北部エスカレート:シリアのイラン拠点を大規模攻撃 2018.2.12

シリアでISが消滅しつつある中、以前より懸念されていた通り、イランの進出が明らかになってきた。今やイランは、シリア領内に多数の軍事拠点を構え、その位置もイスラエルとの国境に近づきつつある。

イランの手先ともいえるヒズボラも、今では、レバノンでミサイルを生産するようになっている。こうした状況を受け、イスラエルは、レバノンとの国境に、コンクリートの防護壁を建設し始めた。

これを受けて、レバノン(実質ヒズボラ)は、防護壁がレバノン領内に入り込んでおり、停戦協定に違反すると反発した。イスラエルは、壁はイスラエル領内に建設しているとして、これを一蹴。壁の建築を続けている。

2月6日、ヒズビラは、イスラエルのガス油田全域にミサイルの照準を合わせたと脅迫するビデオやクリップをネット状にアップ。ちらしも配布した。いうまでもなく、これは非常に危険な事態である。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5094365,00.html

北部情勢が緊張するのを受け、2月6日、ネタニヤフ首相は、ゴラン高原を視察。シリア国境を見下ろすアビタル山で、治安閣僚10人とともに、防衛体制の確認を行った。

この時、ネタニヤフ首相は「イランは、イスラエルを試さないほうがよい。」との警告を発した。

www.timesofisrael.com/on-northern-border-netanyahu-warns-enemies-dont-test-us/

こうした中、安息日の土曜11日、早朝4時ごろ、シリア領内のイラン軍事基地から放たれたドローンが、イスラエル領内に侵入。1分半飛行した時点で、イスラエルの軍用ヘリがこれを撃墜した。

この直後、イスラエル戦闘機F16、7-8機が、緊急発進し、このドローンを放ったとみられるパルミラ近郊の軍事基地T4を含むシリア政府関連空軍基地8箇所、イラン関係の拠点4箇所など、少なくとも12箇所を爆撃した。

これに対し、シリア軍が、地対空ミサイル15-20発で応戦。イスラエルのF16機のうち、一機に当たったとみられる。

攻撃を受けたF16は、幸い、なんとかイスラエル領空まで戻ったところで、パイロット2人は機外へパラシュートで脱出。下ガリラヤ地方の山中に落下した。F16の機体は、イズレエル平原のキブツ近くに墜落、大破した。

脱出したパイロットは、ハイファのランバン病院に搬送された。1人は軽傷。1人は重症だが、落ち着いている。F16の墜落地点は、道路すぐわきの空き地で、子供達の学校からわずか20mの地点であったが、早朝であったためか、地上に負傷者はなかった。

この後、ベイトシャンなどヨルダン渓谷、ゴラン高原でも何度か警報がなり、住民はシェルターに駆け込んだが、午後には帰宅が許可された。今日は安息日でもあったため、ヘルモン山は、雪を楽しむ人々でいっぱいだった。ここでも一時、警報が鳴った。

大きな戦争へのエスカレートが懸念される中、各地で、予備役兵が徴兵されているもようで、記者の教会からもユースリーダーのTさんが、呼び出しを受けて軍に出向いたとのことであった。

www.mako.co.il/news-channel2/Weekend-Newscast-q1_2018/Article-6ba7907e9218161004.htm?sCh=4fe06603e7478110&pId=25483675

<イラン、ヒズボラ、シリアの反応>

イランの外相は、イスラエルがイランのドローンを撃墜したと主張していることについて、「ばかばかしい」と否定。イラン革命軍のホセイン・サラミ副長官は、「イランは、中東のすべてのアメリカ軍基地を破壊できる。そうなれば、シオニスト(イスラエル)は地獄の沙汰となるだろう。」と脅迫した。

イランのロウハニ大統領は、「テロ(イスラエルの空爆)を行ったり、他国のことに介入し、隣国を攻撃することで解決しようとするのは間違いだ。」と語った。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5104644,00.html

シリアも、イスラエルが、イラン製のドローンが侵入したから反撃したというイスラエルの主張を否定。地対空ミサイルで反撃したのは、イスラエルが、何もないのに攻撃してきたことへの防衛だと主張した。

シリア軍兵士らが、イスラエル空軍機の撃墜を祝ってスイーツを配って祝っている様子も伝えられている。

ヒズビラのナスララ党首は、イスラエルの戦闘機を撃墜したことを高く評価し、「これまで、イスラエルはシリア領空に入って攻撃を行った来たが、これまでのようにはいかなくなった。新しい時代が到来した。」と語った。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5104644,00.html

南レバノンでは、イスラエルに向けて、「おまえの戦闘機を撃墜した。」とバナーを掲げ、戦闘員らが、ヒズボラとイランの旗を掲げて、レバノンとの国境を警備しているイスラエル兵を挑発した。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/241770

