地上戦1日目 イスラエル兵1死亡 2014.7.19

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4545757,00.html

17日午後10:30に、ガザ北部から入ったイスラエルの地上軍(戦車と歩兵)だが、これまでに地下トンネル21本を発見、破壊した。
これに伴う銃撃戦で死亡したパレスチナ人は少なくとも38人。逮捕された武装兵は15人。

イスラエル側では、この日の戦闘で、イスラエル兵エイタン・バラクさん(20)が死亡。5人が負傷した。バラクさんの死亡については友軍による誤射の可能性があり、調査が行われている。   

地上軍と同時に空爆も継続して行っている。イスラエル軍によると、陸海空軍あわせて計260カ所への攻撃が行われた。

イスラエルが現在攻撃している北部地域には、3日前から避難勧告のビラが撒かれていたのだが、多くの民間人がハマスの指示で逃げていなかったようである。地上軍が入って来てから南部に避難してくるガザ市民が急増している。

避難所34カ所を提供しているUNRWA(国連パレスチナ難民救済機関)によると、避難民は、18日だけで、2万2000人から4万人に増えている。http://www.bbc.com/news/world-middle-east-28377345 

イスラエルが、境界防衛作戦を開始してから12日目。ガザ地区の死者は、国連によると、少なくとも270人。その3分の2が民間人となっている。

<イスラエルへの攻撃>

地上戦が始まってからのイスラエル領内へのロケット弾、ミサイル攻撃は少なくとも50発。ガザ周辺、アシュケロン、ベエルシェバの他、特にテルアビブには2回、ロケット弾の雨となった。

ベエルシェバで、ロケット弾の金属片にあたった女性が軽傷を負ったが、テルアビブでは、ミサイルのすべてがアイアンドーム(迎撃ミサイル)がカバーした。

<ガザ周辺・現地取材報告>

18日、ガザから4.4Kmのエシュコル地方。住民は地下シェルターに入るよう指示されているためか、通りを歩いている人はまったくいなかった。いやに静かだったが、時に上空をヘリコプターが飛び、戦車の砲撃が聞こえた。

そこから移動中に、イスラエルの戦車がすらっと並んで集まっているところを通った。この地域の地質は表面が砂であるため、砂塵を巻き上げながら、移動している戦車と、その入り口にいる兵士たちなどが見えた。

近くのガソリンスタンドのカフェでは、休憩中なのか、一般の客に混じって、イスラエル兵たちが、普通にコーヒーを飲んでいたり、食事をとっていた。外では若い兵士たちが集まってアイスクリームを食べていた。

ガザから2.5キロのキブツ・エイン・ハシロシャ。昨日、ロケット弾が、このキブツの民家を直撃した。屋根に大きな穴があき、部屋は散乱、砂塵で白くなっていた。

この地域ではロケット弾が発射されてから、実際の着弾まで15秒しかない。実質逃げる時間はないということである。この家の住民は高齢の女性だったが、奇跡的に直前になって家族が連れ出していたため無事だった。

このキブツでは、子供や高齢者を中心に住民の50%がイスラエル北部へ避難しているという。ちょうど夏休みであったことが幸いしている。逃げないで残っているのは男性たちと、牛たち。

ブーゲンビリアが咲き乱れ、パームツリーや緑の木々やしばふがしきつめられ、なにもなければ子供たちがかけまわるであろう美しいキブツである。しかし、今は、人も声もなくひっそりしている。

どどんという、イスラエル軍の大きな戦車砲の地響きのような音が、何度も聞こえた。空気ははりつめ、なんとも不気味な静けさだった。砲撃音にはすぐに慣れてしまったところが恐ろしい。

*ガザからの地下トンネルの恐怖

エイン・ハシロシャで直撃を受けた家を案内してくれたキブツの男性は、「昨日(17日)は、自分の人生の中で一番厳しい日になった。」と言った。この地方の人々を恐怖に陥れたのは、ロケット弾ではない。ガザの地下トンネルである。

