ウクライナで過越し:エスカレートするウクライナ情勢の中で 2022.4.18

オデーサでの過越 スクリーンショット

ユダヤ人の過越の祭りが15日日没から始まり、4日目に入った。ウクライナのオデッサからも過越初日のセデルの様子が伝わっている。自身もユダヤ人であるゼレンスキー大統領は、15日、オンラインで、ウクライナと世界のユダヤ人コミュニティに過越の挨拶を送った。

しかし、地域によってはラビが、戦争で犠牲になった人の葬儀を行なってその足で過越のセデルに向かうといったケースもあったようである。

オデーサでの過越セデル

まだ大規模攻撃には至っていないオデーサでは、ハバッド派ラビ・アブラハム・ウオルフを中心に、初日の夕食(セデル)が行われた。今年は、夜間外出禁止に入る時間までに帰宅できるよう、通常よりも早く開始したとのこと。以下クリップ・セデルの様子は1:44ぐらいから。

ラビ・ウオルフによると、オデーサ在住のユダヤ人(3万5000人)の60%は、国外に避難していなくなっている。ユダヤ教にとって、集まるということは非常に重要なことなので、コミュニティの離散はラビにとってもつらいことのようである。こうした中での過越なので、ユダヤ人が一つになり、助け合うことの重要性を、特に実感する過越になったとのこと。

なお、23日までの過越期間中は、通常のパンではなく、マッツァと呼ばれる種無しパン(イーストなしのパン)が必要になる。ラビ・ウオルフの妻レベツインさんによると、オデーサのシナゴーグでは、マッツァ12トンをハヌカ(12月)に、イスラエルから取り寄せていた。しかし、その後オデッサ港で差し止められたため、政府に交渉してようやく、マッツァを受け取ったという。

その他に必要なもの(ワイン、葡萄ジュースや、苦菜、りんご、蜂蜜、卵・・)などは、戦時下にあって全く不足し、果たして足りるのかどうかわからなかったが、ヨーロッパからの献金で準備され、ぎりぎりになって運ばれてくるものもあったという。

セデルに出席できる人は少ないため、ハバッド派では、これらをセットで箱詰めにして各地にも配布する。

日本の神戸のシナゴーグでも、この過越セットが、全国各地のユダヤ人家族に送られていた。神戸でのセデルには、日本在住のユダヤ人とその家族や、この日だけに来ていた日本人など、100人ぐらいはいたのではないかと思う。ちょうど上記オデーサのシナゴーグの様子とよく似ていた。(安息日なので撮影不可)

イスラエルでのウクライナ避難民のセデル

15日、イスラエルでは、移住省がホストとなり、ウクライナからの新移民約4000のためのセデルを、40ヶ所で行った。タマノ移住相によると、ウクライナでの戦争が始まって以来、ウクライナとロシアやその周辺国からの移住も含めると1万4000人がイスラエルでの新しい生活を始めたとのこと。彼らにとっては、今年は個人的な出エジプトになったと、タマノ移住相は語っている。

まだイスラエルには到着していないが、その時を待つユダヤ人はポーランドなど周辺諸国にいる。Times of Israelは、ポーランドで、ユダヤ機関が100人の避難民にセデルを行っている様子を伝えている。

www.timesofisrael.com/zelensky-hopes-for-defeat-of-evil-as-jewish-ukrainian-refugees-mark-passover/

ウクライナ情勢まとめ:4月18日

www3.nhk.or.jp/news/special/ukraine/%5B/caption%5D

ウクライナでは、先週、ロシア軍がキーフから撤退し、戦線は東南部に集中する様相となった。

キーフ周辺では、恐ろしい虐殺行為が明るみになり、国際刑事裁判所などが、戦争犯罪としてロシアを裁けるかどうか、その準備が始まっている。

キーフでは、国外へ避難していたウクライナ人が戻る傾向にある。

こうした中、14日、ウクライナ軍によって、ロシアの黒海艦隊旗艦モスクワ(乗組員510人)が攻撃され、後に沈没した。これにより、ロシア軍は、容易に海からウクライナに近づくことができなくなり、オデーサへの海からの上陸作戦は、延期せざるをえない状況になったとみられている。

