基本法で制定へ:イスラエルはユダヤ人の国 2018.7.20

19日、数年前から物議となっていた”Nation State Law”ー 基本法(日本の憲法に匹敵)にイスラエルはユダヤ人の国と明記する法案が、国会での審議3回目を通過し、基本法として制定されることが決まった。

これにより、イスラエルは、首都を統一されたエルサレムとするユダヤ人の国と基本法に明記されることになった。公用語はヘブライ語となり、アラビア語は公用語から格下げの公用語になる。さらに、ユダヤ人が居住する入植地が国に所属するとみなされる。

しかし、イスラエル総人口の20%、10人に2人はアラブ系市民である。この法案については、アラブ系市民は二級市民になるとして反発。ユダヤ系市民の間でも、イスラエルの民主主義に矛盾するのではないかとの意見も多く、論議になっていた。

イスラエルは、建国以来、ユダヤ人の国であると同時に、民主主義の国であるという2点を同等の位置付けで歩んできた。

イスラエルがユダヤ人の国であることは明白なので、それをあえて基本法に明記しないことで、民主主義を尊重し、アラブ系住民との衝突も避けてきたといえる。

今回の法案が出たとき、「あえて文字にして論争を引き起こす必要があるのか。」との意見もあった。アラブ系市民との友好関係を推進しているリブリン大統領は、文字にする必要はないとの立場をとっていた。

しかし、物議をかもしながらも法案は、国会審議を2回通過。昨日の最終論議は紛糾し、8時間に及んだが、結果的に賛成62、反対55で、可決されたのである。

今回の決定は基本法、日本でいうなら憲法を改正するということである。今後、これを基準に様々な法律が制定される。今後、実際にどのような影響が出てくるかは、時間とともに明らかになってくると思われる。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5312792,00.html

この基本法制定により、建国70年で、エルサレムを首都とするユダヤ人の国イスラエルの帰還が正式に完了したといえる。シオニズムにとって歴史的なできごとであると同時に、聖書のいう終末時代に向けたひとつのしるしでもあると思われる。

<パレスチナ人の反応>

パレスチナ自治政府は、「イスラエルの国家法は、パレスチナ人の土地、権利、アイデンティティ、言語に対する宣戦布告である。この法律は、イスラエルは、パレスチナ問題を平和的に解決しようとする2国家共存案を拒否すると世界に発信しているのだ。」と述べた。

ハマスも、イスラエルは人種差別を公式にしたと強く批判した。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Palestinians-slam-nation-state-law-as-racism-apartheid-562961

<EUとトルコの反発>

このイスラエルの動きに対する海外の反応は、批判的である。特に問題視されているのは、エルサレムを南北統一されたユダヤ人の国イスラエルの首都と明記している点。ユダヤ人が住む入植地を国の一部とみなす点などである。

EUのモルゲニ外務長官は、2国家分離案を妨害するものとしてこの国家法案に反対すると発表した。

トルコは、エルドアン大統領は、イスラエルは人種差別国家を作ろうとしていると批判し、国際社会に反対するよう呼びかけた。エルドアン大統領は、この法律はイスラエルのパレスチナアラブ人の権利を無視していると批判した。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5313189,00.html

*基本法に記載される項目:石堂による翻訳(正式にあらず)

本文:https://www.timesofisrael.com/final-text-of-jewish-nation-state-bill-set-to-become-law/

1)基本条項

①イスラエルの地は、歴史的なユダヤ人の祖国である。国家イスラエルは、その地に設立されたている。
②国家イスラエルは、ユダヤ人の祖国であり、その自然、文化、宗教、自己決定権が歴史的にも実践されてきた国である。
③国家イスラエルの決定権はユダヤ人に帰すものである。

2)国の象徴

①国家の名前は”イスラエル”
②国旗は、白地にふちに青のストライプ、中央にダビデの星
③国家の紋章は、7枝のメノラーとその両サイドにオリーブの葉、その下に”イスラエル”と記す
④国歌は”ハティクバ”
⑤象徴の詳細は法律で定める

3)国家の首都

統一されたエルサレムをイスラエルの首都とする

4)言語

①公式言語はヘブライ語
②アラビア語は国家において特別の地位を維持する。
公的機関でのアラビア語の使用については法律で定めることとする。
③この法律が適応される前のアラビア語の地位が害されることはない。

5)散らされた者の帰還

国家は、ユダヤ移民と散らされた者の帰還を受け入れる

6)ユダヤ人の連携

①国家は、ユダヤ人であることやその市民であるという事実のために、囚われるなどの困難にあるユダヤ人の安全保護のために働く
②国家は、ディアスポラにあるユダヤ人たちが、ユダヤ人の文化、歴史、宗教的遺産を維持できるよう働く

7)ユダヤ人入植地

国家はユダヤ人の入植活動を国家的な位置づけで判断し、入植と定着を奨励するものとする。

8)公式カレンダー

ヘブル式カレンダー(月暦)を公式カレンダーとし、並行してグレゴリー暦を公式カレンダーとして示諭する。

9)独立記念日と戦没者記念日

①独立記念日は、国の祭日とする。
②国の記念日は、戦没者記念日、ホロコースト記念日

10)安息日

安息日とイスラエルの例祭は、国家の休息日とする。ユダヤ人でない人々は、彼らの安息日や例祭を維持する権利を持つ
詳細は法律で定める。ユダヤ人以外もそれぞれの安息日や祝日を維持できる

11)改正

国会で別の基本法が適応されない限り、基本法の改正はないものとする。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。