平和な過越:2017 2017.4.14

イスラエルでは10日夜、今年も過越がはじまった。聖書に記されたユダヤ人の出エジプトを記念する例祭で、最初の夜は、セデルと呼ばれる特別な食事を家族や友人たちを招いて囲む。

聖書の神を信じる人はもちろん、信じない無神論者もこの日はセデルを祝う。

無神論者がいったいどのように出エジプトを祝うのかは謎だが、日本でいうならお正月のようなもので、いわば文化、習慣でやっている人もいるということである。

宗教的なエルサレムに対し、世俗を自慢するテルアビブ市も、公のセデルを行った。テルアビブでは、例祭期間中、様々な楽しいイベントが計画されており、4月27日のビーチ開きの日まで続く。

www.timesofisrael.com/no-plagues-here-10-ways-to-celebrate-passover-all-week-long/

イスラエル周辺諸国では、恐ろしい事件が起こっているが、イスラエル国内では、ユダヤ人がユダヤ人の服装で、実に平和に、静かに、シナゴーグへ行き、家族でセデルを祝い、子供達の笑い声、大人たちの歌う声が、家々から響いている。

まさに、10の災いの一つ、暗闇の中でイスラエル人のところだけは光があったという聖書の記載に近いものがある。

なお、イスラエルでは、過越の初日と最後の日が、国の祝日となり、店も交通機関もシャットアウトする。その間の中日5日は、安息日以外でも多くの店が閉まっており、スローペースで街が動く。学校、官公庁や、大手の会社では、丸1週間の休みになっている。

中日にあたる今日、13日は、嘆きの壁を埋め尽くして、「祭司の祈り」が行われた。Yネットによると、参加者は8万人。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4948952,00.html

また、13日には、ユダヤ教ラビなど15000人がエルサレムのアリーナに大集合し、大きなカンファレンスも行われた。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/228117

<今年も海外旅行>

過越は、イスラエル人が一斉に海外旅行に出かける時期である。

過越は、ユダヤ人がエジプトから約束の地へむかったことを記念するのだが、現代イスラエル人は、長期休暇を利用して、逆に約束の地を出ていくのである。最大人気の渡航先は、近場のトルコ。

Yネットによると、今年はシェケルが強いこともあり、昨年よりも18%多い7万7000人が、9日1日だけで、ベングリオン空港から海外旅行に出かけた。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4947219,00.html

毎年のことだが、よりにもよって、シナイ半島(エジプト)へ行楽に、出エジプトと逆行するイスラエル人が今年もいる。Times of Israelによると、1万人とみられている。

www.timesofisrael.com/citing-concrete-information-of-threat-minister-urges-israelis-to-bolt-sinai/

今年は、過越直前の9日、エジプトのタンタとアレキサンドリアで、パームサンデーの礼拝を祝うコプト教会が自爆テロの被害に遭い、45人以上が死亡した。

これを受けてイスラエル政府は、シナイ半島にいるイスラエル人の急遽、帰国するよう命じ、まもなく、国境の出入りを閉鎖した。

この直後、イスラエル南部の畑地にロケット弾が着弾。負傷者等、人間への被害はなかったが、犯行声明はシナイ半島にいるともられるISISが出した。このように、シナイ半島は、現在、エジプトがISIS撃滅に追われている危険きわまりない地域でる。

にもかかわらず、また政府の帰国目入れにもかかわらず、シナイ半島に行っていたイスラエル人たちは、子供連れであっても、多くは帰国していない。それどころか、国境が閉鎖された後は、ヨルダン経由でシナイ半島に向かった家族連れもいるという。

*エジプトのコプト教会は復活祭の祝いを断念

パームサンデーで多くの信者を殺害されたコプト教会は、さすがに今週の復活祭は祝いをしないことになっているという。エジプトが現在、3ヶ月の国家非常事態宣言が出されたばかり。しかし、実際には、政府は何もしないということの裏返しでもある。

<家族連れは行楽へ>

海外旅行に行かない家族連れは、いっせいにマサダやエンゲディなど、国立公園や自然保護区へ行楽に出ている。天気は若干どんよりだが、非常に過ごしやすい春の気候となっている。野には花も咲き乱れ、緑豊かな最も美しい季節である。

エルサレムでは、旧市街やダビデの町で、無料のツアーを出したり、子供向けのイベントを開催するなどして、賑わっている。

エルサレム旧市街では、数十メートルおきに治安部隊がいる他、要所にはパトカーが駐屯。パトロールする警察官や国境警備隊が、怪しいとみられる車両を止めて、トランク内部を検査したり、アラブ人男性を取り調べる様子も目にした。こうした警戒には、男性だけでなく、女性兵士も多くみられる。