また、モスクワという首都の名前であるだけでなく、海軍の先陣を切っていた船でもあった。いわば太平洋戦争中に撃沈された戦艦大和のような存在かもしれない。これが沈没したことのロシア軍の士気への影響は小さくないとみられる。

この直後、ロシア軍は、キーフへの攻撃を再開。東南部での攻撃もより激しくなっており、ハリコフの知事は、住民に急ぎ非難を呼びかけている。また特にマリウポリでは、いよいよ制圧に向けた攻撃が激しさをましており、17日、ロシア軍は、マリウポリ市内の製鉄所に立てこもっているとみられるウクライナ軍兵士数千人(アゾフ部隊)に投降を呼びかけた。

しかし、ウクライナ側はこれを拒否し、アゾフ部隊は、徹底抗戦すると表明した。ロシア軍は、戦いをやめないなら、絶滅させると言っている。マリウポリ市長によると、住民4万人がこれまでにロシアへ連れて行かれたが、まだ10万人近い人々が市内にいるとみられる。

これまでの死者は、わかっているだけで、1982人(うち子供162人)。ここのマリウポリの市長が言う、市内の犠牲者2万人以上という数字は含まれていない。国外退避者は、486万人強。

*プーチン大統領が言う「ウクライナ非ナチ化」の背後にある不気味な決意

停戦への動向が全く見えない中、5月9日のロシア戦勝記念日(ナチス・ドイツに対してソ連が勝利し、ベルリンを解放した)に、何らかの節目が出てくるのではないかと言われている。

かつて今のロシアである旧ソ連は、第二次世界大戦中、1941年から1944年にかけて、ナチスの激しい攻撃を受けた。スターリングラードや、モスクワも包囲、攻撃され、2600万人以上(ロシア情報)が死亡したとされる。ロシアにとっては西側を恐れなければならない、非常に大きな理由である。

その背景の中で、兄弟であるはずのウクライナが、西側NATOに加盟するという。これは、再び西側勢力がナチスのように、ロシアに接近してくることプーチン大統領は訴え、この動きを推し進めているゼレンスキー大統領とその政権をナチだと言っているのである。本当にそう思っているのか、それを理由にしているだけかは不明だが。

いずれにしても、国家最大の危機をもたらした“ナチ政権”との戦いなので、宣伝の仕方によっては国民の支持が得やすいと考えられる。ますます、ロシアが停戦へ一歩も譲らないことが懸念されている。

石のひとりごと:ユダヤ人に見る健全なコミュニティ思想

ウクライナ情勢は、かなり厳しい。先が見えない中で、気力を保つだけでも大変だ。こうなると、まさにおひとりさまでは生きていけないということは明らかである。

ユダヤ人は、一人では生きていけないことを知っている人々だと思う。だから、集まること、互いに協力し合うことを心得ている。個人的に知らない人でも、同じユダヤ人という視点で助け合っている。

それでいて、個人が全体のために犠牲になるということもない。違っているそれぞれが、それぞれの持っている力を社会に提供し、補い合うことが社会だと思っている。だからおひとりさまやひここもりもほとんど聞いたことがない。

とはいえ、社会のために、他者への遠慮で苦しむとか、逆に自己主張ばかりする人もない。また、社会は人のためにあるのであって、社会のために人を犠牲にすることもない。だから、イスラエルは国の尊厳がたとえ汚されたとしても、まずは、人の命を優先している。国民はそれをよく理解している。

今回も、皆で危機を乗り越えようということで、おそらく、ユダヤ人同士の団結は強化されたのではないかと思う。改めて、多くの苦難を乗り越えてきたユダヤ人の強さを思わされた。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。