政権交代なるか?:ネタニヤフ首相と右派勢の危険な反発 2021.6.7

チェンジブロックの8党首 ラアム党からの写真

新政権候補・国会承認待ち

右派ヤミナ党ナフタリ・ベネット氏(49)を次期首相候補とする、いわゆる“チェンジ・ブロック(変化勢)”新政権候補は、今、国会での承認待ち状態にある。

ブロックの長、未来がある党のラピード氏(57)は、できるだけ早くに国会での承認を受けるために、先週、これを妨害するとみられるリクードのレビン国会議長の交代を試みた。

しかし、ブロックの内部のヤミナ議員オルバック氏がこれに同意しなかったため、この件に関しては、国会過半数にならず、失敗に終わった。

しかしその後、レビン国会議長は、早ければ、今週水曜にも国会での承認採択を行うのではないかとの見通しになっている。こうなるとあと数日しかない。

ネタニヤフ首相と熱心な右派勢は、この数日の間にブロックを崩そうと、ブロック内の右派議員から、さらなる離脱者を出そうとする動きを活発化させている。

懸念される右派の反発

注目されたのは、ソーシャルネット上の誹謗中傷で、「“チェンジ・ブロック”が政権を取ると、シオニズムが終わる。今、戦わなければならない。」などで、国内治安局シンベトのアルガマン長官が、こうした書き込みが、極右的な組織を煽って暴力に発展すると警鐘を鳴らした。

警告の背景には、かつてのイツハク・ラビン故首相を暗殺事件の悪夢があると思われる。1995年1月、テルアビブでラビン首相を暗殺したのは、ラビン首相が、パレスチナ自治政府(アラファト議長)と結んだ和平条約に反発した右派のユダヤ人青年であった。

今は、右派でありながら左派やアラブ政党とも手を組もうとする右派ヤミナ党議員、特にベネット氏が、自身も宗教シオニストでありながら、その信条と逆走するかのように、左派と組んで政権を取ろうとしていることへの反発が強い。裏切り者だと言われている。

警察は、ベネット氏、シャキード氏など、少なくともヤミナ党員7人、ニューホープ党サル氏などの身辺警護を強化しているという。

www.timesofisrael.com/shin-bet-head-in-rare-warning-stop-violent-discourse-now-someone-will-get-hurt/

また、このような時に限って、宗教シオニストのユースグループが、ダマスカス門を通過する形でのフラッグ(旗)マーチを今週6月10に行う計画が上がっている。

フラッグマーチは、エルサレム統一記念日を祝う時に、ユースたちがイスラエルの旗を振りかざしながら行うパレードである。本来5月10日に行うところであったが、ちょうどガザからのロケット攻撃の中で、キャンセルさせられていた。

しかし、実際には、完全なキャンセルではなく、比較的安全なルートに変えて、パレードは行なっていた。今回は、改めて、ダマスカス門を通る正規ルートで行いたいというのである。

これについては、選挙問題だけでなく、再びパレスチナ人との衝突に発展しかねないとして、ガンツ防衛相、またアメリカのバイデン大統領からも、中止させるよう、要請が入っているという。

www.timesofisrael.com/police-seek-to-reroute-right-wing-jerusalem-march-to-avoid-muslim-quarter/

ネタニヤフ首相声明:民主主義史上最大の選挙・不条理

ネタニヤフ首相は6日、「もしこの危険な左派連立政権が立ち上がるとすれば、イスラエル史上最大、また私自身の考えでは、民主主主義史上最大ともいえる、偽の結果ということになる。」と述べた。

最大議席数の政党(リクード)が野党となり、その党首は首相にならず、少数議席しかとっていない政党が与党となり、その最小議席数の政党党首が、首相になるという不条理を指摘しているということである。

暴力が懸念されていることについては、誹謗中傷、ましてや暴力があってはならないということは原則だと述べつつも、同時に、それらの声は、政治的な批判でもありうるので、左派がこれら全てを非難することは許されないとも語った。

ネタニヤフ首相は、左派の存在は、イスラエルの存在を危うくする、治安問題にかかわると指摘している。具体的には、イランとの水面下での戦いにおいて、ネタニヤフ首相ほど思い切った対策はとれなくなるという点。また、アメリカの圧力に負けて、西岸地区、また東エルサレムでの入植を凍結させるだろうとも述べた。

実際のところ、新しい政権がどんな政策であるのかは、まだ明らかにされていない。レビン国会議長は、この点を明白にしたいとして、まだ国会での承認をいつにするのかの発表には及んでいないわけである。

