建国75周年の悲しみ:国のために犠牲になった命を思う 2023.5.2

Kobi Gideon (GPO)

イスラエルが建国し、生きのびてきた背景には、大きすぎる犠牲があったことも忘れてはならない。イスラエルでは、独立記念日の前日を戦没者記念日とし、これまでの戦争や紛争で国のために亡くなった兵士たち、またテロの犠牲になった人々を覚えてから独立を祝っている。

またその前には、ホロコーストで、ヨーロッパにいたユダヤ人の3分の2が虐殺されたことも覚え、イスラエルという国の存在の意義とこれからも国を共に守っていくことを確認する時としている。ユダヤ人であるというだけで、世界からは憎まれることがあるということを忘れてはならないと確認する時である。

この日を前に、司法制度改革問題で政府に反発するデモが、式典周辺で行われたり、政治化に対する暴力も懸念されたが、両陣営ともに、この時期は問題を棚上げすることで合意したようであった。

戦没者記念日:登録人数・昨年から145人増

ホロコースト記念日の1週間後の25日は戦没者記念日であった。この日は、イスラエルの独立から存続の中で戦死したすべてのイスラエル軍兵士たちに国をあげて敬意を払う時となる。加えて、テロの犠牲となった人々を覚える日でもある。テロの犠牲ということは、イスラエル人であったがゆえに殺されたということだからである。

昨年の戦没者記念日から1年の間に、59人が戦闘で死亡。歴代戦争での負傷兵86人が死亡し、今年戦没者として数えられた人は2万4213人(1860年から数える)。テロの犠牲者は、4255人であった。

24日の日没と、25日の午前11時にそれぞれ2分のサイレンが全国で鳴り、人々は、立ち止まって敬意を払った。

24日夜は、嘆きの壁でヘルツォグ大統領、ギャラント防衛相、ハレヴィ参謀総長が出席しての式典が行われた。後で述べるが、この直前にエルサレムでは、オープン市場のマハネイ・ヤフダで車が群衆に突っ込むテロがあり、5人が負傷するという皮肉なこととなった。

しかし、式典は予定通りに開催され、多くの戦死者家族、テロ犠牲者家族が出席する中、ギャラント防衛相が、声をかけているのをみかけた。式典に入れない一般人は、嘆きの壁周辺の階段や建物の上からこの様子を見守っていた。

50:48から、イスラエル軍祈りの歌担当、シャイ・アブラムソン少佐。悲しみを共有するイベントの最後は、たいがいこの歌で終わる。この人以上の人はいないとされる。

また全国には43ヶ所ある戦没者墓地と、独立戦争以来、激戦地であったエルサレムを南から見るプロムナードでも戦没者記念のイベントが行われた。

また、クネセット(国会)でも記念式典が行われ、ネタニヤフ首相と、最近のテロで妻と2人の娘を失った、レオン・ディーさんも出席。深すぎる悲しみを共有する時となった。

25日はヘルツェルの丘で、ネタニヤフ首相が出席する式典が行われた。ヘルツェルの丘には、戦没者の墓があるので、家族友人、また親族が誰もいなくても、敬意を払うためにこの場所へ来る人もいる。

式典はマイクで丘全体に流れされ、イベントそのものに出席できなくても、皆がサイレンで立ち止まり、ネタニヤフ首相のメッセージ、チーフラビの祈り、祈りの歌を聞くことができた。兵士たちはサイレンの間、また国家を歌う間敬礼をしている人も多かった。

どのイベントもそうだが、今は特に分裂の危機にあるイスラエルである。政治家たちはみな、一致を呼びかけ、最後は、「アム・イスラエル・ハイ(イスラエルの民は生きている)」で終わる。

ヘルツェルの丘への入り口では、無料で花が配布され、墓跡の上に置いていけるようになっていた。筆者にも花をくれたので、20歳青年の墓跡に置かせてもらった。墓石の年齢は、ほとんどが19歳から20代前半である。日本と違い、遺体はそのまま埋めるので、墓石はほぞ長い。家族みんなで取り囲んでしばし過ごして帰っていく。

高齢者に若い人たちが話を聞く様子。ユースグループが教育目的で来ている様子などもみうけられた。

戦没者記念日直前のテロ:イスラエル人5人負傷

イスラエルで、戦没者記念日が始まろうとする24日午後3時ごろ、エルサレムのオープンマーケット、マハネイヤフダ入口の交差点で、車による突っ込みテロが発生した。

このテロにより、最終的に7人が負傷。60代男性1人が重傷、30代女性1人が中等度、3人が軽傷と伝えられている。

テロリストは、現場にいた市民の銃撃を受け、その場で死亡した。東エルサレム在住で、5人の子供の父親カテム・ナギア(39)だった。前科はないが、精神的な課題があったと伝えられている。

場所は文字通り、市民たちが毎日でも通るような交差点である。当初は、車に撥ねられボンネット上に倒れた男性の映像が出回ったが、あまりにもショッキングであるためか、今はネット上は削除されている。こんなところで、こんな事件が発生しうるということがなんとも恐ろしいことである。

また、事件は、戦没者とテロ被害者を覚える日に入る直前のことである。ネタニヤフ首相は、「イスラエルはこれからも厳しい現実に向き合うという事だ。」と語った。

www.timesofisrael.com/five-wounded-in-suspected-car-ramming-attack-near-busy-jerusalem-market/

先週19日も銃撃テロ:イスラエル人2人負傷

エルサレムでは、先週19日にも東エルサレムのシーカー・ジャラで、車の中に向けて銃撃テロがあり、イスラエル人男性2人が負傷した。

テロリストは、24時間後にジェニンへの捜査で逮捕されたが、15歳のパレスチナ人だった。犯行の後、普通に学校に行っていたという。

www.timesofisrael.com/two-men-hurt-in-suspected-terror-shooting-in-east-jerusalems-sheikh-jarrah/

イスラエルでは、今年に入ってからだけで、市民19人が死亡、パレスチナ人はイスラエル治安部隊との衝突で、少なくとも92人が死亡している。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。