凧からロケット弾へ:緊迫するガザ・パレスチナ情勢 2018.6.20

ガザから危険な凧やバルーンがイスラエル南部に飛来し、被害を及ぼし続けている。この週末も、48時間で40カ所が火災の被害を受けた。このため、イスラエル軍は、月曜、ハマス拠点8カ所に空爆を行った。この際、ガザからロケット弾による反撃があった。続く日中には、凧やバルーンによる攻撃が続いた。

このため火曜夜、イスラエル軍はさらにガザのハマス関連11カ所への空爆を実施した。この翌水曜深夜以降、今度はガザから45発に及ぶロケット弾がイスラエル南部地域に撃ち込まれた。

アイアン・ドーム迎撃ミサイルシステムが、多くを撃墜し、人的被害はなかったが、いくつかはエシュコル地方に着弾。道路や、幼稚園近くにも着弾し飛散した金属破片で窓が割れ、建物にあとかたを残している。

この攻撃に対し、水曜夜間のうちにイスラエル軍もガザのハマスや地下トンネル施設など25カ所への空爆を行った。

イスラエル南部住民は、これまで凧による攻撃に対し、政府がなまぬるい対処しかしておらず、南部住民を見捨てたも同然だとの批判を出していた。このままガザとの戦争に発展していく可能性が懸念されている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5292044,00.html

<ハマスの新戦略か>

今回、ハマスは新しい戦略に出ているとの見方がある。

まずは凧による攻撃があるから、イスラエルが反撃として空爆するのだが、それに続くガザからのロケット攻撃は、イスラエルの攻撃に対する”反撃”に見えるのである。実際にはイスラエルの空爆が反撃なのだが。。

最初が凧攻撃であるのに対して、イスラエルの反撃は戦闘機なので、国際社会からの同情はハマスに集まると予想される。

そのためか、イスラエルの空爆は現在、ハマス関連施設だけで、実際に凧をあげている地点は狙わない方針をとっている。それをすると、若者たちが死傷する可能性があり、そうなると、本当に大きな戦争へと拡大し、国際社会の非難はイスラエルに集中することになる。

このようにイスラエルが大きな戦争を避けようとしていることを読んだハマスが、これを手玉にとり、イスラエルの空爆があってからロケット弾を発射して、いかにも”かわいそうな反撃”にみせかける新しいパターンを始めたと分析する記事もある。

イスラエル国内には、凧を飛ばせないよう、そのサイトを攻撃するべきだとの意見もあるが、非常に難しい状況であり、知恵が必要になっている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5292185,00.html

<ガザのハマスにイランの影?>

ガザのハマスの動きが、これまでよりアグレッシブになっている気配がある。ハマスは、これまでカタールを最大の支援国としていたが、そのカタールがサウジアラビアなど湾岸諸国から、村八分にされ、今は向いにいるイランと組むようになった。

ハマスは、2011年、シリア内戦の際に反政府勢力の側についたことでイランからは見捨てられたのだが、カタールの動きに合わせて、イランとの関係を回復。ハマス指導者の一人シンワルは、昨年、ハマス最大の支援者はイランであることを明らかにしている。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Renewed-Hamas-Iran-ties-make-risk-of-two-front-war-more-realistic-542362

こうした中、アメリカが大使館をエルサレムに移動させると発表したことを契機に、国境でのデモが発生するようになったわけだが、5月14日に米大使館の移動が完了し、ラマダンも終わると、ガザ市民たちの参加はなくなり、士気もおちているようだとの報告もあった。

今は、過激な者たちだけが、焼夷力のある凧やバルーン、コンドームまでバルーンにしたてて、イスラエル南部へ飛ばし続けている。

こうした流れからすると、もはやハマス自身の能力を超え、ましてやガザ市民の思いとは別の次元で、イランがハマスを動かして、イスラエルを攻撃させているのではないかと思われなくもない・・・。(石のひとりごと)

<西岸地区でハマス20人検挙>

ハマスの攻撃性の悪化は西岸地区でもみられる。イスラエル軍は、エルサレムやテルアビブでの爆破テロを企てていたハマス・グループを、ナブルスで検挙したと発表した。

検挙した爆弾は10キロ、15キロとかなり大きく、スマホによる遠隔操作で爆破できるものであったという。検挙されていなかったら、大惨事になるところであった。

西岸地区においてもハマスが、真剣にイスラエル攻撃を計画していることは明らかだと、シンベト(イスラエル諜報機関)は語っている。

こうしたハマスのテログループ(17人)は1月にも西岸地区で検挙されている。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Security-forces-foil-Hamas-cell-planning-significant-attacks-across-Israel-560186

<シリア情勢との関連>

イスラエルは、今、シリア、イランとの対峙を含む北部と、南部のガザ情勢と2つの局面に立たされている。この両方にイランが関係しており、どちらかで火の手が上がれば、両方に対処しなければならなくなるとみられている。

南部ガザ情勢が緊迫している今、北部シリア情勢もまた緊張が高まり始めている。

シリアでは、南西部、つまりはイスラエル近い地域にいる反政府勢力に対し、アサド政権軍とその背後にいるイランが協力して、大きな攻撃を計画していると伝えられている。

イスラエルの要請を受けて、ロシアが、シリアからの外国勢力をすべて追放する方向で働きかけるというような話もあったが、アサド大統領はロシアはそのようなことは考えていないと否定。ヒズボラもアサド大統領が望むならいつまでも駐留すると言っている。

徐々に北部国境に近づいてくるイランに対し、イスラエルは、密かにシリア領内への攻撃を続けるほか、できるだけの対処を行なっている。(前回のネタニヤフ首相のイラン包囲網を参照)

アメリカの情報によると、19日、イスラエルは、シリア領内にいるイラク軍(イラン支援による武装軍)を攻撃したもようである。これにより、イランから地中海への通路が妨害されたとのこと。

あまりニュースにはなっていないが、イスラエルは、その生き残りをかけて、シリア領内ですでにイランとその関係勢力に対し、十分、武力行使を行っているようである。

www.jpost.com/Middle-East/Iran-News/Cutting-off-Irans-road-to-the-sea-in-Syria-560304

*元イスラエル閣僚がイランのスパイ!?

イランとの関係が緊張をましてきたこの時に、元ラビン政権下で、エネルギー/インフラ相であったゴネン・セゲブが、イランのスパイ活動をしていたと疑いがあるとして拘束された。

調べによると、セゲブは、2012年にナイジェリアでイランとのコネクションを持ち始めた。イスラエルのエネルギー関係や治安情報をイランに流していたとみられているが、逆に、イランの情報を得ようとしていたと主張している。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5290624,00.html

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。