ネタニヤフ首相は、神のみこころなら、こんな政府はたちあがっても、我々がすぐにこき下ろすことになるだろうとの述べた。

www.timesofisrael.com/netanyahu-bemoans-incitement-condemns-emerging-dangerous-left-wing-coalition/

しかし、この後、ネタニヤフ首相は、右派政権を維持するためとして、自分がリクード党首の座からおり、首相からも降りるからとして、ベネット氏(ヤミナ)とサル氏(ニューホープ)にチェンジ・ブロックを離脱して、右派政党立ち上げに協力すするよう申し出たとの情報もある。

しかし、こんな申し出を信用する政治家はもういないだろう。ベネット氏もサル氏も直ちにこれを断ったとのことであった。

www.timesofisrael.com/new-hope-yamina-reject-idea-netanyahu-considering-stepping-down-its-a-trick/

ベネット氏:Let go イスラエルから手を引くべきである

6日、ラピード氏とベネット氏含め、8人からなるチェンジブロック党首たちは、連立政権候補として、初めて一堂に会した会議を行った。その後、時期首相候補であるナフタリ・ベネット氏は記者会見を行った。

ベネット氏は、イスラエルの政権は独裁ではないと強調。ネタニヤフ首相に対し、「イスラエルが前進している。行かせるべきである。国はネタニヤフ首相がいなくてもやっていける。」と訴えた。

また、ネタニヤフ首相が数々の功績を残していることを挙げ、引いた後に焼け跡を残すことで、それらの栄誉を潰してしまうことなく、美しく去っていく方が良いのではないかとも語った。

その上で、レビン国会議長に対し、「ネタニヤフ首相からの圧力があるかもしれないが、政権承認は、来週ではなく、今週水曜には実施してほしい。時期を遅らせることは、ネタニヤフ首相個人にとって得策であったとしても、国家にとっては得策ではない。」と訴えた。

憶測にしか過ぎないが、もし今週水曜に国会承認が実現すれば、右派シオニストが計画しているフラッグマーチより前に新政権が立ち上がることになる。

しかし、もし、来週に先延ばしになった場合、パレードが実施されて、またパレスチナ人との戦闘に入って、政権交代が難しくなる可能性もなきにしもあらずである。

こうしたチェンジブロック8党の動きと、ベネット氏の発言を受けて、ネタニヤフ首相は、聖書の民数記16章で、モーセに反発したレビの子らとその勢力が、すべて地に飲み込まれたことを引用する声明を出した。ベネット氏の引退と平和な引き継ぎへの呼びかけには、応じないということである。

www.timesofisrael.com/bennett-to-netanyahu-let-israel-go-dont-leave-scorched-earth/

石のひとりごと

チェンジ・ブロックの8党党首が集まっている写真の中の表情を見ると、皆とても明るく見える。主義主張は違うが、共にいることを喜んでいるようにも見える。

ネタニヤフ首相をやっと退陣させられるという目標に達成する思いなのだろうか。8人は、ネタニヤフ首相(71)に対して全員が40-50歳代の次世代の人々である。

しかし、右派に左派、アラブ政党まで入った連立政権はどんな政権になるのだろうか。ネタニヤフ首相が言うように、イランに対しても素早く、また思い切った対策がとれなくなるという懸念は大いに残る。

しかし、イスラエルは常に今まで通ったことのない道を通らされてきた国である。その新しい未知の旅の中で、また全能の主の支配が明らかにされてきたのである。イスラエルは2018年に、建国70年を迎え、新しい時代に入ったとも言われた。もしかしたら、今その前進の時なのかもしれないとも思わされる。

聖書によると、エジプトを出てきたイスラエル人たちは、40年たって(まっすぐ行けば11日で到達可能な距離)ようやく、約束の地に入るという新時代を迎えた。その時のイスラエル人たちにはわからなかったであろうが、ヨルダン川の向こう、約束の地では、これまでとは全く種類の違う敵と戦い、また地に定着していくという、新たなチャレンジに直面していくことになる。

この時、聖書の神、主はリーダーをモーセから、次世代の若いヨシュアに交代させたのであった。モーセが約束の地に入ることはなかったが、この時神がモーセに言ったのは、「あなたは約束の地に入れない。」ではなく、「あなたは約束の地に入らない。」であった。

確かにモーセにも失敗はあったが、それ以上に、モーセはもう十分やるべきことはやったとしての交代であったと思われる。これは決して不名誉なことではなかったということである。

イスラエルの歴史に12年も首相として国を愛し、国を導いたネタニヤフ首相の名前が消えることはないだろう。もし今がその時であるなら、よい形で、終わりになればとも思う。これからどうなっていくのかを注目していきたい。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。