根深い反ユダヤ主義:ポーランドで極右行進“ユダヤ人に死を” 2021.11.18

People wave national flags of Poland during a march to mark Poland's National Independence Day on November 11, 2021 in Warsaw. (Photo by Adam Chelstowski / AFP)

ポーランドで10万人が「ユダヤ人に死を

先週11日のポーランドの独立記念日、極右の群衆約10万人が、ワルシャワから200キロほど南の都市、カリズで、1264年当時にポーランドの支配者ボレスワフ・ポポジュヌイが、ユダヤ人の権利を約束した書物“カリシュの法令”を焼き、「ユダヤ人に死を」と叫ぶでも行進を行なった。

この書物は、ポーランドでは特にユダヤ人と非ユダヤ人の関係の基礎と認識されてきたものだという。それを憎しみを込めて叩きつけ、火をつけて燃やし、興奮した声を挙げたということである。

その後、群衆は、手に松明をもち、ポーランド国旗を掲げて、「ユダヤ人に死を」「ポーリン(ヘブライ語でポーランド)ではない。ポーランドだ」と叫びながら、歩いたのであった。また、極右らしく、LGBT(同性愛者)や、シオニストを「ポーランドの敵だ」とも叫んでいた。

www.timesofisrael.com/death-to-jews-polish-nationalists-shout-while-burning-book-on-jewish-rights/

ポーランドのユダヤ人コミュニティは、かつて330万人にのぼったが、そのほとんどがホロコーストで殺害された。今は数千人のみとなっている。ポーランドのユダヤ人コミュニティはこの憎しみの行進を見て、これほどの侮辱と憎しみを経験したことはないと表明している。

*複雑なポーランドの歴史と極右勢力

ポーランドの地域は、スラブ民族、ゲルマン民族の大移動など、様々な民族が出入りしていたが、形をなしてポーランド公国となったのは10世紀になってからである。その後、ポーランド・リトアニア共和国となったが、その後何度も他国に分裂させられる歴史をたどる。

この中世の間に、常にではないが、ボレスワフ・ポポジュヌイに時代に始まり、西ヨーロッパで激しい反ユダヤ主義の中で、唯一ユダヤ人を保護する国であった時代もあった。このことから行き場を失ったユダヤ人たちが、ポーランドに集まるようになり、そのコミュニティ、文化も形成していったのであった。

主に極右勢力が、独立記念日として覚えられている11月11日は、第一次世界大戦後の1918年の独立回復の日である。

しかし、独立はこれが最後であったのではなく、この後もナチスと旧ソ連に分割され、国が一時消滅している。このナチスの時代に、ポーランドにいた330万人のユダヤ人のほとんどは、アウシュビッツなどで虐殺されたのであった。

第二次世界大戦戦後、1952年にポーランド人民共和国として独立したが、この時は、旧ソ連共産主義の共産主義の支配下に置かれた形であった。

今のポーランドになったのは、1989年の自由選挙で、非共産党政権となり、「独立自由管理労働組合・連帯」が、国をリードすることとなった。これが、今のポーランド共和国である。

このように、ポーランドの独立は経過の中で実現したものであるので、11月11日は独立記念日ではあるが、国よりも、極右勢力が特に熱心に記念する傾向にあるとのこと。

ポーランド政府とイスラエル政府がこのイベントを強く批判

このイベントの2日後13日、ポーランド政府とイスラエル政府は、これが反ユダヤ主義だとして、非難する声明を出した。ポーランドのデューダ大統領は、14日、このイベントを反ユダヤ的だと批判した。

イスラエルのラピード外相は、12日、ポーランド政府がこれを反ユダヤ主義と認めたことを歓迎し、さらに厳しい態度で、この恐ろしい憎しみの表現に取り組んでもらいたいと語った。

イスラエルとポーランドの外交は今、暗礁に乗り上げている。今年8月、ポーランドは、1989年以前(今のポーランドになる前)に搾取された財産を取り戻す権利はもはやないものとみなすとの法律を成立させた。これにより、ホロコースト時代に、ポーランド人に財産を搾取されたユダヤ人の財産もまた取り戻す権利を否定されるということとなった。

これを受けて、ラピード外相は、この法律を不道徳な反ユダヤ主義の骨頂だと激怒。ポーランドからイスラエルの大使を召還し、ポーランドもまた在イスラエル大使を召還したのであった。

ポーランドは、ホロコーストはナチスの犯罪であり、ポーランドではないとの主張を維持している。しかし、実際には、ポーランド人による搾取や、ポーランド人による裏切り、殺害は多々あったのであり、イスラエルはそれを主張し続けているのである。

実際、今回の独立記念日の恐ろしい様相をみれば、ポーランドには、奥深くにしみついた反ユダヤ主義があるということは明らかである。

石のひとりごと

ポーランドは、中世の時代、ユダヤ人を保護した唯一の国であった。ユダヤ人が集まり、ビジネスを形成し、文化を発展させていく中で、ポーランドは全盛期を迎えた時期もある。しかし、それだけに、ユダヤ人への憎しみも半端ないのかもしれない。

このユダヤ人への憎しみというものは、おそらくは潜在的で、日常には表には出てこない。独立記念日のこの恐ろしいイベントが終わったあとは、いつものポーランドに戻っているのだろう。

しかし、今回のイベントで、ボレスワフ・ポポジュヌイのユダヤ人保護の書物が焼き捨てられたことから、反ユダヤ主義が次のステージに入ったのではないかと懸念する分析もあった。今後より、恐ろしい暴力に発展していく可能性があるという。

実際、10万人という大人数が、これに賛同して、ともにマーチしたということは特記すべきことである。ポーランドにいるユダヤ人は、早いうちに、イスラエルに行った方がよいのかもしれない。

この反ユダヤ主義だが、昨年コロナがで始めたころの日本の特に地方での出来事を思わされた。ある地方の町で、第一号となるコロナ感染者が出た。すると、その地域住民は、その家に落書きしたり、嫌味を散々したため、その家は引っ越しを余儀なくされた。最初に感染者となった妻は、夫から離縁されたという。

ナチスの時代、ユダヤ人はあらゆる不幸の種であり、汚れた者と教えられ、人々もそれに合意した。この考え方は、ヨーロッパに、1世紀からすでにあったので、不自然なことではなかく、容易に受け入れられた。

こうして、ユダヤ人は、社会全体から、あたりまえのように、罪悪感なしに迫害されたのであった。

この日本のコロナに続く事件には、それと共通する部分がどこかあるような気がする。コロナを持ち込んだ人は、地域の迷惑なので、嫌味をぶつけても悪いとは思わないのである。

「人に迷惑をかけない」という、全体主義的な日本の文化思想が、これに拍車をかけてしまう可能性があるようにも思う。

聖書には次のように書いてある。いざというときに、間違った道に歩まないよう、日々主の側に立つ習慣をつけておきたいと思う。「幸いなことよ。悪者のはかりごとに歩まず、罪人の道に立たず、あざける者の座につかなかったその人。(詩篇1:1)」

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。