17日、ガザからテロリスト13人が地下トンネルを使ってイスラエルへ侵入し、イスラエル軍と銃撃戦になった。その2日後、再びテロリストが侵入したとの情報で、付近の道路は封鎖。住民は家の中にこもるよう指示が出された。男性はそのときのことを言っているのである。

人間にとって何よりも恐ろしいのは、ロケット弾や空爆など、相手の顔がみえない攻撃ではない。本当の恐怖は相手の顔が見えるときである。すぐそばにテロリストがいる。誘拐されるか、近距離で惨殺されるかもしれない・・それが一番恐ろしいのである。

元駐米イスラエル大使のマイケル・オーエン氏は、トンネルの恐ろしいところは、原始的であるということだと言った。

高価な最新技術を誇るアメリカ軍も、アフガニスタンでは、安物の手製の爆弾を防ぎきれずに多くの兵と、軍用車まで失っている。
高度な軍備を持っているからといって、必ずしも優位であるとは限らないのである。

ガザのハマスや、イスラム聖戦は、ガザからイスラエル領内に続く、綿密な地下トンネル網を構築している。そのトンネルを通って、イスラエル国内にテロリストが入ってくる。今回、イスラエルが、地上戦に踏み切った大きな要因が、このトンネルだと言われている。

*当事者の気持ち

キブツ・エイン・ハシロシャからそう遠くないところに、ガザ北部を見渡す小高い丘がある。そこに一本の木があり、ガザを見に来る人々にちょうどよい木陰を提供している。

そこからガザ地区を見ると、ちょうど前にハン・ユニス地区が見える。時々どどんという砲撃。たちあがる黒煙が見えた。記者団と一緒に見ていたのは、付近に住む男性たち。毎日見に来ているという。手にはビールがあった。

おもしろがって戦闘を見に来ているのかと思ったが、顔は非情に深刻で悲壮な感じだったので言葉を失うほとだった。私たちは外国人。イスラエルに住んでいるとはいえ、ミサイルを浴びないか、浴びても迎撃ミサイルで守られている都市にすんでいる。

ガザを目の前にしてトンネルの恐怖と隣り合わせに住んでいる。それなのに政府は効果的な方策をとってこなかった。住民の気持ちを、本当に理解していたとは言えなかったと思った。

<戦闘拡大指示:ネタニヤフ首相>

現時点では、まだガザ地区北部数キロまでの侵攻であり、人口密集地での市街戦にはなっていない。しかし18日、ネタニヤフ首相は、戦闘地域を拡大し、さらに地下トンネルと、ロケット発射地を一掃するよう指示した。

いったん地上戦を始めた以上、今後長期間、ガザからイスラエルへの攻撃が、ミサイルだけでなく、トンネルからの侵入攻撃も含めて不可能になるという目標を達成するためである。

<非難ごうごう:反イスラエルデモと国際社会>

しかし、時間がたつにつれて、ガザへ侵攻するイスラエルへの反発からデモが発生している。トルコはエルドアン首相と国をあげての反イスラエルの発言が続いているが、イスタンブールでは、暴力的なデモにまで発展している。

こうした動きを受けて、イスラエルは大使館関係者を引き上げさせた。ヨルダンでも同様のイスラエルのガザ侵攻に反対するデモが発生している。

18日には、ベルリンで「ユダヤ人の臆病な豚が戦いに出て来た。」といったスローガンでデモが行われた。ドイツではこうした差別発言は違法。 http://www.haaretz.com/news/world/.premium-1.605977

ロンドンでは、親パレスチナアラブ人を中心に、数千人が集まり、イスラエルはガザでの軍事行動をやめるよう訴えた。

今回、BBC(イギリス国営放送)は、ガザ情勢の報道において、一つの出来事に関して、必ずイスラエル・パレスチナ双方の様子を取り上げて、バランスがとれた報道をしている。ロンドンのデモでは、BBCに対して「親イスラエルの報道をやめよ」と叫んでいたという。

