-base-in-mideast/index.html

*そもそもなぜカタールは村八分?

カタールは以前より、湾岸諸国で昔から混乱をもたらしてきたムスリム同胞団を支援しているとされ、その傘下にあるハマスなど過激派の事務所を首都ドーハにも受け入れていた。この点においては、同じくテロ組織支援を疑われているイラン(シーア派)と、カタールは協力関係にあると指摘されていた。

さらにカタールは、アラブ系メディアのアル・ジャジーラを創設し、カタールの意向を反映する形でニュースを配信し、中東の混乱を拡大させていると言われていた。

そういうわけで、サウジアラビアとUAE、バハレーンなどの湾岸諸国は、すでに数年前からカタール反発を感じており、数年前から軽い制裁を行い、カタールに派遣していた大使も召還していた。

しかし、先月末、カタール国営放送のアルジャジーラが、イランを賞賛するニュースを発表したことをきっかけに、これまでの制裁では効果がなかったとして、今回、一気に制裁レベルをあげ、湾岸諸国から村八分に処したというわけである。

アルジャジーラの報道について、カタールは、サウジアラビアにハッキングされたと反論している。

この他、湾岸諸国を怒らせることがいくつか挙げられている。ファイネンシャル・タイムスによると、カタールの王家の一員が誘拐され、10億ドルもの身代金をイラクの過激派に支払った。過激派支援につながったとみられた。

アメリカのトランプ大統領が多額の武器売却を湾岸諸国全体に申し入れていた時、カタールがぎりぎりになって受注をキャンセルした。このため、サウジアラビアが一気に多額な金額を支払わなければならなくなった、(これについての真否は未確認)など、嫌われる要素はいくつもあったようである。

www.bbc.com/news/world-middle-east-40173757

2)カタール外交努力:米ロ双方を訪問

カタールは今の所、サウジアラビアなどの要求に応じる気配はない。9日、カタールのアル・タニ外相は、ワシントンを訪問。ティラーソン米国務長官に面会し、「支援している言われるハマスについては、テロリストではなく、民族運動であるとの認識だ。」と語った。

この後、ティラーソン国務長官は、人道危機を招きかねないので、サウジアラビア等は、カタール包囲(交通の遮断)を解かなければならないとの公式発表を行った。無論、この要請が聞かれた様子はない。

www.state.gov/r/pa/prs/ps/2017/05/270732.htm

続いて10日、アル・タニ外相は、モスクワでロシアのラブロフ外相と会談した。ロシアのラブロフ外相は、湾岸諸国は話し合ってこの問題を和解するべきだと語り、ロシアはそのために必要な支援はすると語った。

edition.cnn.com/2017/06/10/middleeast/qatar-crisis/index.html

この他、クウェートや、ドイツが、仲介を試みていると伝えられていたが、今の所、進展は伝えられていない。

3)イスラエルへの影響:ハマスに要注意

アメリカが、スンニ派諸国を支援して、イランとの対立姿勢を明確にし、最終的には、昨年オバマ前大統領がイランとかわした核兵器に関する合意を破棄しようとしていることは、イスラエルの立場と同調するものである。

さらに、サウジアラビアがアメリカと協力関係になれば、イスラエルはいざという時に、サウジアラビアから戦闘機を飛ばしてイランの核施設を攻撃することも、もしかしたら可能になるかもしれない。

また今回、サウジアラビアは、カタールにムスリム同胞団への支援停止を求めたが、その際、”ハマス”のようなとハマスを名指しで指摘した。おそらくトランプ大統領の要請であったと思われるが、これはイスラエルに協力するかのような流れである。

これについては、カタールは、すでに国内のハマスメンバーを国外に追放している。

しかし、ハマスへの締め付けが厳しくなりすぎると、ハマスがイスラエルへの攻撃をしかけてくる可能性も出てくる。それが中東諸国の支持を得る最終手段だからである。

カタールがハマスを支援できなくなると、代わりにイランをガザ地区へ呼び込むことになる。実際、ハマスは、2人の主要指導者をエジプトとイランへ派遣している。

なお、エジプトへ行っているのは、新政治部門代表アヒヤ・シンワル。イランへは、イシュマエル・ハニエが向かっている。

www.timesofisrael.com/amid-pressure-for-qatar-to-cut-ties-hamas-delegation-to-visit-iran/

イスラエルは、昨今、ナイフでテロをしかけてくるパレスチナ人への対処で、厳しい処罰ではなく、パレスチナ支援というアメを使って、第三インティファーダに発展するところをうまく阻止したと言われている。これは、パレスチナ自治政府のハムダラ首相も認めた点である。

今度、ハマスに対してどういう対処をとるのか、アメとムチをどう使っていくのか、今まで以上に知恵が必要になっている。

*UNRWAが、学校地下にハマスの地下トンネルを発見

UNRWA(国連パレスチナ難民救済機構)が、1日、UNRWAがガザ地区で運営する男子小学校の地下からハマスの地下トンネル2本を発見したと伝えた。

ハマスのトンネルが、学校の下にあるのは今に始まったことではない。しかし、通常ハマスをかくまうといわれているUNRWAが、自らハマスのトンネルを摘発するのはめずらしい。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/UNRWA-discovers-Hamas-tunnel-under-Gaza-schools-496394

