国内外の反対で延期:7月1日期限の西岸地区併合計画 2020.7.2

西岸地区入植地 出展:CBN News スクリーンキャプチャhttps://www.facebook.com/cbnnews/videos/279461336535881/

ネタニヤフ首相が、7月1日を期限に、西岸地区入植地とヨルダン渓谷(西岸地区の30%・入植地132箇所・イスラエル人45万人)を併合すると言っていた件。案の定、実施されることはなかった。しかし、ネタニヤフ首相は、これは延期したのであって、たとえ一部でも7月中に併合できるよう交渉は続けるといっている。

www.ynetnews.com/article/BkK0WbqRI

イスラエルの主張

この案は、トランプ大統領が世紀の取引と呼ぶ、中東和平案をベースにした取引であった。アメリカは、イスラエルが、西岸地区の30%にあたる入植地の併合を認めるが、その場合、その他の70%の領地は、パレスチナ国家として認めるという取引である。

これについて、イスラエルは、入植地は、今すでにイスラエル軍が守り、イスラエルの法律が適応されている場所であるとして、正確には併合ではなく、主権の確立であると主張。入植地における主権を確立しても、パレスチナ国家の設立は認めないという形で、アメリカに承認をもらうべく、交渉していたとみられる。

しかし、入植地が正式にイスラエルの主権下に入った場合、今後、国際社会に遠慮なくその中での住宅建築を進める可能性も出てくるなど、決して単純なものではない。

加えて、イスラエルもパレスチナ自治政府も、そしてアメリカも、今は、コロナ問題で、手一杯である。結局アメリカは、7月1日が期限だと言った覚えはないとして、先延ばしにする考えを明らかにしたのであった。

しかし、この問題については、アメリカだけでなく、イスラエル内外からもいっせいの反発が出ていたのであった。

7月1日に併合が成立しなかった背景

1)対外的反対

理由は、①アメリカが延期を要請、②パレスチナ自治政府ははじめから聞く耳なしで治安の悪化を警告している、③ヨルダンと、サウジアラビアはじめ、比較的友好的とされる湾岸諸国が、反対を表明、④国連、EUが、正式に反対を表明、⑤最後に、イギリスのジョンソン首相が、「これは国際法に違反する。友人として警告する。」と反対を表明した。

*バチカンがアメリカとイスラエルの外交官を招聘:併合に懸念を表明

フランシス教皇
出展:wikipedia

バチカンのフランシス教皇は、1日、アメリカとイスラエルの外交官を招聘。入植地とヨルダン渓谷の併合案に反対する立場を表明した。

www.timesofisrael.com/vatican-summons-israeli-us-ambassadors-to-protest-annexation-plans/

2)国内からの反発

併合の当事者である入植地住民たちの中には、併合はするべきだが、パレスチナ国家を認めなければならないならば、これを実施するべきでないと訴えるものも多かった。もし今、パレスチナ国家を正式にを認めてしまったら、将来、イスラエルが西岸地区全体を支配する可能性が遠のくとの右派的考え方である。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/282816

一方、ガンツ防衛相は、「今職を失っている100万人は、併合になんの興味もない。」と述べ、今、急増しているコロナ感染拡大、経済対策を優先すべきだと述べて、併合に難色を示した。ガンツ防衛相と同じ青白党のアシュケナジ外相も、30日、「併合?ネタニヤフ首相の問題だ。」と述べ、与党内にも統一ができていなかったのであった。

野党にいたっては、イスラエル我が家党のリーバーマン氏が、「併合は、ネタニヤフ首相が選挙運動に使っただけで、国民全部をバカにしているだけだ。」と、厳しいコメントを出した。

*国家戦略エキスパートアモス・ヤディン氏もブログ内で反対

アモス・ヤディン氏
出展:wikipedia

イスラエル国家治安研究所のアモス・ヤディン氏は、上記国内外の様々な問題に加えて、この併合によって、外交上失うものが大きく、長期的に見た場合、イスラエルの益になるとは考えられないとの分析を発表した。

また、併合を実施した場合、治安の悪化は避けられず、防衛力を割くことになると指摘。ガンツ防衛相が今、最も優先すべきは、シリアで拡大するイランであり、そのための防衛力を温存すべきだと指摘した。

blogs.timesofisrael.com/annexation-is-a-mistake-these-4-people-should-prevent-it/

今後の動き

ネタニヤフ首相は、7月1日からは延期になったが、今後もアメリカとの交渉は続けるとのこと。

今、この問題のために、イスラエルに来ている国連特使のアビ・ベルコビッツ氏と、スコット・レイス氏は、ネタニヤフ首相、ガンツ防衛相、アシュケナジ外相と会談してから、ワシントンに戻り、トランプ政権の中東問題担当のクシュナー大統領補佐官に報告する。

その後、クシュナー補佐官からトランプ大統領に報告があがり、今後のアメリカの対応が発表されることになる。その内容によっては、西岸地区の大きな入植地など一部の地域のみを併合する可能性もあるとのこと。この動きは来週になると予想されている。

ネタニヤフ首相は、これまで3回の選挙運動で、入植地+ヨルダン渓谷の合併を必ず成し遂げるといい続けてきたので、たとえ一部でも、併合をなしとげたいところだろう。・・・というか、ネタニヤフ首相も最初から、そのつもりであったのでは・・・とも思ってしまうところである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。