BBCはこれについては無視状態。

*イスラエル国内にもいる極左・反戦争主義者 http://www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/183047#.U8nM3KW9DCs

イスラエル国内にも、政府の方針に反対する人々がいる。極左のユダヤ人で、アラブ人とともに「ガザへの攻撃をやめよ。イスラエルは”占領”をやめるべき」と叫んでいる。

大きな集会は、テルアビブで行われたが、ハイファでも行われている。また左派グループは18日、大型バスにユダヤ人、アラブ人が共に乗り込んで、ミサイル攻撃を10年以上も受けている南部都市の一つ、スデロットに来てデモを行おうとした。

これはあまりにも無神経。怒ったスデロット住民に追い出された。

<石のひとりごと:防衛か攻撃か>

今回のガザへの攻撃について、イスラエルは防衛だと主張しているが、世界は攻撃だと非難している。

確かにガザ地区でのイスラエル軍の爪痕は、建物一つ二つを吹き飛ばし、人々はそのがれきの中で家族を失って呆然と立っている。それに比べて、イスラエル側の被害は、屋根に直径1メートルほどの穴があいているか、壁に金属片の飛び散った跡形があるぐらいである。

昨日のガザ国境へのプレスツアーに日本のある報道カメラマンが参加していた。3日ほど前に赴任して来たばかりとのことだったが、カメラ数機の他、ヘルメットや重そうな防弾チョッキなどを持参、フル防備だった。しかし、いくらガザに近くても、イスラエル側ではそこまでの防備を必要とする現場はない。

ガザの悲惨な現場を見た記者たちは、イスラエル側に入ったとたんの平和で、そのギャップにとまどうという。「イスラエルはやり過ぎ」「不必要な攻撃をしている。」と感じるのは、ごく普通のことだろう。

ではイスラエルがしていることは、「不必要な攻撃」なのかといえば、そうではない。イスラエルの平和は、防衛をしているからこその平和であって、防衛していなければ、いまごろ、ミサイルと入り込むテロリストで国内は大惨事になっていたはずである。

しかしそうした事態は実際にはおこっていないので、「イスラエルはやり過ぎ」「ガザ市民への攻撃であって防衛ではない。」と言われるのである。

もう一つの誤解は、イスラエルは、ガザ地区住民の苦しみを無視しているというもの。イスラエルがガザ地区住民の巻き添えを防ぐために大きなリスクを負っているという現実を私たちはわかっていない。

攻め込むこと前にどこに攻め込むかを予告するという事は、自分の軍隊の兵士を危険に陥れる事を意味する。ハマスやイスラム聖戦は、イスラエル軍が来るとわかった地域には、綿密なわなを仕掛けるからである。引っかかれば必ず死ぬという罠である。前回の戦いでは、学校や動物園にまで、死の罠がしかけられていた。

イスラエルはそれを承知で、ガザ市民にいちいち攻撃の前に警告を発しているのである。それでも国連総長は「イスラエルはガザ市民の巻き添えを防ぐためにもっと努力すべきだ。」と言った。

何かどこかおかしい・・・とは思うが、戦争反対ということは、確かに正論である。ガザ周辺に住んでいない限り、イスラエル人の中にも理解しない人々がいるのだから、難しいところである。

<今後どこへ向かうのか:マイケル・オーエン氏>

戦争でハマスを弱体化したとして、その後はどうなることが好ましいことなのか。軍事専門家であり、元駐米イスラエル大使でもあったオーエン氏は、個人的な考えとしてといいながら、以下のように語った。

①今後長期にわたる平穏を維持するため、ガザの正式な管理者として、アッバス議長を強化する。③戦後、ガザにパレスチナ自治政府の治安部隊をおいて治安を維持する。④シリアの化学兵器を排除したように、国際社会が中心となってガザの非武装化をすすめる。

実現はかなり難しそうではあるが、戦争は現状を大きく変えるチャンスにもなりうるとオーエン氏。パレスチナ人の非武装化は、パレスチナ国家設立の条件として、ネタニヤフ首相があげている条件でもある。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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