<イスラエル軍による状況分析>

イスラエル軍によると、先に撃墜したドローンは、イランの無人飛行機型で、非常に精密なものであった。しかし、武器は搭載しておらず、情報収集目的であったとみられる。

トメル副長官によると、今回のシリア領内の12箇所にも及ぶ大規模な攻撃は、1982年の第一次レバノン戦争以来の規模であり、戦闘機が撃墜されるのも、それ以来だった。

その大規模なイスラエル軍の攻撃によるシリア、イラン軍への被害の実態は不明だが、バル・トメル副長官は、かなり大きな痛手を与えたとみている。

イスラエル軍に攻撃された軍旗基地T4は、シリア空軍とともに、ヒズボラ、イランの拠点でもあり、ロシア軍も駐屯していた。攻撃の際は、ロシア軍には被害を与えないよう、かなり高度な技術を要するピンポイント攻撃であったと伝えられている。

今回、このように、ドローン一機が、1分半侵入しただけで、即、大規模反撃に出たことで、イランに、イスラエルを甘く見てはならないと大きな釘をさした形である。

しかし、これまでシリアは、イスラエルの空爆を受けても反撃はしなかった。それが、今回は堂々と地対空ミサイルを使用した。これまで、イスラエルは、シリアからヒズボラへの服搬入阻止を目標とする空爆作戦を繰り返してきただが、今後、作戦変更を余儀なくされるだろうと指摘されている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5104845,00.html

www.timesofisrael.com/israel-caused-serious-harm-to-syrias-air-defenses-says-iaf-second-in-command/

*戦争になった場合どうなるのか

イスラエルがこれほど大規模に反撃に出たのは、もし今度北部で戦争になった場合、これまでになかったほどの大きな人的被害が出る恐れがあるからである。

ヒズボラが保有するミサイルは短距離、長距離、誘導型など13万から15万発。イスラエルに撃ち込まれるミサイルは、1日平均1500から2000発になる。2006年の第二次レバノン戦争では、1日平均130-180発だった。

しかもミサイルは以前より性能も搭載する爆弾の量もかなり増えている。

もしミサイルが発射された場合、イスラエルは、直ちにその地点を空爆し、2回目の発射がないようにするのだが、ヒズボラは、ミサイルをレバノン南部にある200ほどの村々に配置している。

イスラエルは、F16に加え、最新型のF35での空爆に加えて、アローミサイルも使って、南レバノンを文字通り破壊し尽くすことになる。イスラエルが意図しなくても、非常に大勢のレバノン市民を死亡することになる。

さらに懸念されることは、戦争開始と同時にヒズボラの戦闘員がイスラエル北部に侵入することである。ヒズボラはシリア内戦でかなりの戦闘員を失ったが、イスラエル攻撃用の戦闘員はしっかり温存している。

これらの戦闘員は、南レバノンだけでなく、シリア南部(ゴラン高原南部)にも1万人が待機していると、昨年9月にヒズボラの司令官が豪語している。これらが、イスラエル領内に侵入してくることが懸念される。

もし戦争になった場合、イスラエルは、ただちに何千人もの北部国境付近の住民を避難させることになるとみられている。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Rockets-missiles-and-more-Predicting-the-third-Lebanon-war-542171

<ネタニヤフ首相声明:衝突の責任はイランとシリアにある>

ネタニヤフ首相は、11日夜、ネット上に次のような声明を出した。

「これまでから、イランがシリア領内に進出してくることについて警告を発してきた。イランは、シリアにある拠点を使ってイスラエルを攻撃し、イスラエルを亡きものにしようとしている。

今朝、イランはイスラエル領内にドローンを送り込んできた。これは、私の警告が、100%正しかったことを証明している。今日の武力衝突の責任は、イランとそのホストであるシリアにある。イスラエルは今後も、できる限りの防衛を行う。」

www.timesofisrael.com/netanyahu-israel-will-not-allow-iranian-entrenchment-in-syria/

<ネタニヤフ首相:プーチン露大統領、ティラーソン米国務釣果に連絡>

11日の衝突後、ネタニヤフ首相は、まず、プーチン大統領に連絡を取り、衝突が拡大しないよう、介入を求めた。また、シリア領内からのいかなる攻撃にも対応すると強調。それについてのロシアの了解と協調(妨害しない)は継続されることを確認した。

ロシアはシリアから撤退したが、今も、一部の軍をシリア内に駐留させており、シリア、イランに強い影響力を持っている唯一の国である。

ネタニヤフ首相は1月31日にも、モスクワのプーチン大統領を訪問。イランのシリア進出に関する懸念を伝えていた。その後、ネタニヤフ首相の招きで、ロシア軍高官らが、イスラエルを訪問していた。

続いて、ネタニヤフ首相はアメリカのティラーソン国務長官にも連絡をとった。ペンタゴン(米国防総省)は、イスラエルは中東でもっとも関係の深い同盟国であるとして、イスラエルの自衛権を支持する。」と表明した。

なお、数ヶ月前、ロシアとアメリカは、シリア領内に停戦地域を設けることで同意した。しかし、この合意では、イランがイスラエル国境付近にかなり近づいてくる可能性が残ってしまうものであった。

この時、イスラエルは、停戦地域付近どころか、シリア全域からイランが完全に撤退することを要求したが、プーチン大統領は、「イランにはシリアに軍事基地を持つ権利がある。」として、とりあわなかったという経過がある。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5105093,00.html

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。