最高裁判長が司法制度改革案を厳しく批判:ネタニヤフ首相の反論 2023.1.14

Supreme Court President Esther Hayut (photo credit: MARC ISRAEL SELLEM)

最高裁判長が司法改革案を痛烈批判

昨年12月29日に発足した、イスラエル史上最も強硬な右派の第37ネタニヤフ政権。就任まもなく、レビン法務相が、司法制度の大胆な改革案「乗り越え条項」(司法が行政を監視・制止することができなくなる)を発表。

以来、イスラエル国内では、民主主義の根本が崩れるとの懸念が広がり、国が分裂するかのような激震となっている。これに対し、司法側からも厳しい反論が出ている。

1) 最高裁長官「この改革案は司法を破壊する」

12日、エステル・ハユート最高裁判長は、ハオファで行われたイスラエル公共法に関するカンファレンスでのスピーチの中で、「この司法制度に対する改革案は、まるで倒さなければならない敵を攻撃するかのような、あり得ないような攻撃だ。」と厳しい口調で反論を表明した。*改革案の内容は前記事を参照のこと。

ハユート最高裁判長は、「この劇的な改革案は、司法の独立性を奪い、国会に白紙の小切手を渡して、好き放題に動くことを許すものである。市民の基本的な人権すらリスクにさらされることになる。」とかなり厳しいことばを使って批判した。

これに対し、レビン法務相は、これまで司法が政治的に利用されてきたと反論。これはどういうことかというと、たとえば、右派勢力が出した法案を、司法という観点ではなく、左派的な観点から、最高裁がこれを却下することがあったということである。

最高裁はどちらかというと弱者視点になる傾向にあるため、右派的な政策が前に進みにくいということである。レビン法務相は、それを是正するのが、この改革案であって、ハユート氏は、論議すべき点を間違っていると反発した。

これに対し、ハユート氏は、「レビン法務相が言っていることは、たとえわずかでも多数派の意見が常に通るべきであるということである。確かにそれは、民主主義の基盤ではある。

しかし、民主主義というものは、単純な多数決以上の意味があるべきだ。多数派だからといって、何をしてもいいとうことにはならない。多数決による支配が、専制主義となってはならないのだ。」と宣言した。

ハユート氏はまた、「法務相が出したこの司法改革案は、司法制度を改革するものではなく、破壊するものだ。」と非常に厳しい言葉で批判した。

2)司法長官:検証のバランスに欠ける

マフラヴ・ミアラ司法長官は、政府の決定への検証のバランスが崩れることになると批判した。

www.timesofisrael.com/in-fiery-speech-hayut-says-judicial-shakeup-plan-fatal-blow-to-israeli-democracy/

ネタニヤフ首相と右派勢からの反論:野党ラピード氏が反論

最高裁判所のハユート裁判長からの厳しい反論に対し、ネタニヤフ首相は、まず「改革は、あらゆる方面から論議されるべきである。それが今起こっていることだ。まずはみなさん、落ち着いて、論議に加わるように。」と述べた。

ネタニヤフは、今回の改革案は、イスラエルの最初の50年間における民主主義と同じであると主張する。イスラエルの最初の50年間とは、ベングリオン首相の時代から戦争が次々にがつづいた1980年代までの時代をさしている。

戦争が続くような時代に、行政の決定が司法に覆されることが多いと、効果的な防衛ができなくなるということである。

1990年代以降、イスラエルでも戦争の時代が終わり、おちついてきて以降、司法の権限が強化されてきたということを言っているのである。したがって、今回の改正は、最初の50年間のような形にするものであり、行政が不均衡に強くなって、三権分立の原理が崩れることにはならないと述べた。

ネタニヤフ首相としては、世界が不安定になる中、政府の決定が司法に却下されることが多いと、イスラエルを効果的に守れないと言っているのである。

筆頭野党のラピード前首相は、ツイッターにて、「リクード(ネタニヤフ首相政党)を含め、国民のほとんどは、急速な改革に反対している。それは、あなた(ネタニヤフ首相)自身が弱いために、過激な右派勢力に押されてのことにすぎない。」と反論した。

www.timesofisrael.com/pm-defends-justice-reform-amendments-will-be-made-responsibly-everyone-calm-down/

*リクード支持者の55%が司法制度改革を支持

チャンネル12(主要テレビ局)が行った調査によると、リクード支持者の55%は、司法制度改革案を支持すると答えた。また続く42%も、急にではなくプロセスを踏みつつの改革は支持すると表明しており、改革に反対を表明したのはわずか17%であった。

しかし、この案が、イスラエルの民主主義を危機に陥れると懸念するかどうかについては、27%が懸念すると表明しており、司法制度になんらかの改革は必要だが、一気にかえてしまうことには、不安を持つ人が多いということである。

www.timesofisrael.com/most-likud-voters-back-judicial-reform-want-to-see-plan-fast-tracked-tv-poll/

ただ右傾化しているイスラエルの政府が、司法よりも強くなることが明らかになった場合、国際社会の中でのイスラエルへの信頼度が落ちるのではないかとの懸念も出はじめている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。