こうした警戒態勢の強化もあいまって、多くのイスラエル人がヘブロンのマクペラの洞窟はじめ、ゲリジム山など西岸地区へも出かけている。

しかし、残念ながら今年も事故も相次いでいる。南部ネゲブ38号線では、30歳の女性と、26歳の男性の運転する車が衝突。二人とも死亡した。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/228062

また死海近郊のユダ荒野では、40歳代の男性がハイキング中に死亡。ガリラヤ湖では、早朝にビーチマットに乗って浮かんでいた3人(19歳、21歳、17歳)が、突然の強風にあおられて行方不明になっている。捜索が続けられているがまだみつかっていない。

ガリラヤ湖ではこうした事故が発生するため、早朝ライフガードのいない時間に泳がないよう、指示がだされていた。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4948706,00.html

なお、過越の例祭は、4月17日日没までだが、12日夜より雨が降っており、南部では13日、鉄砲水になった。

<西エルサレム市内より(エッセイ風)>

エルサレムでは旧市街は、観光客で混み合っているのだが、西エルサレム市内や道路、特に昼間は、明らかにいつもより空いている。若い家族連れは、海外や行楽に行っているのか、バスには、お年寄りが目立つ。

今年の過越は、どんよりした空模様に、どんよりした気温で、いわゆる「ゆるい」空気が町中にひろがっている。

例祭で、バスはいつもより少ないダイヤで走っている。今日、買い物に行ったら、帰りのバスは40分も待たされた。こういう場合、たいてい同じ番号のバスが2つ一緒に来たりする。

バス停には、10人ほどの小柄なお年寄りたちが、それぞれ大きなショッピング用のローラーバッグや荷物を持ってバスをまっていたが、しびれを切らしている人もすくなくなかった。タクシーに乗ろうとしたお婆さんは運転手と交渉していたが、高かったのか、あきらめて戻って来た。

だいぶ待って、ようやくバスが来ると、お年寄りたちは、わらわらとバスに殺到した。われ先に乗るのだが、前がもたもたしていると、「はよ乗らんかい。」と大声でどなっている90歳くらいのおじいさんがいた。

このおじいさんは運転手にもぼやいていた。運転手も負けてはいない。バス停で止まらないという逆襲に出た。いっせいに「おーおー。止まらんか」と客が声を上げると、運転手は、「だれも停止ベルを押さなかっただろー」と怒鳴り返す。

これも過越期間中、エルサレムの一コマである。こんなやりとりがあっても誰も気にしない。空気も悪くならない。こんな素のイスラエル社会が、なんともここちよいと思う今日このごろである。。。。

ともあれ、イスラエルは今年も平和な過越を楽しんでいる。

<貧困とチャリティ>

お正月同様、この時期は貧しい人やひとりぼっちの人、独居の高齢者は、いつもにまして寂しい時期になる。施しがミツバ(善行)に数えられているイスラエルでは、この時期、各種団体が競うようにしてフードバスケットやクーポンを貧しい家庭に配布する。

少し前に、プリムで献金を募ったばかりなのだが、またまた献金の時期である。先日、郵便局に、光熱費の支払いに行ったら、郵便局までが、献金を募っていた。

窓口に、過越用のおもちゃの箱がおいてあって、用事をすませたあと職員が、「病気の子供たちにこのペサハのおもちゃを配布しています。協力した人には特別切手シートさしあげます。」と言う。その額、約1500円。

この時期、なんとも断りきれず、郵便局のチャリティに参加してしまったが、もらった切手シートはなかなかかわいいものだった。

なお、国家統計局によると、今年、イスラエル人の170万人(人口の20%)が貧困と数えられている。具体的には、46万800家庭、子供は76万4200人が貧困である。ただし・・・だが、この数字には、若干、課題もあるようでもある。

筆者の友人夫妻は、「僕たちは収入からすると貧困の枠にはいっているけど、子供がないので、生活に困ったことはない。」と、このニュースに登場する”貧困”の数字には課題もあるのではと指摘していた。

しかし、貧しい人々が多いことには変わりはない。Yネットによると、イスラエル政府は、今年の過越から、年間を通じて食物を支援する家庭の枠を50%広げると発表した。

www.jpost.com/Israel-News/Welfare-organizations-pick-up-mantle-to-help-needy-on-Passover-486615

具体的には、支援家庭を5000家庭増やすということだが、すでにある政府の福祉や、ユダヤ教関係の福祉団体と合わせて、支援額は、年間合計6000万シェケル(18億円程度)になるという。

新案では、毎月500シェケル分の食物を購入するためのプリペイドカードが配布されるとのことだが、これについては、賛否両論もある。

現在の食物支援では、ニーズにあっていなかったり、好みでないものが来たりするので、プリペイドカードの方が受給者としてはありがたいのだが、プリペイドにすると、健康的でないものやワインなどを買ってしまうかもしれない。なかなか難しい問題だ。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

コメントを残す

*