孤独なコロナ患者とこころのケア 2020.7.25

ハダッサ・ヘブライ大学病院の患者訪問ボランティア:左から2番目がモシェ・タウバーさん 出展:ハダッサ・ヘブライ大学病院

孤独なコロナ患者に回復者ボランティアを派遣

コロナの残酷性は、その病状だけでなく、救急車に乗るときが、家族との最後の別れとなる点にある。イスラエルは世界で唯一、死にゆくコロナ患者のベッドサイドに、万全の感染対策をとって家族を入らせる国かもしれない* 常にではない

また、前の波の際には、IFCJ(International Fellowship of Christians and Jews)が、850人のボランティアに、新たな800人も加わって、孤独な1万5000人の高齢者に電話するという働きをしていた。

www.jpost.com/israel-news/coronavirus-ifcj-rallies-reaches-to-help-israels-isolated-elderly-625442

さらに、今回は、感染してから回復した経験を持ち、抗体を持つと考えられる人を、コロナ病棟にいる患者に寄り添うボランティアとして派遣するプログラムを、エルサレムのハダッサ・ヘブライ大学病院が始めた。

モシェ・タウバーさん(22)は、3ヶ月前にコロナに感染し、回復した、ユダヤ教超正統派の神学校生徒である。今は1週間うちの数日は病院に行って、数時間、コロナの患者たちと過ごすというボランティアを行っている。

タウバーさんによると、ボランティアは、患者にお茶を入れて、そばに座り、話を聞くのだという。また、家族との連絡を取るスマホの扱いに不慣れな高齢者の手伝いもする。

こうしたボランティアは、現在25人いるが、このうち、20人が超正統派だという。当初、超正統派の間で、特に感染が拡大したので、この人々の間に、回復者も多いということである。

タウバーさんは、また抗体を含む血漿が治療に有効な場合があるため、献血も行っているとのこと。

www.timesofisrael.com/potentially-virus-proof-israelis-deployed-to-covid-wards-to-relive-loneliness/

しかし、新型コロナの抗体については、その有効性や、どのぐらい持つのかもまだまだ未知である。ある医師は、回復して3ヶ月後にまた感染したとの報告している。こうした中、コロナ患者のそばに出向いていくボランティアも勇気のいる働きといえる。

窓から母を看取るパレスチナ人青年

西岸地区でもコロナの感染が拡大している。このため、パレスチナ自治政府においても、家族が病院に搬送されると、感染予防のため、そのまま家族にも会えなくなっている。

感染が最も拡大しているヘブロン地域で、白血病を患っているラズマ・サラマさん(73)もコロナに感染し、病院に搬入された。以来、息子のジハード・アル・スワイティさん(30)は、ラズマさんに会うことができなくなった。

このため、ジハードさんは、毎日、病院の2階まで壁をよじ登り、窓からサラマさんを見舞った。7月16日にサラマさんが死亡した際も、窓から、サラマさんの最後を見守ったとのこと。

コロナが教えていることは、地球のどこにいても、どんなに文化が違っても、みな同じようにマスクをしている様子にいまだに不思議な感動を覚える。家族との別れの悲しみは、どこにいても、何人であっても、人間ならみな同じなのである。

japan.techinsight.jp/2020/07/ac07222211.html/2?yclid=YJAD.1595655679.LDG5whOdcq2sVLAHIjmXScLqcZsZzW5CfwwQ11aWj5RBUGrPOyNWyt9UbjsnN8HzNuGlf05_3HpD1qY-

コロナで自殺は増えるか

イスラエルは通常、自殺者が少なく、人口900万人以上いる中で、年間自殺者は、300−400人程度だという。しかし、コロナ危機以来、外出自粛、経済危機(失業率20%以上)が長引いていることから、自殺者が増えると懸念されている。

イスラエルで、心理的救急を担当する組織、EARNによると、自殺関連の電話相談は、昨年の3月から7月までに1850件であったものが、今年の同時期には、3460件と急増していた。

ミカエルさんは、5月に娘が、働いていた洋服店を解雇されたことを苦に自殺を試みたという。幸い助かったものの、意識のない娘を発見した経験は人生で最悪の経験だったと語っている。このように、コロナの影響で、人生が大きくかわってしまったことで、自殺する人が増えることは十分考えられることである。

一方で、もともと自殺傾向にあった人については、逆に自殺をとどまる可能性があるという説もある。社会全体が、人にあうことを自粛するので、前からその傾向にあった人がそのままで受け入れられるという状況になっているからである。また、コロナで、死が実質的に身近になってくることで、逆に生きる方へ気持ちが変わる人もいるとのことである。

全国精神科コロナ患者専門病棟設置:シェバ医療センター精神科マーク・ウェイサー教授

イスラエル全国の精神病院には、3500人の患者がいるという。精神病院の場合、病棟が閉鎖されている上、パーソナルディスタンスも維持しにくいことから、病棟内にコロナに感染している人が出た場合、あっという感染が全病棟、職員に広がってしまう。実際、中国や韓国で、そういうケースが報告されているという。

このため、コロナ治療の最先端に位置するイスラエルで最大の総合病院、シェバ医療センターでは、全国の精神病院と連絡を取り、コロナに感染した精神病患者をすべて、この病院に集約することにした。

これを担当するマーク・ウェイサー教授によると、この方策により、今の所、全国の精神病棟でコロナの感染者は発生していないとのこと。

www.ynetnews.com/magazine/article/B1MDtgvlv

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。