これを受けて、イスラエルのダノン国連代表は、安保理に「テロ組織ハマス、ガザの市民を巻き込んでいるということを調査すべきである。」と訴えた。

www.timesofisrael.com/israel-protests-hamas-tunnel-under-gaza-un-schools/

*ニッキー・ヘイリー米国連代表:ハマスのトンネルを視察

ニッキー・ヘイリー米国連代表は先週、ジュネーブでのUNHCR(人権保護委員会)での会議に出席し、この委員会でのイスラエルにのみ非難決議が極端に多いことを指摘。その後イスラエルを訪問した。

ヘイリー代表は、ネタニヤフ首相、リブリン大統領を公式訪問したほか、嘆きの壁、ヤドバシェムでは涙するところもみられた。またイスラエル南部のキブツ周辺で発見されたハマスのイスラエル侵入用の地下トンネルを視察。ガザ周辺住民にも会った。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4973377,00.html 

<追い詰められるISISとその反撃:モスル(イラク)、ラッカ(シリア)>

イラクとシリアでISIS掃討作戦が続けられ、いよいよその本拠地とされるモスル(イラク)、ラッカ(シリア)が陥落に近づき始めている。これにより、ISISの攻撃はヨーロッパや国外に広がりをみせている。

1)ラッカ(シリア)

アメリカが支持するシリア反政府勢力のSDF(シリア民主主義軍ーシリア人とクルド人勢力)が、ISISの首都と目されるラッカへの攻撃を開始した。ラッカには4000人のISIS戦闘員がいるとみられる。市民は20万人で、激しい戦闘で多数の犠牲者が出ると懸念されいる。

 http://www.bbc.com/news/world-middle-east-40234251

2)モスル(イラク)

イラクでISISに支配されていた最大の町モスルへ、アメリカの支援を受けたイラク軍と有志軍が進軍を開始してから8ヶ月。いまやモスルは孤立し、イラク軍も町の制覇へと近づいている。

今も1000人はいるとみられるISIS戦闘員は、住民を盾として使い、逃げようとする人々を銃殺するなど悲惨なことが続いている。

BBC6月8日の報道では、シファ地域から逃げようとしたイラク市民が少なくとも231人は殺害された。

その前の5月31日には50−80人、5月26日には27人、また同じシファ地域のペプシ工場付近では163人が殺害されたもようである。

3)ISISの反撃

ISISは海外にいるメンバーにテロを呼びかけている。イギリスではマンチェスターで22人が死亡、その後ロンドンでのテロでは8人が死亡した。

①テヘラン:政府議会堂とホメイニ霊廟でテロ:17人死亡

イランは、イラク・シリアに革命軍を派遣して、ISISはじめ反政府勢力と戦っている。これを受けてISISがなんとイランの首都テヘランのしかも政府議会堂とホメイニ霊廟でテロを実行した。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4973984,00.html

これにより17人が死亡。まもなくISISが犯行声明を出した。イランのザリフ外相は、このテロの背後にサウジアラビアとアメリカがいると非難したが、イランのハメネイ・イスラム最高指導者は、これを受け流す姿勢を示した。その後、イランからの目立った動きは伝えられていない。

www.bbc.com/news/world-middle-east-40198578

この動きについて、イランの中東を制覇しようとしていたもくろみが崩れ始めているのではないかとの分析もある。

イランは、今、予想に反してシリア内戦が継続していることで兵士を予想以上に失っている。さらにはロシアがシリアにシリアに居座るみこみで、ISIS打倒の後、イランが、この地域で、どの程度、影響力を維持できるかは不明。

また、アメリカのトランプ大統領が強力にサウジアラビアを支援し、中東に乗り込んできたことから、中東での主導権をイランが握る可能性はますます薄らいでいるとの見方もある。

②フィリピン:マラウィを奪回へ

ISISはアジアにもいる。フィリピン軍は、ISIS関連組織に支配されていた南部の町マラウィを奪回するべく、激しい戦闘を続けている。町の解放は今週月曜を目標としている。BBCによると、これまでに少なくとも戦闘員138人、市民20人が死亡した。

フィリピンとアメリカの関係はオバマ大統領の時は、冷え切っていたが、トランプ大統領になってからは、関係が回復に向かっているもようで、このマラウィでの ISISとの戦いには、アメリカの特殊部隊が支援しているという。

www.bbc.com/news/world-asia-40231605

トランプ大統領になってから、確かに世界の流れは変わってきているようである。しかし、それが世界を安定に向かわせるものなのか、逆に大戦争に向かわせるものなのか、まだそのどちらにもなりうる気配である。

しかし、各メディアが共通して言っていることは、「かつてアメリカが中東で権力を持っていた時代とよく似た形になりつつある」ということである。

いずれにしても、ISISが全世界でテロを扇動しているので、どこでテロが発生するかわからない。今、テロをどこかで計画しているものたちの目が開かれるようにとりなしを。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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